16話 知ってはいけない事
終わりへのカウントダウンの始まりは、幸せの中で始まった。
東京に来てからは、ほぼ毎日のメールにチャット。
パソコンは持って来なかったので、携帯をパケ放題にして使いまくった。
そして、やがて私が予感していた通りに、会長様は不安定な事が分かった。
けれども、会長様が何かを語るわけではない。
私はただ、ちょっとおかしな事が続く会長様の傍に居続けるだけ。
私は私で資格取得を目指してみたり、趣味の習い事をしたりした。
会長様だけにならないように、自分の時間を大切に使うように頑張った。
やがてオフ会でも、私と会長様の関係が他の人に分かるようになった。
最初は、離れているようにしていたけれども、会長様が傍に居ていいというので、傍に居るようになったからだ。
会長様と私と男性二人のオフ会で、ずっと会長様と腕を組む……以前ならばありえない状態だった。
男性二人は、顔を見合わせてこちらを見ていた。
ええ。言いたいことは分かる。ごめんなさい。と思いつつ、腕を組んでいた。
けれども、それだけ親しくなっても私たちの間には相変わらず、秘密が転がっていた。
そして、新しい秘密が増えていく。
ある時、細長い棒状の袋をリュックに入れて、会長様がやってきた。
今まで見た事がなかったもので、会長様の私物と言う事は分かった。
関わっている時間だけは長くなったが、会長様のプライベートは一切謎。
細長い棒状の何かは何か?
と、延々と考えた結果、笛という結論を私の中で出した。
それも和楽器。……名前は何て言うのか知らないケド、雅楽で使われているようなものが浮かんだ。
袋の形状だけではなくて、会長様がそれを使うか、似合うかを考えるとぴったりと一致したような気がした。
もちろん、これらはただの勘。
会長様が楽器をやるなんて話は一切聞いた事がなかったし、実際に何が入っているのかは全く分からなかった。
その時になぜ聞かないのかといえば、プライベートは誤魔化される事が分かっていたから。
聞いてほしくない事なんだろうなと言う事が分かっていたので、聞けなくなっていた。
そしてそれは、最後まで変わる事がなかった。
私は、会長様に質問が出来なかった。質問をしたら嫌われるとまで思っていた。
歪な関係は歪なまま、終焉へと近づく足音を鳴らし始めていた。
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