「楽しい」仕事も「楽」じゃない

――拝啓、コロナ禍で人生を悩んでいる方や、いつか趣味を仕事にしようとしている若い方へ。

私事だが、転職をしてから半年ちょっとが過ぎた。
経験者採用というか、我ながら即戦力だったもので、新しくできた後輩を愛でながらバリバリと働かせてもらっている。

そんなこんなで仕事内容は変わらず、アニソンの音楽配信だ。
もちろんアニソンは大好き。さらに何より私はオタクの方々と関わることが本当に好きなので、知識やスキルを活かしながら「楽しい」「好き」をファンの方々と分かち合える今の仕事は心底天職である。
あいにくインタビューのような表に出る機会は減ってしまったけれど、自分が提案した企画をSNSでエゴサをしてファンが喜んでいる様子を垣間見たり、遠巻きながら関わった作品がランキングで上位に入っていたりすると、些細な苦労などすべて忘れられる。
お金とは違う形で報われる努力があることは、仕事としてなかなか悪くない。

だがもちろん、好きなことを仕事にすることは楽しいことだけではない。
特によく心に引っ掛かるのは、別業界で働く友人からの何気ない言葉である。

「ねぇねぇ、オンライン飲み会でもしようよー!」
「あー、その日はちょっと仕事が夜10時くらいまで長引きそうなんだよね……。」
「えー、思ったより長いねー。」

気にしすぎなのかもしれない。
気にしすぎなのかもしれないが、何故か、毎日定時に終わる仕事だと思われている。何故だ。

「楽しい」と「楽」は違う

度々似たような言葉を友人から受け取っているうちに、ようやく気が付いた。
「楽しい」仕事ではなく、「楽」な仕事だと思われているのだ。

もちろん私の仕事はけして楽ではないし、友人に対しても仕事が楽だなんて一度も話したことはない。
ただ「嬉しい」「幸せ」「楽しい」という話はよくしている。
そういったポジティブな単語がいつの間にか、「毎日定時に上がれる楽な仕事」と解釈されていたのである。

さらに厄介なことに「それなりに残業もあるし休日出勤もあるよ」と説明をすると、「何でそんな仕事選んだの?」という話の展開になったりもする。
つまり「楽」を否定すると「楽しい」まで否定されてしまうのである。
「楽」と「楽しい」。
「楽しい」と「楽」。
言葉の意味はまったく異なるので、冷静に考えると不思議である。

ふと思い返すと、以前バラエティー番組に出演したYouTuberも同じようなぼやきを口にしていた気がする。
「毎日ネタ探しに追われている」「企画から動画編集まで全部1人でやっている」などと日々の苦労を一生懸命説明していたが、つまり「楽に稼げていいなー」などと散々言われまくった裏返しだろう。

楽しい仕事も楽じゃない。
「楽しい」と「楽」を同じ漢字にしてしまった我々祖先をちょっとだけ恨む。

「幸せ」だけど「辛い」こともある

楽じゃないどころか、辛いことも多々ある。

意外に思うかもしれないが、エンタメ業界で働いていると年々周囲からオタクが減っていく
一緒に入社した同期たちや、よく仕事終わりに飲んでいた部署の後輩たち。昔はあんなにアホのようにオタ活をしていたのに、いつの間にか一介の疲れたサラリーマンのようなごく普通な日常を過ごしていたりする。

1人1人にインタビューしたわけではないけれど、たぶんみんないろいろあったのだ。
自分よりすごいオタクをたくさん見て、敵わないと思ってしまった。
好きな作品に関われたのに、貢献することができなかった。
あるいは延々と特に好きでもないジャンルにしか関わることができず、疲れてしまった。などなど。

実際エンタメ業界にいながらオタクでい続けることは、至難の業である。
私は「オタクでい続けてやる!!!」という強い意志で何とか足掻き続けているが、それでも好きな作品でミスをしてしまったあとに街中やテレビで大々的な広告を見てしまうと、もう大声で叫びながら走り出したいし、世界が滅びてほしいと思うくらいに落ち込む。

逆に、プライベートの時間にふと仕事のことを考えてしまうことも多々ある。
推しのSNSを見ていても、「なるほど、こういう風にこの機能を活用するのか」などという考えばかりが頭をよぎってしまい、何だか文字通りにビジネスオタクをしている気持ちになってしまう。
しかも、こういったネタを社内共有すると有難がられるので、やめるわけにもいかない。

「仕事」が好きになる。
だが一方で、「好き」が「仕事」になってしまうのも事実である。

特にリモートワークが続くとこの傾向は顕著だ。
プライベートと仕事を切り替えずに、常にプライベートと仕事を半々で生活しているような感覚である。
「ライフワークバランス」という言葉をアレンジするならば、「ライフワークトゥゲザー」といった感じだろうか。

それでもやっぱり仕事は「楽しい」

それでももし、もう一度人生をやり直せと言われたならば私は迷わず同じ道を選ぶ。
けして楽ではないし、辛いこともたくさんあるけれど、やっぱり仕事が楽しいのである。

「楽しい」仕事も「楽」じゃない。
でも「楽」じゃない仕事も「楽しい」。

これからもずっと、ほんの少しでもいいから、自分の好きなことを支え続けていきたい。

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