×花見の跡 2×
「お待たせ」
耳元で編集長さんが囁いた。
必死で止めようとしていた涙が落ちた。
責められたわけじゃない。
それが、私の中の罪悪を深くする。
……何をした?
私は何をしようとした?
私を責める声が私の頭の中で響く。
止められたはずだ。
編集長さんが来る事も判っていた事。
見せ付けたかったのか?
試したかったのか?
零れ落ちる涙をそのままに、声を殺したまま私は目の前を見てた。
目の前の噴水が、きらきらと水しぶきをあげる。
犬の散歩で通りかかった人が、訝しげに私たちを見て通り過ぎた。
「ごめん。気付かなくて。ごめん」
何度も繰り返される編集長さんの言葉。
何もいえないままの私。
謝るのは私の方だと思っていた。けど、謝る事は出来ない。
判っていてやった私が、謝る事なんて出来ない。
私が私を赦せるわけがない。
暫くして編集長さんは前に回りこむと、私が傷つけようとした手を取る。
私の腕が拒否の反応をする。
「傷の手当てをするだけだから」
そう編集長さんは言ったけど、私は見せるわけにはいかないと思った。
「大丈夫だから」
それでも、私は編集長さんの手から腕を引き抜こうと力を込める。
見せるわけにはいかないでしょう。
新しい傷だけじゃない。古い傷もまだ残ってる。
残る傷じゃないけど、まだ治ってないその腕を見せるわけにはいかない。
編集長さんは諦めたのか、腕を見ようとするような事は止めた。
代わりにまた「ごめんね」が続く……
「編集長さんは悪くないです」
何とか言えた言葉がこれだった。
「そうだね。本当は誰も悪くないのかもしれない」
呟くようなコトバ。
でも、編集長さんは編集長さん自身を責めるでしょう。
私のせいで……。
気付いてあげられなかったと、自分自身を責めるのでしょう。
「少し歩こうか?」
編集長さんの言葉に私は頷き、荷物を持って歩き出す。
暫く歩いて、また別のベンチへと荷物を降ろす。
座らずに立ったまま、手を繋いだまま。
編集長さんに顔を合わせられず、握った手を見つめていた。
ゆらゆらと揺れる腕と共に、気持ちもほぐれていくような気がした。
「泣いてもいいよ?」
私は笑っていた……少なくとも、笑おうとしていた。
ゆっくりと沈黙の時間が過ぎてゆく。
「目、あわせて」
心が引きつった。
それまで私の手を握っていた編集長さんの手が私の頬を挟む。
「ちゃんと、目を見て」
顔を覗き込むように向けられる。
怖い……。
「大丈夫、何もしないから」
見る事なんて出来ない。
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