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初恋相手の婚約報告は涙が出るほどに喜べた。
私の人生で一番長い恋は初恋だったに違いない。
何故この事を書こうと思ったかと言うと、
その相手が先日婚約し、結婚式にもご招待下さると連絡が来たからだ。
初めに言っておく。
心からのおめでとうを叫ぶよ。
一生、幸せにして貰ってね。
*
私の初恋は「恋に落ちてはいけない相手」だった。
あいつと私の出会いは高校3年の冬。
大学入学前オリエンテーションの同じ教室、たまたま同じ班だった。
女子高に通い、男子慣れしていない私の壁を
軽く、本当に軽く飛び越えてくるほどに騒がしい奴だった。
授業内容は全く覚えていないが
「こいつ、彼女居るから調子乗ってんねん」と友人A君が茶化していて
その時に、この人とは恋をしてはいけないと悟った事は明確に覚えている。
そう。
脳内では分かっていた。
恋をしていけない相手を好きになったことを。
*
入学して一番初めに「お前」と呼んできたのはあいつだった。
寒い時に上着を貸してくれたのもあいつだったし、
二人乗りを初めてしたのも、あいつの運転だった。
ツッコミを入れるタイミングが同じ過ぎたのもあいつだった。
あいつを好いてる女子から嫌がらせを受けた時も、きちんと謝ってきた。
困った時にいつも元気ないやん、と気遣ってきたのもあいつだった。
深夜3時にサッカーをしたのもあいつとだった。
郷ひろみさんの「言えないよ」を校門前で歌ったのもあいつとだった。
ほしの数程ある。思い出なんて。
ただ、周りの友達もあいつも、
私があいつの事を好きなことくらい、当然の事のように知っていた。
見ていたら分かるらしい。
それ程に、目で追っていたのだと思う。
けれど私は言わなかった。
どうしても好きとは言えなかった。
*
あいつを好きになって1年以上が経った夏の頃、
「男女の友情はあると思うか?」
そう尋ねてきたイケメン男子が居た。
「あると思う」
そう答えた私に、彼は言った。
「俺はないと思う。限りなく無いと思う」
衝撃的な話だったが、そのおかげで目が覚めた。
恋人じゃなくて、一生の友達でいて欲しい。
それがあいつとの関係性の願いだ、と気づいた。
もう一度言う。
私の初恋は長かった。
およそ1年と半年だが、
好きな相手を次の日に「ただの異性の友達」として見る事に慣れるまで半年かかった。
つまり、私の初恋は2年続いた。
こんなにも好きで、気が合って、話しやすくて、楽しくて、最高のあいつを
彼氏では無く、一生の友達にしたい、と思った時は、心が押しつぶされそうになる程に苦しかった。
顔を見れば、いつも好きだと思えた。
あの時は、この決断が吉なのか凶なのかさえも分からなかった。
大学を卒業したら離れてしまうんじゃないかとも思った。
それでも私は言わなかった。
絶対に言わなかった。
違う人を無理やり好きになろうと決め、対して好きでもない相手とデートを繰り返した。
*
あの初恋の2年は、私にとって決して無駄では無い。
人を好きになる意味を、歓びを、幸せを教えてくれたのは、
紛れもなくあいつだった。
心から感謝をしている。
そして、心から、
高校3年の冬から出会っていて良かったと思えている。
今の私たちの関係は
私からの一方通行の淡く儚い恋心が叶う事も、伝える事もなく、
「友達」のポジションに持っていき、
お互いが切磋琢磨し、尊重し合える、そんな関係がもう8年近く続いている。
何かあれば年に数回会い、馬鹿笑い、
相変わらずタイミングがバッチリ合う、気の合う友達になれた。
*
あの時は分からなかった。
この運命が吉か凶かなんて。
でも今ならハッキリと分かる。
あの時、彼を恋人では無く一生の友達になる様に仕向けた事は
紛れもなく私の財産になるだろう。
ねえ、数年前のわたし。
あいつとの縁は恋愛沙汰で切れる事なく、
手を重ねる事は無かったけれど、
隣で今も歩いてくれる大切な友達になってるよ。
あなたの選択は間違っていなかったよ。
チョコレートに牛乳
婚約おめでとう。
お相手は会った事ないけど、貴方がそこまで惚れる人なら素敵な方なんだろうね。
本当に涙が出るほどに嬉しいよ。
幸せになって下さい。
「誰よりもキミが近すぎて、好きだなんて言えない」関係を、
見て見ぬふりしてくれた事、感謝してる。
またいつか、校門前で、他の誰かを想いながら歌おうね。