15話 嘘つきは誰?
魔女さんは、自分は解離性同一性障害だと説明してくれた。分かりやすくいえば『多重人格』で、私に話しかけていたのは、人格の一人で元の人格ではないのだと魔女さんは言った。
面白いなと思うと同時に、チャイルドの『嘘つき』の理由はこれだなと思った。
……誰であろうと、彼女の傍が心地よい事に違いはない。
問題は、彼女の中に会長様を見てしまって、心が痛い事。それは、私がまだ会長様を引きずっているという事。
『私を通して誰かを見る事』も私が、会長様にやられた事で一番嫌だったからというのもある。一番されて嫌だった事を、私は魔女さんにしてしまう。
魔女さんを見ているのか会長様を見ているのか、自分でもよく分からない。こうなると、『嘘つき』はそのまま私に返ってきてしまう。
チャイルドは笑うだけ。
楽しそうに笑うだけ。
こちらは魔女さんに会う度、心が揺れる。
それでも講座は月一度4回ある。
一度目は、結局ワークに参加せずに魔女さんとお喋りを楽しんだ。
これもまた、会長様に初めて会った時に似ている。延々と相手に喋らせてしまったのは会長様に次いで二人目だ。
二回目は魔女さんとワークを組む事にした。
喋らない私が、他の人と組むのは難しい。難しいが……こんな風にしていいのか迷う。魔女さんも他の人とした方がいいのでは?という不安が湧く。
問題は講座が終わった後に起きた。
何のはずみだったのか前後の脈絡をすっかり忘れた。魔女さんが私の頬にキスをしようとしてきたので思わず、身を引いた。
動揺はすぐに相手に伝わって「ごめん」という言葉が聞こえた。彼女のそれに友愛以上の意味はない。嫌悪感はなかった。ただ、会長様の影を私はその中に見てしまっていた。
三回目は距離を取った。
私は他の人たちとワークをした。
私が喋れない事はすでに周囲が把握している。メモ帳を渡してくれる人もいて、ありがたいなと思うと同時に、自分で用意すべきだなと思った。
いつもは持っていたけれど、この頃はメモ帳すら忘れる事が多かった。
四回目は、ぎこちなさはありつつも休憩時間は一緒にいた。
休憩時間にいすを並べて座っていた時。女の子が目の前を通りすぎて行った。この講座には子供はいない。
これは見えない向こう側のものなのだと思った。
魔女さんが「今、女の子が行った。そこ、走って向こうに行った」と、唐突に脈絡もなく言い放った。
「うん」と思わず頷いてしまった。
同じものが見えていたんだと、少し感動してしまった。
スピリチュアルな講座に参加しても、誰かと一緒のモノが見える事は少ない。時々、私が話した後に、「私もそれが見えていた」という話をする人はいたけれども、気を使ってくれたのか本当なのかイマイチ分からなかった。
12話に書いた『視える人』は別で、ほぼ視えたものが一致した。でも、それは力の強い人に私が感化されていただけでは?という話だった。
魔女さんの力が強くて、私が感化されただけなのかは分からない。けど、こんな話は会長様とは一生できなかったろうなと思った。会長様は向こう側を信じないし、一言でも話せば『怖い』と返ってくる。
でも、魔女さんとはこんな話ができる。それが、とても嬉しかった。
魔女さんとは、講座が終わってもやり取りが続いている。