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桜の降る頃1

   【 旅人 】

 些細な事が許せなかった。
 嬉しいハズの言葉に虚しさを覚えた。
 いつから、こんなに余裕がなくなったのだろう。


 桜の蕾が膨らむ頃。
 旅人さんに会った。

「すみません」

 研修の帰りに声を掛けられた。
「駅はどこですか?」
 振り返ると明らかに旅行中だと思われる、大きな荷物を持った人がいた。

「私も行くので、一緒に行きますよ」
 そう言いながら、私はその人がついてくるのを確かめ歩いた。

「この街も大きくなりましたね。仙台に似てきたみたいですね」
「色んな所へ行かれるのですか?」
「そうですね。年に2・3度は」
 駅までの道をたわいもない話で歩いた。
「学生さんですか?」
 旅人さんが質問する。
 そんなに幼く見えるのか……
「違います。一応、社会人です」
 苦笑いしながら答えた。

「営業ですか?」
「ええ、まぁ」

 どう答えていいのか、わからなかった。
「あ、JRは向こうです。私はこっちなので」
 私は駅に着いて、JRの方を指差す。
「ありがとう。お仕事頑張ってくださいね」
 旅人さんはお辞儀をして去っていった。


 ……。
 何を頑張るんだろう?
 何も知らない人の、社交辞令が心に刺さる。
 どう頑張ればいいんだろう。
 これ以上、どうすればいいんだろう。
 判ってるのに、ただの社交辞令。
 些細な言葉が許せなかった。

 そんなことを気にするのは可笑しいと思うのに、
 どうしようもなく気になった。






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