第0009撃「メタ氏、幼馴染のことを好きではないとつまらぬ嘘をつく」の巻

中学1年になって初めてのゴールデンウィーク前後のある登校日のことでした。
同じクラスの女生徒の悦田(仮名)が話しかけてきました。
「夢野ってさ、小学校は私立のすんごい賢いとこに通ってたんやんな?」
「いや、たんに家から遠く離れてるだけやで」
「電車で毎日行ってたんやんなあ。なんで賢いのに芝中なんかに来るん?」
「そりゃー、落ちこぼれになって受験に落ちたからやん」
小生は自分が変な声を出したりする、
トゥレット症候群という奇病を患ってることを、
正直に言うことは出来ませんでした。

「夢野って時々、オンッ、オンッ、て変わった声出すけどなんで?」
「子供のときに余程勉強し過ぎると、発症するんよ」
でも勉強をし過ぎたことが原因ではなかったと思います。
むしろ小生が母の期待どおりに勉強をこなすことが出来なかったために、
母から散々暴言を吐かれ、また暴行を受け続けたことで、
チック症状が酷くなり、
「頭のおかしな病気をはやく治せ」と母から精神安定剤を1日3回飲まされ、
その薬の副作用で、
眼球が上を向いて焦点が合わせられなくなることがたびたび起きるのでした。
それでもともと苦手ではあったものの、
もはや勉強が手につかなくなり受験どころではなくなったのでした。

「夢野とは小学生のとき一度会ったの憶えてる?」
たしかに小生は憶えてました。
幼なじみのゆきみちゃん(仮名)に誘われて悦田の家を訪れたことがあります。
そしてマンションの地下のショッピングセンターの端にむかしあった、
福富銀行内の絵本コーナーへゆきみちゃんの友だちら三、四人で行ったことも。

「夢野、元橋(仮名)のこと、ゆきみちゃんて呼んでたやんな。
元橋と幼なじみなんやろ?」
〈悦田による尋問がどんどん本題に迫ってきた、
これはマズい方向に進んでいる!〉
「夢野、元橋のこと好きなんやろ?」
周囲の生徒たちが次々にこちらを振りむき、
小生の一言一句に関心を持っているようです。

「ちゃうよ!」
「ほんまは好きなんちゃうん?」悦田がにやにやしながら尋く。
「ちゃうちゃう、好きとかじゃなくて幼なじみなだけやし!」
小生は必死になって否定しました。
しかし実のところ、
悦田の言うように小生はゆきみちゃんが好きなわけで。
ゆきみちゃんを見かけることを楽しみに、
毎日登校しているようなものでした。

「そう、ほんま言うとな、おれ、ゆきみちゃんが好きやねん」
と答えてしまえば最後、
卒業するまで悦田から、
いや口伝えに巡って全校生徒からからかいの的になるんじゃないだろうか。
そう恐れたために嘘をつくことにしました。

小生は小学校の高学年の頃、
同級生の七節麻衣子に淡い恋心を抱いていたことがあります。
在学時、七節が休み時間に誰もいない砂場でひとり、
砂に水をかけたりして遊んでるのをよく見かけました。
小学校を卒業してからも七節がどうしてるか気になってました。

「おれはな、小学校のころから好きな七節という子がいてるんや、
元橋のことはとくになんとも思ってないで!」
「ふーん」悦田は面白くなさそうに静かに去って行きました。
ざわめき立っていた教室が、
何事もなかったかのように静けさを取り戻しました。
このとき小生がつまらぬ嘘をついたことで、
ゆきみちゃんと2歳くらいの頃から繋がっていた赤い糸は、
さみしそうに溶けて無くなったのかもしれません。

週末の夜といえば、「ねるとん紅鯨団」!!
テレビでは男たちが勇気を振り絞って女性にアタックしていました。
オープニングの鉄腕ミラクル・ベイビーズの歌「talk show」が印象的でした。
Spotifyで聴く https://open.spotify.com/track/0GhvaX9HN4HdwzM0FuPhnc?si=aqUGUsDPTeixU9KXyQbNlg
YouTubeで聴く https://youtu.be/L6nNTaDmvPU

それにひきかえ小生はヘタレもいいところでした。
後日、同級生の男子から、
「夢野! あそこで根性出して好きやと言っとけよ」と呆れられ、
とっくに見抜かれていたことが思い出されます。

テレビでエアコンのエオリアのCMで、
徳永英明の「恋人」がせつなく流れていました。
Spotifyで聴く https://open.spotify.com/track/62XythhGlNnjJHkPPSOjnG?si=yBLJMXA9SK-h5ydVsC4zzg
YouTubeで聴く https://youtu.be/Dd2a1mrqoHw

仲のよかった緑谷(仮名)にそのCMのことを話すと、
彼は徳永英明の「風のエオリア」もとてもいいよ! と教えてくれました。
Spotifyで聴く https://open.spotify.com/track/460CvdjMnMuTypPFHZxwqD?si=5eD322P8T-eoYO0jGi_qzQ
YouTubeで聴く https://youtu.be/T1wIAMzOLbM

続く。果てしなく続く……。

ここから先は

0字

昭和50年代に大阪市に生まれた男が描く、 すぐに読めるライトエッセイ(軽い読み物)を お楽しみいただけると幸いです。 平成時代の穏やかな…

この記事が気に入ったらチップで応援してみませんか?