ペクトラジ 第九部「練兵場の春」
パク家の出逢いから二年が経過した。
毎年、練兵場は一面のクローバーで敷き詰められていて、春ともなると、練兵場一面にクローバーの花で満たされる。
剛はクローバーの花をつみ、
母親の明子から教わった花飾りをつくりはじめた。
不器用な手つきで出来上がった冠はぐにゃぐにゃで見栄えが悪かった。
それをヨドセの頭にかぶせた。
少女のきりりとした目はほころび、あたりをピョンピョン駆け回りながら歌った。
「トラジ・トラジ・ペクトラジ~」
「ヨドセ~、それはなんという歌じゃ~?」
「オッパ~、トラジちゅううたじゃ、大切な花かざりじゃよ~、うちのかあちゃんがそう言うちょった。」
少女は結構下関弁が達者である。
そして、こんどは部落民少年少女五~六人で練兵場を裸足でその歌を歌いながら走りまわった。