【短編小説】ぼくはヒーロ―④
ぼくはヒーロ―⓷のつづきです。
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試験会場は沢山の人でにぎわっていた。
みな、マスクにサングラスをかける等などしてお互いの顔はよくみえない。ヒーローは基本顔出しNGだ。
最終試験ともなると、極力顔を見せないように試験官から言われるのだ。
俺もそれに従い、黒いマスクとサングラスをかけていた。
「お兄ちゃん、あんまに似合わないね 」
なんて朝は弟に言われたが自分でもそう思う。
――――それでは、これより最終試験を開始します。
会場全体にアナウンスが流れ、それぞれ決められた試験場へ移動する。
俺のグループは「5」番
害獣ロボットを、6人で制限時間内に倒さなくてはいけない。
ここで自分がどういう役割で動くかによって、何色のヒーローが適正かも審査されることになっている。
「それでは、グループ5のみなさま、検討を祈ります」
案内者が俺たちのグループへ声をかけ去って行った。
「・・・はじめまして。よろしく 」
俺は他の5人に声をかける。
「よろしく! 」
「こちらこそー!」
「頑張ろうね!!」
「目標は10体倒したいな!」
4人が俺の声にこたえてくれる。
「・・・・・うす。・・・だりぃ」
一人だけいかにもやる気のない声で答える男がいた。
顔が見えないから正確にはわからないが、俺と同じぐらいの年だろうか
髪の毛は白に近い金髪で、すこしだらしがないように見えてしまった。
見た目で人を判断するのは良くないが、さきほどの返事の仕方といい、あまりヒーローという感じはしない。
―――――それでは、これより全グループ戦闘を開始してください
俺はそんな金髪男に不安を覚えつつも、試験がスタートしてしまった。
「・・・はあっ、はあっ」
俺は今までにないくらい、呼吸が乱れている。
ある程度体力には自信があったが、まさかこんな短時間でここまで疲労するとは予想外だ。
害獣ロボットは俺の想像をはるかにこえるレベルで強かった。
毎回こんな化け物と闘っているヒーローのすごさを、あらためて実感するとともに、自分はこれからなれるのだろうかと不安を感じてしまう。
これはあくまで試験で、害獣はロボットだ。これがもし本番だったら俺はおそらく死んでいたかもしれない。
他の人となんとか連携をとって討伐していたものの、残り時間30分を切ったときには皆、疲弊していた。
元気なのは開始早々、どこかへ消えたあの金髪男ぐらいだろう。
あの男は全然姿を現さないがいったいどこで何をしているんだろう。
最終試験にいたということは、ヒーローになる意思があったはずだろうに害獣をみてやる気をなくしてしまったのだろうか。
あたりを見回すが、金髪男の姿は確認できない。
「どうします・・・あと一体くらいやっておきますか?」
グループの一人が俺に声をかけてきた。
俺たちのグループは苦戦しながらも9体討伐に成功していた。
何体倒せばよい、という基準はないが10体倒せば少なくともビリにはならないはずだ。
「そうだな・・・あと1体。いけるか?」
俺は周りに確認する。皆、息は乱れているものの、大丈夫というかのように大きく頷いてくれた。どうやら心はまだ折れていないようだ。
「よしっ、いくぞっ。おれたちが一番優秀なグループだ!!」
俺の掛け声でいっせいに飛び出した。
・・・・・っよし、これならなんとかいけそうだ。
あれから近くにいた害獣ロボット1体を、俺含め5人がかりでなんとか倒せそうな所まできていた。
残り時間は8分。このまま全力で攻撃を当て続ければ間に合いそうだ。
他の4人も同じ気持ちでいるのだろう。皆、休むことなく隙を見ては攻撃を当て続けている。
その時、俺の視界にある光景が目に入った。
俺たちがいる所から10メートルほど離れた瓦礫の山に金髪男がいる。
・・・・!!!
俺は焦った。なぜなら金髪男は3体の害獣ロボットに囲まれていたからだ。
「っだ、だれかっ、たすけ・・・たすけて!!!!!!」
俺の視線に気づいたのだろうか、金髪男は俺たちにむかって叫んでいる。
みんな、金髪男の声に気付いたが戸惑っているようだった。
いま金髪男を助けにいっても、害獣3体相手をする体力もなければ武器もない。また、あくまでロボットなので命を奪う事はしない。
それならば、金髪男を無視してこちらの1体を倒したほうが良いと考えてしまうのだろう。
ましてや今まで、全く姿を現さず協力していない男だ。いまここで助ける必要があるかと疑問に思ってもおかしくない。
俺も本当はあの男を無視して、目の前の害獣を倒したかった。
・・・けれど
「助けを求める声に、答えるのがヒーローだよな!!!」
俺はそう言って、その場を離れ金髪男の元へ全力で走った。
金髪男は恐怖心に襲われているのだろうか、3体を交互に見回すことしかできない様子だ。
そんな男をよそに、害獣がビームを打つ動作を始めた。
「あ・・・あ、たすけ・・・」
3体それぞれ違う方向から金髪男にせまってきているせいで、どこに逃げたらいいかわからなくなっているようだ。
さすがに死にはしないものの、もろにくらったら怪我は避けられない。
「くそっ、間に合えっ!」
害獣からビームが放射される瞬間
――――ドンッ
俺は全力で金髪男にぶつかった。
「ただいまを持ちまして試験を終了いたします」
俺の最終試験は金髪男におおいかぶさった状態で終了した。
金髪男は恐怖で気を失っているようだが、怪我はなさそうだった。
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更新遅くなりました。
明日は早めに続きを公開します。