15話 会いたい
東京行きは会長様には全く告げなかった。
「週末に会いたい」
唐突にメールで会いたいと言ってみたら、あっさりと予定を合わせてくれた。
いつもなら『週末』なんて、唐突な事は言えない。
夜行バスの手配にホテルの手配……いろんなものがありすぎる。
それらを全て飛ばして、『会いたい』
週末。
いつもの通りに会いに行く。
いつもと違って朝からではなく、昼の時間に。
「で、何があったの?」
適当にふらついて、休憩のためにベンチに座ったところで会長様が切り出す。
「んー」
「何もなければ、こんな風に呼び出さないでしょ」
「……うん」
私は言い出せなかった。
これではまるで、押しかけ女房のようじゃないか。引かれてしまう。
「親戚の家にでも来ているとか?」
そういえば、会長様にはこっちに親戚がいる事を話してあった。
親戚とはいえ、私は一度も会った事がないけれども。
「……違う」
再び沈黙。
長々と沈黙時間だけが伸びてしまう。
「……結婚でもした?」
「え?」
私は会長様を見る。
「いや。結婚して、こっちに来たのかなって」
「ないない。ありえない」
私は即座に否定した。
結婚しているのはそっちじゃないの?という言葉が頭の隅に浮かんだが、すぐにかき消した。
あれだけ、好きだと言っているのに、なぜ私が他の人と結婚しなければいけないのか。
私が簡単に『好き』と言っていると思っているのか……。
「じゃぁ。何?言ってよ」
会長様が急かしてくる。
「だから……こっちに来たの」
私は指先をいじりながら言った。
「……? うん。どうして?」
「……こっちで仕事を見つけて、こっちに来たの」
わずかな沈黙。
「うん。で、何でそれだけの事に、これだけ時間がかかるの?」
「……」
会長様が私の顔を覗き見る。
「ああ。押しかけ女房と思われるとか心配だった?」
「……うん」
私の顔は真っ赤になっていたと思う。
会長様は笑って私を抱きしめた。
「嬉しい」
ああ。こっちに来てよかったと思った。
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