夢見る乙女じゃ愛も誓えない
「本日入籍しました。」
LINEのタイムラインに躍り出たその言葉に、わたしは目を疑った。
そして驚きの次に抱いた感情は、一抹の寂しさだった。
タイムラインの投稿主は、新卒の時に入社したT社の先輩であるY美さん。先輩なんだけど、わたしより確か5歳も年下。※1
T社はブラックで元ヤンが居心地よい気風だったこともあり、真面目で清楚なわたしやY美さんはとっくに退社している。
だけど、しばしば連絡を取っていた。恋愛への姿勢に似ている部分があったし、共通のオタク的趣味があるからだ。
9月で28歳になる彼女の現代としてはやや早い決断を目にし、わたしは居ても立っても居られず筆を走らせているのである。
※1 わたしが院卒で彼女が高卒なのでそういったやや複雑な関係性になっている
●女の賞味期限=クリスマスケーキから年越しそばへ
女子の初婚で28歳って遅くない⁉
そう思った方もいるでしょう。
でも、現代の女性の平均初婚年齢は30歳くらいのはずだから、平均よりはやや早いことになる。※2
かつては女性の賞味期限はクリスマスケーキに譬えられた。
クリスマスケーキの売り時は23、24日。25日を過ぎると値下げシールを貼られる。それと同じように、女性も25歳を過ぎると価値が下がると言われてきたのだ。
でも、それはわたしが子どもだった頃の話。
現代は年越しそばの売り時である31日(31歳)が女性の賞味期限であり、そ
れを過ぎると価値が下がると考えられているのだそう。
賞味期限よりもやや余裕を持って嫁ぐY美さんは賢いな。
わたしはハンカチを噛みながらそう思うのだ。
でも、同時に世論に苛立っているわたしもいる。
男性の賞味期限はあまり言われないのに、どうして女性だけ言われるのだろう。男性だって30歳を過ぎればお腹は出てくるし頭髪も薄くなってくる。
天下のジャニーズ様だって今をときめく俳優さんだって、30歳を過ぎれば若い子と比べると見劣りをする。
賞味期限は男女平等にあるものじゃないか。
※2 厚生労働省の調べによると、平成23年の女性の平均初婚年齢は29.0歳。令和二年の現在がそれより若くなっているとは考えがたいという筆者の想定によるもの。
●今でも白馬に乗った王子様を夢見るわたし
わたしとY美さんの違いは、王子様への幻想を持ち続けるか否かだ。
Y美さんは当然後者。彼女はジャニーズが好きで毎年コンサートに行っている。そんな王子様を追いかける系女子なのに、現実では見切りをつけて王子様ではない男性と結ばれた。
そしてお察しの通り、わたしは前者だ。王子様への幻想を持ち続けている。そろそろユニコーンでも見えてきそうだ。ユニコーンに気づかれたら、わたしはむごたらしくお腹を突かれてしまうけど。
わたしは25歳の時に抱いた淡い想いを引きずっている。その想いが実ることは100%ないけれど、当時のことが焼きついて他の恋に挑めない。
そもそも理想が高すぎてなかなかその気になれないというのもあるけれど、「王子様以外の男は性的対象としてしかわたしを見ていない」という考えがわたしの中で固執しているのだ。
わたしの恋愛に対する姿勢は25歳で止まるどころか、17歳くらいに若返ってしまっている。
ただひたすらに王子様という幻想に囚われている。
一方のY美さんは恋の失敗に怯まず、着実に前に進んでいた。
わたしの知る限り、Y美さんには彼氏及び彼氏一歩手前のような男性が20歳くらいからの8年の間に4人はいたと思う。(ダブっていた人はいないよ!)
傷を負ってもお酒やらジャニーズやらで癒し、次々と新たな恋に挑んでいった。その成果で入籍に至ったのだ。
思えば、わたしは街コンや合コンで出会った男性とその後会うことはほぼしなかった。たとえ一対一ではなくグループでの交流を求められても、ことごとく断ってきた。
25歳で負った傷が癒えたような気がした27歳の頃に1,2人の男性と会ったこともあるけれど、「ときめかない」という理由で連絡を絶ってしまった。
それ以降、出会った男性とのその後は一度たりとも持てなくなった。
でも、Y美さんは精力的だった。少しでもいいなと思った男性がいれば、その後食事くらいは行っていたらしい。一度でも食事に行った男性を含めれば、4人どころではないだろう。
そりゃあ出会いの分母が大きければ入籍の可能性は広がるし、男性と関われば関わるほどに女性としての魅力は高まる。
そう。Y美さんが適齢期で入籍できたのは、Y美さんの努力の賜物なのだ。
わたしもそろそろ前に進まないといけない。
気づいていても、白馬に乗った王子様の夢から醒めることはできない。
●幸せの在処は無限大
現代において結婚が女の幸せとは限らない。
それは、人々に夢を与えるディズニーだってそう言っている。
かつてのプリンセスの物語は王子様と結婚するところで終わっていたけれど、近年のプリンセスの物語である「アナと雪の女王」では違った終わり方をしている。
優秀で特殊な能力を持つエルサは男性の陰すら見えないし、恋を夢見ていたアナも大失恋をしている。また、どちらも男性に頼らず自ら(あるいは姉妹の力を借りて)勝利をおさめている。
そもそもよーく考えてみたら、わたしはウエディングドレスやチャペルや披露宴には憧れるけれど、結婚にはそこまで憧れていない。
好きでもない男のために家事をして慎ましい妻でいるなんてストレス溜まる一方だし、それに加えて共働きまで求められたら三行半突きつけてしまいそうだ。
そんなわたしだから、妥協してまで結婚したいとは思わないのである。
それに、現代は独身でも肩身の狭い思いをすることが減った。
ひと昔前は適齢期で独身の男女が居ればお見合いをさせるお節介オバサンがそこら中にいたそうだけど、今はそうでもない。そういった要素もあり昔より独身者が増えてきているから、肩身狭い思いをすることが減ったのだ。
お節介オバサンが絶滅危惧種になってくれて、王子様を夢見るこじらせ女子はとてもありがたみを感じている。
正直言うと、子どもは欲しい。でも、愛しい王子様との間に芽生えた子どもしか愛する自信はないし、そもそも王子様としかそういう行為はしたくない。
だからわたしは、趣味や仕事に奔走しながら白馬に乗った王子様と巡り合える日を夢見続けるのだ。