5話 起業講座
休日は秘書検定や簿記検定取得を目指してみたが、そのうち他の講座も受けてみるようになった。
検定は本を買ってほぼ独学で取得した。受かった後の事は考えていない。履歴書にかければいいだろうという程度でしかなかった。
とにかく、『興味があるものを片っ端から学んでみる』という事をした。
興味の範囲が狭いので『占い系』『お絵かき系』『ヒーリング系』というような感じのものが多かった。
起業講座にも行ってみたが、最初は『説明だけ』のつもりだった。
説明を聞いても、乗り気になれないのでやめようと思っていた。
が、なぜか話しかけられて、断る事が出来ず受ける事にした。
一緒にいた自給自足で生活しているという人は、「思ったのと違った」とあっさりと抜けていた。私は抜け損ねた。
乗り気ではないので、初回は寝坊した。起きた時間は講座が始まっている時間だった。
二度めはどうするのか迷った。やめる事も出来る。返金もしてもらえる。
この講座は『起業』ではなくて、ただのメンタルの問題の講座だった。それも、乗り気になれない理由だった。
この講座よりも、占いにでも行った方がまだマシなのだという事はよく分かっていた。
でも、せっかくなので参加を続ける事にした。
私が入ったのは9期生という事だった。人数は15人前後。少し人数が多かった。
講座ではコーチングの手法がよく使われて、「コーチングを習うといいよ」と勧められていた。
同期でもコーチングを習う人もいたし、それを使う人もいた。
けれど、私はそこに違和感を抱いていた。
同じような違和感を覚えた人がいたらしく、その人は途中で『一人で講座を受ける』という形に変わった。
さらにその講座では『スピリチュアル』な手法も、「あまり勧めないけど」という形で勧めていた。
『リーディング』である。リーディングが何かは説明しづらいが、一言で言うなら『直観』
最初からその説明があり、そのような講座であるならまだ分かるが、『起業』という現実的な話から「リーディング」を勧められるとは思わなかった。
その日は、起業講座と同じ会社の別の講座を受けていた。
来ているメンバーは同期の人がほとんどだった。
何の講座だったのかは覚えていない。終わってからは、雑談でスプーン曲げを見せられた。
同期の何人かが同じように曲げる事が出来ていて「簡単だよ」と言っていた。
私は『曲げた後のスプーンをどうするんだろう』と思った。
「嫌いなものを好きにさせる事も出来るよ」
と、講師が言い出した。
リーディング習いたての同期が私の手を握って、私に試していた。
「なぜ、それを嫌いになったの?」
思い描くだけでいいと言うので、それが嫌いになった原因は分からないが後からそれが強固になった原因はたくさんあるなと思い描いた。
すると、私の手を握っていた同期の顔色が悪くなった。
「共鳴しすぎ」
講師が止めて、それは終わった。
「これは、ちょっと無理だね。強い」
と言われてしまった。苦手程度を思い起こせばよかったのだろうかと、相手に悪い事をした気分になった。
牛乳の話は散々書いたので、ここでは何を思い描いたのかは書かない。
ただそれが、どこまで本当なのかは分からなかった。
呼吸数、心拍数、体温、わずかな顔の歪みなど、外的要因から私の気分が良くないという事を察するのは出来るからだ。
そうではなくても、『嫌いなもの』を思い描くだけでも気気持ちが悪くなる人はいる。
分からないまま、その講座は終わって帰る事にした。
起業講座で関わった人は、今でもひっそりツイッターで繋がっているがやり取りはない。