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×花見の跡 3×

「イ…ヤダ!!」

 私は編集長さんの手を払いのけていた。
 混乱する私を編集長さんは宥めようともう一度、抱きしめる。
 私は泣く事しか出来なかった。

「ごめん。目を見てないと不安だったから」
 少し落ち着いた頃、編集長さんが言った言葉。

 私は怖かった。まっすぐに私を見つめる編集長さんの目が怖かった。
 とても、とても悪い事をしているのだ。
 後ろめたくて、辛くて。


「イカナイデ」
 編集長さんの言葉の意味を理解するのに、数秒。

 怖かった。
 何があっても、私を見据えるだろう瞳が…….放さないだろう手が。
 このまま手を振り払ってしまいたい衝動に駆られた。
 編集長さんはそれを許さない。
 言葉で態度で示すそれは、私に痛みを思い出させる。
 私が忘れている、傷付く痛み。
 繋ぎ止めたいのは編集長さんの方か、私の方だったのだろうか。
 どちらも手に力を入れてるせいか、繋がれた手が酷く痛い。
 永遠とも思える時間。

 諦めたのは私。

 一言でも私を責めてくれたなら、「どうして」と聞いたなら、
 私は躊躇わずにその手を放そうとするのに……
 でもそんな人だったなら、きっと私は編集長さんに逢いには来ていない。


 落ち着いてきて、ベンチに座って時計を見るとお昼の時間。
 …時間の早さに、少々驚きました。


 その後、バス乗り場で私は腕を見せる事にした。

 編集長さんは何も言わなかった。
 ただ、腕を優しく擦るだけ。
「こっちはもっと、酷いから」
 私はもう一方の腕に触れる。
「ああ、うん。そうだね」
 それだけ、言うとその腕を擦る。

 腕が痛かった。
 痛みを感じない腕が痛いと叫んでいた。

 バスが来た、私はそれに乗り込む。
 編集長さんの顔が不安げに見えた。
 席につくと、編集長さんが手を振ってるのが見えた。
 私は手を振り返す。
 バスが動くまで、私の姿を追っていたのだろうか。
 ……不安げだったのは私の方だったろうか。






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