【短編小説】ぼくはヒーロ―⓷

ぼくはヒーロ―②のつづきです。

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抵抗することを諦めた俺は、大人しくベンチに腰を下ろした。

それを見た彼は、とても満足そうな顔をしている。

「・・・俺と話してなんか得することある? 」

「少なくとも暇つぶしにはなるかな。君だって僕のことを書けるし」

「それは・・・」

正直、もうこいつの事なんて書かなくていいから、早く帰りたい。

俺がここに留まる理由はただひとつ。カメラを返してほしいだけだ。

「15分・・・たったらカメラ返せよ」

「ヒーローは約束を守るから大丈夫さ」

先ほどまでと同じ爽やかな笑顔なのに、何故だろう、とても胡散臭く見える。

「僕はさ、君の事信じるよ」

急に真剣な目をして、彼は俺を見つめてきた。

「は?」

「君が最終試験のとき、同じ試験相手をわざと突き飛ばし、怪我をさせたなんて。信じていないよ」


「・・・ほんと、ヒーロー様様はそんなことまで詳しく知れちゃうんだな」



そうだ。俺はあの日・・・・・



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「兄さん、ヒーロー3次試験、合格おめでとう!!」

無邪気な笑顔で俺にクラッカーを鳴らすのは、まだ小学6年生になったばかりの弟だ。

「こらっ!お兄ちゃんに向かって鳴らさないの!危ないでしょう」

そう言いながらも母さんの顔は、とても優しい表情をしていた。

「おいおい、まだ早いって。最終試験はこれからだし、落ちる可能性だってあるんだぞ。」

俺は照れ臭い気持ちになりながら、弟の鳴らしたクラッカーを片付けていた。

「そうよ、お祝いするのはまだはやいわ。最終試験だってたくさんの子が受けるんだから。・・・でも、受かったらお父さんもきっと、喜んでくれるわね。お父さんなんて一次試験すら通らなかったんだから」

そう言って母さんは、父さんの写真が飾ってある仏壇に微笑みかけた。



―――――父さんは2年前、事故で亡くなった。

ちょっと頼りない所もあったが、いつも優しく、穏やかな性格であった。

父さんはいつも「俺は昔、ヒーローになりたくて、頑張って努力して一次試験を受けれることになったのに、緊張しすぎてあっけなく落ちたんだよ。」と少し悲しそうに幼い俺言った。

そしてそのあと、必ずヒーローがどれだけ素晴らしい人たちなのか、楽しそうに話してくれた。

俺は幼いながらも、そんな父さんの話を聞いてヒーローに強い憧れを持っていた。

「ぼくがお父さんのかわりに、ひーろーになって、お父さんのゆめをかなえてあげるね」と言うと

「もし本当になってくれたら、お父さんはもう思い残すことはないなあ」

と嬉しそうに笑っていた。

そんな父さんが亡くなったことをきっかけに、高校生だった俺は、本格的に大学へ進むことより、ヒーローになる道を選んだ。

狭き門なことはじゅうぶん理解していたが、ヒーローになることが出来たら父さんとの約束を叶えることができるし、なにより家族の生活が保障される

父が亡くなった今、少しでも家族の支えにされたら・・・と高校生ながらにも思っていたのだ。

母さんは、そんな俺の意見を尊重してくれた。

「もしヒーローになれなくても、大学へ進むお金ぐらいはお母さんだってちゃんと用意してるからね」とも言ってくれた。

もちろん、大学への憧れもあった。しかし、弟の進学だってこれからある母さんにこれ以上負担をさせたくなかった。そしてなにより、亡き父の俺への夢を叶えたかった。

ヒーローになれる条件3つは、高校2年生の時点でクリアした。

体力・学力ともに俺は死ぬ物狂いで努力し、優秀な成績を収めた。

性格検査は特に問題もなく、2年生の夏に川でおぼれていた弟の友達を助けたことにより、国から表彰を受け取ることが出来た。

その後、正式にヒーロー受験資格書が俺のもとへ届き

とんとん拍子でここまできたのだ。一次の筆記も、二次の面接もしっかりと上位の成績で通過したずだ。

ヒーローになれる定員はその年によって違うが、年々害獣発生率が上がっているため、様々な地方に派遣するヒーローが必要なこともあり、今年は最も多い定員募集となっていたので、入るには絶好のチャンスだった。

そんな中でも、俺が志願したのは都市部のヒーロー。

ここが最も倍率が高いと言われていたが、俺には入れる自信があった。

後は、明日行われる最終試験を突破するだけだ。

試験項目は実技。

限りなく本物に近い動きをするよう、再現された害獣ロボットを討伐する。

試験エリア内に落ちている物はなんでも使用してよいことになっており

何を使用して、どう倒すのかも合否にしっかり関わってくる。

さすがに害獣となんて戦ったこともなく、どうなるのか予想も出来ないが

俺はなんとしてでも、このチャンスをつかみ取る気持ちでこの日は眠りについた。


―――試験当日

「本格的なお祝いは最終試験受かってからね」と言いながらも

朝ご飯に、俺の大好物をつくってくれた母さん。

「兄ちゃんがヒーローになったら、一番に僕と写真撮ってね」と

俺がヒーローになった姿を描いた絵をくれた弟。

そんな二人の想いと、亡き父の想いを背負って俺は最終試験の会場に足を運んだ。


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更新遅くなりましたすみません。

明日、ぼくはヒーロ―④公開します。






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