おとぎ話「花と鏡」②

「花と鏡」⓵のつづきです。

翌日、さっそく王子がローズたちのお家に来ました。

ローズは自分が持っているドレスの中で、一番美しいものを着て王子さまを迎えました。

「こんにちは、王子さま。わたしはローズと申します」

王子さまはローズを見て、とても優しそうな笑みを浮かべました。

「こんにちは、ローズ。招待してくれてありがとう。ローズの住んでいるお屋敷はとても綺麗な花がいっぱい咲いているね」

「そうなの!亡くなったお母様は、お花が大好きだったのよ!だから庭にはたくさんの花を植えてあるの、これからお庭でお茶をしましょう」

ローズは王子さまの手を取り、お庭を案内しました。

「おや、あそこで、花を手入れしている子は君のメイドさんかい?」

王子さまが見る、視線の先にはマーガレットが一生懸命、お花に水を上げていました。土もいじったのでしょうか、マーガレットが着ているドレスの裾が汚れてしまっています。

「あ、あれは・・・」

ローズは心の中で、せっかく王子さまが来たのに妹はあんなに薄汚れた格好でいるなんて信じられないと思いました。

王子さまと、ローズの視線に気づいたマーガレットは、少し慌てた様子で、一度お辞儀をすると小走りで去っていきました。

「まあ、あの子は後で紹介しますわ。それより、見てください!このバラを!うちのお庭で一番綺麗に咲いているの!」

ローズは、マーガレットの事を忘れてもらおうと、話を無理やり変えました。



しばらく、王子とマーガレットはお庭でまったりとお茶を楽しんでいました。

そこで王子さまは、自分の趣味や特技、好きな物などを話してくれました。

「王族」という身分である王子さまですが、意外にも話しやすく、最初は少し緊張気味だったローズもすっかり打ち解けて、自分のことを話していました。

「ローズは、本当に美しいものが好きなんだね」

「はい、好きです。美しい物こそわたしは正義だと思っています。王子さまの顔もとても美しくて惚れ惚れしてしまいます」

嘘ではありません。王子さまの顔は本当に美しく、ローズはとても気に入りました。しかし、王子さまの事を好きになった訳ではありません。あくまでこれはお姫様になり、お姫様になる事で『この世で一番美しい人』になるためだとローズは思っていました。

「あ、あの!!先ほどは失礼いたしました!!はじめまして、わたしはローズの妹のマーガレットと申します」

ローズと王子さまが話していると、いきなりマーガレットが二人の前に現れ、ぎこちないお辞儀をしました。

先ほどの恰好とは違い、綺麗なドレスを着ています。しかし、急いで来たからでしょうか、髪はささっとひとつにまとめただけで、化粧もきちんとできていません。

ローズは自分の事のように恥ずかしくなってしまいました。

「・・・下がりなさい、そんな恰好で王子さまの前に現れるなんて、信じられないわ」

「申し訳、ありません・・・」

ローズに冷たい眼で見つめられたマーガレットは、顔を真っ赤にしてそのまま去って行きました。

「王子さま、妹が大変失礼いたしました」

ローズは王子さまに謝ります。

「どうして謝るんだい?」

「王子さまの前に立つ格好ではありませんでした。妹は本当に世間知らずで、礼儀知らずで・・・姉として恥ずかしいですわ。お母様もお父様も、あんなにお上品なのに、どうしてマーガレットだけがああなのかしら」

ヤレヤレといって顔をするローズに王子さまは不思議そうな顔をしています。

「そうかい?」

「え?」

「彼女は、さっきまで庭の手入れをしていたんだろう?それでも、僕が来たから急いで準備して挨拶してくれたじゃないか。少なくとも先ほどまで土いじりをしているとは思えないくらいには、綺麗だったと思うよ」

王子さまがマーガレットに対して『綺麗』と言ったことで、ローズは思わず口調が強くなります

「そんな!!あんなのが綺麗だなんて!!やめてください!わたしは、あれが自分の妹っていう事が恥ずかしくてしょうがないのです!!」

「・・・君は、お花の手入れをしたことがあるかい?」

「へ?手入れ?」

「君はさっき僕に、この庭は宝物だといったけど、花の手入れはしていないの?」

「え?いや、まあ、それは、うちには何人もの庭師がいますし」

予想外の質問にローズは動揺します

「君は、この庭が自慢だといったね。お母様が大切にしていたお庭だと。そんなお母様が大切していた庭を、君はまったく手入れもせずにただただ見ているだけなんだね。それって本当に宝物っていうのかな?」

王子さまに、そう言われてローズはうつむいてしまいました。昔はお母様とマーガレットと一緒に、水をまいたり、肥料を入れたりとしていましたが、ここ数年間は何もしていません。

庭師がいるし、なにより身に着けている服や、手が汚れてしまうのが、『美しい状態』ではないと思いやらなくなってしまったのです。

「・・・今日はもう、帰るね」

王子さまは黙ったままのローズに、そう告げてこの日は帰ってしまいました。

急に帰ってしまったことを知り、父親は何があったのだとローズに問いただしましたが、ローズは何も言いません。

ローズは夕食も食べないまま、自分の部屋にこもってしまいました。



――コンコン

ローズの部屋を誰かがノックします

「お姉さま・・・申し訳ありません」

ローズが無視していると、弱弱しい声が扉の向こうから聞こえてきました

「今日、王子さまが来ることはおぼえていたのですが、お花に水をやっていたら来る時間をすっかり忘れてしまって、あんな恰好で挨拶してしまいました。ごめんなさい。きっと王子さまが帰ってしまったのは私のせいですよね?お父様にもわたしが言いました。」

ローズはそれを聞いて、グッと胸が苦しくなりました。

「お父様にも、注意されて、その、でも、王子さまから、連絡がきまして、また一週間後、来ていただけるそうです、そのときは、ちゃんとっ、しっかりした格好で挨拶しますから!!ほんとうに!!すみませんでした!!」

ローズは、マーガレットの言葉を聞き、悔しくて、情けない気持ちになりました。それでもマーガレットに何も声をかけることができません。ちっぽけなプライドが邪魔をしてしまいます。

「あの、ここに、お夕食おいておきます。もし食欲があったら、食べてください」

マーガレットがそう言った後、扉から足音が遠ざかって行きました

足音が完全に消えてから、ローズはそっと扉を開けます。

そこには台車に夕食と、小さな花瓶に入ったカモミールが置かれていました。

ローズは台車を部屋の中にいれ、夕食をゆっくり食べました。

夕食は自分の涙のせいでしょっぱい味になっていました。


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今日はここまでにします。

続きは明日公開予定です。

以上、星空夢歩くでした!

・・・拝啓、プロットからどんどん離れていきます



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