【短編小説】ぼくはヒーロ―⑥
ぼくはヒーロ―⑤の続きです。
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「おーいっ、どこか遠くの世界へひとり行ってるけど大丈夫? 」
突然、視界にヒーローブルーの顔が入ったことにより、俺は我に返った。
「・・・お前のせいで、嫌な過去を思い出しただけだ」
ぶっきらぼうに俺は答える。
「君の過去は、本当に残酷なものだったね」
彼は独り言のように呟いた。
「・・・結局、ヒーローなんてそんな奴らばっかなんだろ」
俺は彼を睨みつける。
あの日からヒーローと、この世界に絶望した。
本物のヒーローなんていない。
結局、ヒーロー部隊なんて生まれた頃から勝ち組のやつらが、国民に持ち上げられるためだけに用意されたステージなのだ。
俺のような何も権力をもたない少年が、そう簡単になれるものではなかったのだ。俺の役割はあくまで『全国民がなれますよ』という証明をするためだけの駒だったのだ。
「お前はいいよな。ヒーローになってさ、何不自由ない生活できて、ヒーロー引退後も『国のために命をかけた勲章』として引退支援金が渡されて、その後の生活全部保証されるもんな。ははは。あの頃の俺は本当に馬鹿だったよ、政府の考えに全く気付かずいいように使われたんだ」
彼の目を見る事なく、俺は毒を吐き続ける。
「あの後、色々調べたけど、あの金髪野郎はヒーローレッドになってたよな。あんなに試験はやる気なかったくせに、ヒーローレッドになった途端、害獣どんどん倒してさ、ちびっ子たちと仲良く写真撮ってやんの。笑っちゃうよ。ヒーローになったら特殊なスーツが支給されるから、元から体力や運動神経なんてなくても全然動けちゃうもんな。あいつはそれを知っていて、そして自分が受かるだろうとも思ってたから何もしなかったんだよな」
そこまで言って、喉の奥がグッと詰まった。
「・・・・・ほんと、笑っちまうよ、馬鹿みたいだ」
俺は何を話しているのだろう、どうせこいつに言ったところでなにかある訳でもないのに。
こいつだって所詮、あちら側の人間だ。俺の話しなんて何も感じないだろう。
「あのヒーローレッドは・・・後悔してたよ」
「・・・は? 」
こいつは何を言っているんだ?あの金髪野郎が後悔?
「冗談はやめろ。俺はあいつのことを徹底的に調べたんだ。調べたところでなにか出来る訳ではなかったけど、せめて、あいつが、少しでも・・・あの時のことを何か思っていてくれていればとっ。でも・・・あいつは少しも反省している様子はなかった。ましてや後悔なんて・・・」
「たしかに、僕らの着ているスーツは特殊なものだ。これを着ればある程度の動きは自由自在になれる。でもね、だからといって無敵な訳じゃない。使いこなせなければ、怪我をするし、攻撃も全くあたらない」
「・・・・・。」
「彼は、レッドは、最初は確かに全くやる気を感じられなかった。スーツがあればなんでもできると思っていたんだね。でも実際は違った。彼は入って早々に全治3か月の怪我をしているんだよ」
「そんなバカな!!俺が調べた限り、あいつは大怪我なんて一回もしていないはずだ!!!」
彼は俺の言葉に首を横に振った。
「君はよく僕らのことを調べているようだけど、それが全てじゃない。大怪我なんてしたら、ヒーローの強さに疑いを持たれちゃうから必死でみんな隠しているんだ。怪我をしたところを見られても次、登場するときは完治しているフリをしてね。あのレッドも、大怪我したとき、なんとかして組織にばれないように、必死で怪我を隠しながら、痛みをこらえて戦場に立っていたんだよ」
「なんで、組織に隠すんだよ、良い所のお坊ちゃんだろ?ちょっとくらい怪我して休んでも問題ないじゃないか」
俺の言葉に彼は少し悲しそうな顔をした。
「君の言う通り、ヒーローなんてものは、ほとんど上級国民のコネで集まった者たちばっかりだ。理由は簡単。自分の家族がヒーローをやっていると周りに対して、国民に対して良いアピールになるからだ。もちろん、誰がやっているっていう情報を流すのはダメなんだけど、それとなく政治家やどっかのお偉いさんは自分の子どもがヒーローなことを周りに流している」
・・・それは俺も知っている。ニュースなどで政治家が「あまり大きな声では言えませんけどね、僕の息子は命がけで戦っているんですよ」なんて自分のことかのように自慢げに話しているのをよく観るからだ。
「所詮、僕らも親の立場を支えるための駒なのさ。だから、そんな駒が怪我で活動していないなんてバレたら・・・どうなるかはわかるだろう?実際、怪我をして休んだのが親にバレて大目玉をくらったやつは何人もいるよ。ほかの奴らの子どもが戦闘している時に自分の子どもが休んでるなんて、周りに嫌味を言われるって思うんだろうね。実際、そうみたいだし」
「それで・・・レッドは」
「レッドは、怪我を隠しながら戦い続け、その結果、右足が完全に動かなくなったよ。だからもう3年も前に彼は引退している。そして大事な場面で足が動かなくなったことにより、他のヒーローに迷惑をかけたってことで引退支援金はなし。彼はいま細々と普通の仕事をして暮らしている」
俺は驚きのあまり目を大きく見開いた。
「そんなバカな?!俺の持っている情報によると、あいつは確かに引退したが、支援金で優雅な生活を送っているはずだ!!!」
「・・・それこそ、政府がこの事実を隠すための嘘の情報さ。場合によっては引退支援金が出ないなんて知られたらイメージが悪くなるだろう?」
勝手なもんだよねーと笑う彼を見て、俺は何も言えなくなってしまった。
「もちろん、そんな現状だからと言って彼が君にした事は、決して許されるものではない。でも・・・彼は言ってたんだ」
「・・・・・。」
「俺は、最終試験の日、一人の少年に助けてもらったにもかかわらず、最低なことをしてしまった。謝っても許されることではないとわかっている。でも、もし叶うなら、彼に直接、殴られても何されてもいいから謝りたかった。彼は、彼こそが本当のヒーローだってね」
ヒーローブルーが俺にどんな表情を向けているかわからなかった。
俺は溢れてきた涙を、上を向いて必死に止めようとしていたからだ。
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明日、ぼくはヒーロ―⑦を公開予定です。
少ない閲覧数であっても、読んでくれている方には感謝しています。
尚、毎日ぶっつけ本番状態で書いているので完結後若干の修正が入ると思います。気を付けているつもりですが、設定の矛盾があってもスルーしていただければ幸いです。