【短編小説】ぼくはヒーロ―⑦

ぼくはヒーロ―⑥のつづきです。

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それからしばらくの間、俺たちは無言だった。

遠くの方で時折、車のエンジン音が聞こえた。

俺は自分の感情を整理できず、ただひたすら涙を流していた。

これが何に対する涙なのか、うまく説明はできない。

自分を陥れたやつを「悪」と決めつけ、不甲斐ない悲しみを今まで誤魔化し続けていたのだ。

しかし、ヒーローブルーの話を聞き、俺はあいつに対する感情がわからなくなってしまった。

「・・・許す必要は、ないと思うよ」

ボソッとヒーローブルーが言った。

「レッドは確かに反省してたし、後悔もしてたけど・・・だからといって君が彼を許すべきだとはならない。あの時やったことはもう二度と取り返しのつかないことだし、君の描いていた未来を奪った罪は、反省したからって全てチャラになる訳じゃないからね」

「・・・・・。」

「でも・・・君が、君があの事をずっと心に残して苦しんで、次に進めていないようであれば、もしそうであれば、それは前に進むためにも、許さなくていいから、彼の気持ちを少しでもいいから、受け取ってあげてほしいかな。僕もヒーローの代表として、謝らせてほしい。本当に申し訳ない。君の夢を、権力をもったゴミたちが潰してしまって・・・」

ヒーローブルーは本当に申し訳なさそうに、辛そうな表情をしながら、しっかりと俺の眼を見て言った。

「君が望むなら、彼をここに連れてくることもできるよ。僕からじゃなくて、ちゃんと彼の口から直接謝罪の言葉を聞きたいのなら。それをやったところでって感じかもしれないけど・・・」

「なんでそこまで・・・」

「そうだなあ・・・僕もいい加減、こういう世界がちょっと嫌になったのかも。上級国民様様によって出来た、このヒーロー部隊に。でも到底僕ひとりの力じゃ変える事なんて出来ないからさ・・・せめて、せめてのお詫びとして君になにかしてあげたくなったのかもね・・・それが僕のエゴであったしても」

現役ヒーローの力なら、引退した奴をここに連れてくることなんて簡単にできるかもしれない。

そこで、奴が俺の目の前にきて、謝罪をしたとき、まだ許せない気持ちがあれば思いっきりぶつけることもできたかもしれない・・・・・けれど、

「別に、それは望まない。お前の言う通り、あいつに直接謝ってもらったところで過去が変わる訳じゃないからな」

「・・・そっか。そうだよね」

「そして・・・お前が謝る必要はない」

「でも・・・っ」

「お前に謝られても、俺が虚しくなるだけだ」

「そっか・・・」

彼はまだなにか言おうとしたが、俺の表情を見てやめたようだった。

「・・・話してくれてありがとな。ちょっとだけ気持ちが晴れたわ。少なくともあいつはそういった形で報いを受けた事がわかったし。許すわけじゃないけど、がむしゃらに憎み続けるのはもうやめる・・・あとは、時間が解決するだろう」

「・・・それなら、よかった」



気付けば彼と話してもう30分が経過している。

そろそろ俺の相方が、いつまでも帰ってこない俺にしびれを切らしてここに来てしまうかもしれない。

「・・・そろそろ、カメラ返してくんない?」

「ああ、すっかり忘れてた。はい、どーぞっ!僕もそろそろ活動再開しないとなあ。いつまでもここに居たらサボってるって思われちゃう」

彼はベンチから立ち上がりグッと身体を伸ばした。

「これ、記事にさすがに出来ないねえ。どうする?僕の素顔の一部でも撮る?」

「そんなことしたら、もっとやばいだろ。いいよ、別に。今日のことは記事にするつもりはねえし、ここにも、もう二度とこねえよ」

「いいよ来ても!またこうやってここで話そうよ!」

「俺とお前は、少なくとも気軽に話していい関係じゃないだろ」

なんせ、彼はヒーロー、俺はそのヒーローのゴシップライターなのだ。

「いいじゃん、そんなの気にしなくて!もう僕らは友達だろう?」

「友達になったつもりはないんだけど・・・」

「じゃあ友達になろう!!君は数すくない僕らの事情を知ったわけだし、こういう話ってなかなか出来ないからさ!なんか面白いネタあったら提供するよ!ピンクの事とか、イエローの事とか」

・・・仲間の事を売るこいつは、本当にヒーローなのだろうか。

「・・・気が向いたらな」

俺もベンチから立ち上がり肩をまわした。

辺りの景色がそろそろ朝へと向かい始めているようだ。

「じゃあな、ヒーローさん」

「またね!鈴木くん!!」

俺が手を挙げると彼も手を振り、消えてしまった。

瞬間移動機能でもついているのだろうか・・・。

なんだか今の短時間で、ドッと疲れた。

色んなことが、情報が、手に入ったけれど残念ながらどれも記事には出来そうにない。

でも・・・俺の気持ちは少し軽くなっていた。

そして、少しヒーローを見る目が変わっただろう。

だからといって、この仕事を辞めるつもりはないが・・・。

たまには、あいつらのいい所、

少しくらい書いても、それはそれで面白い記事になりそうかもなと思いながら、待ちくたびれたであろう相方に連絡を入れた。

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ぼくはヒーロ―⑧は明日公開予定です。

明日で、完結するつもりです・・・が、前回書いた通り、ぶっつけ本番記事なのでもしかしたら伸びるかも。

見ていただいてありがとうございます。








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