4話 家族からの電話
当時の私には、どう判断したらいいのか分からず、先生たちの話はただの差別にしか聞こえなかった。
欝々とした気分で寮に帰る気分にもならず、日が落ちるまで、近所の神社で座って過ごした。
ただでさえ、寮の中は赤痢の話題しかなくて落ち込んでいるところに、先生たちの「学校へ来るな」という話は、私の心に重くのしかかってきた。
学校へ来てほしくないのならば、学校もしくはクラスの判断として、私にそう言えばいい。
けど、先生たちの話は『寮の判断はどうなのか』だった。
寮の判断は「学校に任せる」だった。寮はあくまでも学生たちの生活の場であって、それ以上の提供はない。
寮の中には、学校の判断で『結果が分かるまで休み』が通達されている人もいる。
保健所にしても、感染しているかどうか、まだ、検査前の人間を隔離することは出来ない。
私の立場は、検査前の感染不明者だった。
個人的には、寮よりも学校に行っていた方が、気が紛れた。けど、感染不明なので感染の可能性はゼロではない。
学校か寮が出席停止と言うなら、そうするけれども、そうでないなら元気なので気晴らしをしたいし、単位の心配もある。
暗くなって寒くなったので、さすがに戻った方が良いのかもしれないと思って寮に戻った。
「マルちゃん、ご両親から電話だよ」
帰るとすぐに、寮長さんから電話を差し出された。
欝々な気分が抜けないまま電話に出る。
「大丈夫??赤痢が出たって?あんたは無事??」
母からの電話だった。
「うん。大丈夫だよ」
私はなるべく明るい声を意識して、返す。
「あんたは大丈夫なんだね。赤痢になっていないんだね。よかった」
「うん。なっていないよ」
「ニュースでやっていて、びっくりして。さっきまで携帯にかけていたのに、何で出ないの」
「あ。ごめん。電源、切れてた」
「それじゃぁ。携帯の意味がないじゃん」
本当は誰とも話したくなくて、携帯の電源は切っていた。
しばらく話した後、電話を切って、寮長さんへ電話を返した。
「お母さん、心配していたみたいだね。お弁当あるから、着替えて食堂に来て」
寮長さんに、私は先生の話を話した。
「先生が、私が学校に行っていいのか、寮に確認しなさいと言っていたのですけど、私、学校に行ったらダメですか?」
「え?そんな事聞いていないから、大丈夫なはずだよ」
思った通りの言葉が返ってきた。誰も何も決めない。決めるのは私。
私は冷めたお弁当を食堂で食べてから、寝た。
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