猫の恋の頃2
【 猫傷 】
苛立ちがネコに伝わったのか。
ただの偶然なのか。
ネコが止めたような気がした。
ネコの恋の季節だった。
その日、いつもなら仕事でしないネコの散歩をした。
私は猫の動かない様子に、苛立って紐を引っ張る。
猫は車庫に居た母猫に興味を持っていた。
気になってその場に居座って動かなかった。
「もー、行こうよ」
そう言いながら、何度か引っ張った。
猫はぐいぐいと階段を上ろうとする。
行きたいのなら、行かせようかなと思ったのが間違いだった。
引っ張られるまま上へと登っていった。
が、2階には母猫と子猫が居た。
まずいなと思った。
「降りよう」
独り言なのを承知で猫に向かって言いながら、無理矢理階段を下りる。
猫もそれなりの力で居座ろうとする。
「降りるよ!!」
苛立ちながら、引き摺り下ろそうとする。
と、急に紐が軽くなり猫が私の足元をかけて行った……と思った。
けど、それは間違い。
――噛まれた。
と気付いた時には猫は下へと降りきっていた。
私も足元に気をつけながら、階段を下りる。
乱雑に転がっているダンボールの山を越えて、足元を見た。
……まずいかな。
痛みはあまり感じなかった。
血がズボンに滲んでいた。
とりあえず、猫を広くて安全な場所まで移動させるのが先だと思った。
散歩の時間はあと15分ほど、それくらいなら大丈夫かなと楽観的に考えた。
ズボンが血で染まっていく。
足が痺しびれていくのが判った。
猫がにゃーと何事もなかったかのように鳴いた。
……まずい。
「ぉかぁさん」
呼んでみたが、声は届かない。
ズボンが赤く滲んでいく。
痛みでなく、痺れが恐怖が私を包んでいく。
「おかぁさん。おかあさん。おかあさん!!」
母は外に出てる。そんなに遠くには居ない。
叫べば届く筈だと思った。
「どうしたの?」
慌てて母が駆けつける。
「猫に噛まれた」
ホッとして泣きながら、母に言った。
「これは……ひどいわね。病院行かないと」
私の足を見て母が言った。
病院で治療をして、薬を貰った。
その夜、病院で巻いてもらった包帯は血まみれになった。
このまま寝たら布団を汚すという事でラップを巻いて寝た。
翌日の朝。
会社に「猫に噛まれたので、病院に行ってから会社に行きます」と電話した。
会社に着くと、指導者さんや所長さんが「猫に噛まれたの?」と聞いてきた。
犬なら判るけど、猫に噛まれて病院行きは自分でも笑えた。
苦笑いをしながら、「猫です」と答えた。
この傷は確かに痛かったのに。
痛みを感じたのに……。
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