見出し画像

桜の降るの頃3

   【 花見 】

 花が無くても花見は出来る。
 名目だけあればいい。
 目的は別だから。


 会社の花見があった。
 指導者さんが幹事役で色々と動き回っていた。
 私のことなど、考えていられないくらい。
「ねぇ。カイヌシちゃんはどうするの?」

 所長さんが午後の花見の前に、指導者さんに聞いた。
「え? ああ。皆と一緒にバスで来て。私は車で荷物運ぶから」
 それだけ言うと、そそくさと行ってしまった。
「…カイヌシちゃんだけバス? それは可哀想でしょ」

 所長さんが出張所の皆を見渡す。同じ出張所の皆は車らしかった。
「一緒に乗ってく?」
「あ、はい」
 私は返事をして、所長さんの後に付いて行った。

 重たいカバンを車の中で握り締めていた。
 不安が消えるように願いながら。
 カバンの中の「~趣味の会報~」を握り締めていた。

 お花見は普通の宴会だった。
「歌ってくれる?」
 そう言って、指導者さんにマイクを渡される。
 歌う気分じゃなかった。けど、無理矢理押し出されて1曲だけ歌った。

「飲んでる?歌、良かったよ」
 そう言ってくれたのは年の近い先輩。
「あ、はい」
 先輩はビールを勧めながら、「何処に住んでるの?」などと聞いてくる。
 私は少しだけ飲みながら…2・3会話を交わした。


 それから、1週間後ぐらいに出張所内だけの花見があった。
 焼肉屋まで父に送ってもらった。

 着いた時点で携帯電話が鳴った。
 ……指導者さんからだった。
 電話に出ないで、車から降りる。
「あ、ちょうどだったんだ」
 指導者さんが私に気がついて、手にしていた携帯を仕舞う。
 まだ来ていない人もいたが、店の中に入った。

 2つのテーブルがあって、皆がそれぞれ適当に座った。
 来ていなかった人も集まって、それなりに楽しかった。
 焼肉屋を出て、2次会にカラオケ屋に場所を移す。
 適当に歌を歌って、時間が遅くなった所で父に連絡する。
 父は迎えに来てくれた。
 赤い顔で……飲酒運転だと判る顔。

「大丈夫ですか?」
 指導者さんが聞いたが、父は「大丈夫。大丈夫」と取り合わなかった。
 警察が張っていなくて良かったと、つくづく思う。






《 前へ * 次へ 》

××× 目次


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?