木漏れ日の頃3
【 歌声 】
息苦しい。
歌う事なんて出来ないよ。
声を出して伝わったものなんて無かった。
その日はミーティングでカラオケにいった。
誰がどの曜日にどこの企業へ行くかとか、
これだけの目標があるとかの話が進む。
私はぼんやりとそれを聞いていた。
形式だけの話し合いで、そんなに大きな変化はなかった。
「次からは従姉妹ちゃんも入ってきて、変わるかもね」
という話で終わりになった。
だけど、次のミーティングには私は居ないだろうと思った。
カラオケが始まった。
「ほら、カイヌシちゃんも何か歌って。
カイヌシちゃんの声が聞けるのは、こんな時だけなんだから」
そう所長さんに急かされて、私はページをめくる。
いつもの歌。
私はそれを一曲だけ歌った。
いつもの音。
なのに、私にとってはとても歌いにくい歌だった。
声が出ていない気がした。
やっと歌い終わって、カバンを握り締める。
カバンの中に手を伸ばす。
周りは賑やかに歌を歌っている。
ティッシュに手が触れる。
私だけが、人の歌を聞いていない。
ティッシュに包んだ刃。
私だけが、異空間に切り離されてる気がした。
―――切りたい。
ここから出て、トイレにでも行って、切ってしまいたい。
―――ダメだよ。
感情を抑える。
せめぎ合う。
繰り返し、繰り返し……。
時間が来て、終了。
私は切らなかった。
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