アクセサリーを探して③
先輩が好きなアイドルのCDのジャケット写真を見て真っ先に思ったのは、
面接に来ていた彼の事でもサクマ君の事でも無く、交差点で出会った彼の事だった。
すぐに気づけなかったけど、分かった時には自分の中で時が止まり、
まばたきを忘れ、呼吸が一瞬止まり、思い出した時に目をぱちぱちさせた。
メール受信1件
あれから数か月が経ち、間もなく忘年会やらで盛り上がる頃になった。
あの衝撃的なCDを見てから、SNOWMAN好きの先輩に話を合わせられるくらいまでに名前と顔は覚えておいたが、
結局先輩は婚活相手に夢中になり、今ではアイドルはおざなり状態になっている。
ジャケット写真を見て、”絶対に本人だ”と思ったが、
”やっぱり他人のそら似だよね”と思い直した。
そして私は人事課として来期も東京で生きていくんだな、と内部異動の無さを察し、
ようやく友人を作ろうと、東京住みの旧友や大学時代の友人に連絡を取り、会い始めていた。
*
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件名
大阪のホテル予約願いです
本題
お久しぶりです。
明日大阪に泊まりに行く事は決まっていたんですが、
宿泊先の予約が出来ていなかったみたいで、
「僕ホテル関係の知り合い居ます」って言ってしまったんで、
どうにかならないものでしょうか?
電話してくださると話が早いので、連絡下さるとうれしいです。
TEL:〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇〇
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”だ、誰だ?
社用メールにこんな私用感丸出しのメールをしてくるなんて、新入社員か?”
金曜日の午後16時。
定時まであと1時間の時間を
精一杯業務に集中している時に、メール1件を受信した。
面倒そうな案件の為、クレームになることを恐れ
手っ取り早く終わらせようと、今進めている仕事を中断して事を進める。
たしかにメールのラリーは遅くなりそうだから、電話してしまおうかと思い、
念のため大阪のホテルには
「三連休の初日の土曜日、ネット予約できない部屋があと何部屋残っているか」
を営業部に確認したうえで電話をかけた。
*
「あ、先ほどメールを頂きました本田と申します」
もしかしたら、取引先の人かも知れない。
そう思ってしまうのは人事課に慣れた証拠だなと思いながらも、緊張感あふれる電話をした。
「あ、お姉さん。折り返しの電話ありがとうございます」
その声を聴いた時にすぐに分かった。
ずっと忘れていた思い出の蓋が開けられた様な感覚で、
相変わらず私の耳に合う良い声してるな、と感じた。
私用だなと分かったので席から立ち、休憩室のコーヒーマシーンの前で話を進めようと歩き始める。
「・・・あの、その・・・確認ですが、嵐のストラップを」
「拾った者です」
「・・・あーやっぱり・・・」
名刺捨ててなかったんだね、とか、結局キミは何者なの、とか
沢山聞きたい事はあったけど、それよりも何故か安心して肩を下ろした。
いつの間にか喉の渇きは無くなり、鼓動が落ち着いてくるのが分かる。
「すみません、今急いでまして。先ほど送ったメールの件なんですけど」
「あ、大阪のホテルですよね。何名様ですか?1泊ですよね?」
「いや、その・・・。30人くらいなんですけど。それも2泊・・・」
・・・ん?
時が止まったかのように足が止まり、脳内だけは冷静になろうとしたが、なれなかった。
”何言ってるのこの子?30人?3連休初日の土曜日に30人?それも2泊?
いやいやいやいやいや。・・・え?”
現場を離れてからの予約願いで緊張もあったが、
それよりも、はるか上をいくお願いの為、思考回路が追い付かない。
「本当にすみません」
「・・・あ、あの。その、何とか手配してみますが、現時点で必ず宿泊可能ですとは言い切れないので、詳細など聞いても良いですか?
それとも、別の方と代わりますか?」
「・・・そうですね、代わりましょう」
「ちなみに、きゅうきゅう詰めの部屋になっても大丈夫ですか?」
「なにも文句言いません!お金の面も気にしないです!」
「・・・当たり前です。3連休の初日ですよ」
ふふと笑わせてくれる何かがあり、変わらずの低姿勢と、変わらずの優しい感じのトーンで、あの懐かしい感じを匂わせ、私の心を落ち着かせた。
「では、別の方とやり取りさせていただきますので」
そう伝え、代わる方の名前と電話番号を聞き取り、
折り返しする前に、近くの系列ホテルの空部屋も一旦販売停止にしてからにするから、少し時間を要することを伝えた。
「あの」
切ろうとした直前、声を掛けてきた。
はい、とだけ応えると
面倒に巻き込んで申し訳ないという謝罪と、助かりましたという心情を明かされ、
嫌々ではなく心から助けてあげたい、と思わせる何かがあった。
「・・・何かあったら頼ってくれと名刺を渡しておいたのは私ですし、これくらいの恩返しはさせて下さい」
あれ以降も私の「嵐」ストラップは、共に生き続けられている。
全て、貴方のおかげ。その気持ちを秘めて、ゆっくりとお礼を伝えた。
「・・・ところで、名前はなんて読んだらいいですか?」
「え?名乗ってなかったですか?すみません。僕、阿部といいます」
”やっぱり阿部かー。ぜっっっったいSNOWMANの阿部だよなー”
そうはっきりと自覚できたが、正直この際どうでもいい。
「阿部さんね。あ、この電話番号は社用携帯?」
なーんて。と笑いながら伝えると、阿部さんも笑っており、居心地の良い時間に感じた。
「これはプライベートなので、登録は出来たらしないでください」
「あ、社用じゃないの?分かりました。では、先ほど頂いた連絡先だけ登録して、この電話番号は削除しておきますね」
「最後まで恩に切ります」
とんでもない。
大阪旅行、楽しんできて下さい、とだけ伝え私から電話を切った。
*
その後はすぐに大阪のホテルの手配やら、なにやらで慌ただしく、
現場からの電話が鳴りやまず、おかげで従業員の中で最後に退勤する初めての日になった。
もうあと数時間早めに連絡くれたらよかったのに、とか、正面入り口使えないって聞いたけど何者?とか
元同僚からのメールも散々に荒れていた。
「なんか大変そうだったが大丈夫か?」
と先輩からのメールがあり、目配りをいつまでもしてくれる素晴らしい先輩の元で働けている事に感謝した。
が、SNOWMANの宿泊先を手配していたなんてことは口が裂けても言えなかった。
「生SNOWMAN泊まりに来た。かっこよすぎて、この部屋に居るのかと思ったら一日中そわそわして仕事にならなかった」
と、翌日に元同僚から連絡があり、大変だったねと返信をしたが、
やっぱりSNOWMANだったか、と回答用紙にようやく◯が付いた気がした。
まぁ、確かに
もし自分の勤めるホテルに居るとなると、ミーハーでなくても意識くらいはするよね、と思いながら、
”まぁ、問題が無かったなら良かった”と思う事で、この一件はあっさりと幕を閉じた。
チョコレートに牛乳
マネージャーさんや会社関係の方が、こんなミスを犯すことはありえないと思っていますが
まぁ、小説の中だし良いかと思って書きました。
もし、芸能界関係のマネージャーさんが拝読されていたら、まず謝ります。ごめんなさい。
SNOWMANの誰にしようかなと考えました。
偏見ですが、「嵐さん」って言ってそうな事と、敬語が似合うのが阿部さんかなと思って彼にしました。笑
阿部亮平さん。
同い年という事もあり、これからのご活躍心から楽しみにしています。
バラエティー班ではなくて、ドラマ班としても活躍して欲しいところ。
ドラマ制作の方々、起用よろしくお願いしまーす。笑
深く帽子をかぶってなさそうだし、本文との印象が大きく違う点があるかも知れませんが、ご了承下さい。