桜の降る頃2
【 変化 】
変わらない事に苛立った。
変わってしまう事が怖かった。
変化は私の目に見えていなかった。
桜の咲く頃。
それなりに仕事が楽しいようにも思えていた。
だけど、それは日々が淡々と過ぎる事に慣れただけ。
朝起きて、職場に行って、自分の地域に行ってポスティング。
昼は企業に行って、午後は職場で入力作業。
時々、所長さんや指導者さんと一緒に企業を回った。
だいたいがそんな感じだった。
桜が咲いたら、仕事の合間に指導者さんと川沿いの桜を見に行ったり、
研修に行く前に所長さんと見に行ったりした。
桜の花びらを集めた。
もう、桜が散るのだと思った。
冬は終ったのだと……
雪が溶けたら辞めるればいいと父に説得された事を思い出した。
でも雪が溶けても、仕事は辞められなかった。
帰りの電車で駅に止まった時、桜が降ってきた。
桜が降るのがとても虚しいような気がした。
流されるままの私がとても馬鹿馬鹿しかった。
「変わったよね」
そう、言われるようになった。
会社の人の言葉に私は笑った。
「明るくなったよ」
そうなのかなと思うと嬉しかった。
と、同時に苛立ちもあった。複雑だった。
髪を切って、服装を変えた。
ただ、それだけ。
私自身は、何一つ変わっていないような気がした。
ある日企業に行く途中の車の中で、所長さんに聞かれた。
「どうするの?」
「?」
私は何のことだか一瞬わからなかった。
「今更、どうするのって言うのも変だけど、ちゃんと聞いてなかったなと思って。
このまま続ける?もう、雪も溶けたし、他の仕事探してもいいし」
返事が出来なかった。考えてなかった。
「コンビニとか探してみたら?」
「でも、そーいうのは私にはあわないって母が……」
……。馬鹿な答えだと思った。
「そうかもしれないけど……それじゃあ、何も出来ないよ」
それで会話は終った。
言葉にがんじがらめで身動きできなかった。
家族は「やるだけやってみたら」と言ってくれる様になっていた。
支部で所長さんが「カイヌシちゃん、研修止める?」と聞いてきた。
「だったら、私も~」
周りにいた同期さんがそれを聞いて、笑いながら言ってきた。
「あんたは別。カイヌシちゃんはデリケートだから」
どこが? とふと思った。
冗談だと思って聞いていた。
「辞めたいなら、辞めていいよ。研修は絶対ってわけじゃないから」
私のほうを向いて聞いてくる。
「どうする?」
「辞めたい……」
俯きながら答えた。
同期さんは隣で「どう違うの?」とぼやいていた。
「じゃ、支部長に話をつけておく」
所長さんはそう言った。
数日後の事。
「所長さんから聞いたけど、研修辞めたいって言ったんだって?」
指導者さんが車の中で私に聞いた。
私は一瞬何のことだろうと思った。
「何だか、前にカイヌシちゃんがそう言っていたって」
そこでやっと私は焦点が合う。
「あ、はい」
指導者さんはため息を1つつく。
「研修は大切だよ。企業に持っていくお花だってチラシだって貰えるし、
勉強になるでしょ?」
……コトバが見つからない。
「そんなに大変なことじゃないでしょ。6ヶ月で終るし」
私は? 私の意見は? どこにあるんだろう。
お花もチラシも私はいらない。
それを欲しがってるのは、指導者さんじゃないの?
「ね。頑張ってみようよ」
悪意の無い言葉で指導者さんは私に笑いかける。
「……はい」
私はうなづく事しか出来なかった。
駅前の信号は私が立ち止まる場所。
いつからだったろう。
ここで足が動かなくなる。
立ち竦んで、信号を睨みつけるだけ――。
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