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9話 インプロ

 インプロの講座に行ってみた。インプロとは即興演劇の事である。
 演劇に興味があったわけではないが、物語と声の役に立たないかと思って行ってみた。
 人数は少ないが、ほとんどが顔見知りらしく『常連』が多い事が分かった。

 最初は簡単に自己紹介。その後に、簡単なお題が出される。
 最初は本当に簡単なものだったが、すぐに私がしゃべれない事で進行が止まってしまった。

「選ばれた人からイメージできるものを答える」

 それぞれが順番に一人一人に対して答えていく。
 私は何も思いつかなかった。

「何か、思いつくものはない?」

 そう言われても、出てこない。いや。いくつか頭の中で出てくるが、どれが答えなのか分からない。

 長い沈黙の後、「桃色なイメージ」と答えた。
 その後のお題が私に合わせて、『私が話さない』ものに変わった。

 『事故で動けなくなった娘』役を私がやり、長くインプロをやっているという人が『父親』役をやり話しかけるというものには、困った。
 しゃべらなくていいのだが、どう演じていいのかも分からない。
 何もしなくていいのだが、何かしなくてはいけないようなむずがゆい感覚でその場にいた。

 他には、『ヤクザに求婚される娘』役なんてものもあった。
 婚活で新しい男を見つけて、ヤクザを振ろうと思い立った娘役で、婚活で男が見つかったシーンから始まる。
 ヤクザと男がめて、力があり喧嘩けんかに負けないと言っていた男が実は無力でひ弱だと知る。
 設定がめちゃくちゃすぎて、私の頭ではついていけなかった。これは『したたかな娘』なのか『素直な娘』なのか。
 娘の設定は世間知らずのお嬢様だったが、それが素なのか表なのか。

「無力な自分でも結婚してほしい」

 告白をしてくる男に、娘は何と答えるか……を自分で考えてと言われて、散々迷う。
 腹黒娘?天然娘?どっちなのだろうか。

 考えた結果、「はい」と答えた。
 私の中では、天然娘が勝ってしまったのだ。

 これは貴重な体験で、私は『腹黒』にはなれないんだなと思った。

 しばらくすると、講師の一人が妊娠をした。
 それを受けて、『赤ちゃんはまだ言葉を知らない。言葉を発さずに手をたたく事で、何かをさせる』というものをやった。

 答える人は、妊娠した講師。
 お題は『歌う』

 他の人たちは講師が『歌う』に近い行動をすると、皆で手をたたいて知らせる。
 これは、伝えるのが大変だった。最初は何かを話す度に手をたたいていたのだが、講師はずっと何かをしゃべっている。
 すると、『何をして手をたたいているのか』が分からない。

 最終的に「分からない」と言う事で、終わった。
 言葉を使わずに伝える事が、こんなに難しいのかと思った。

 講師が妊娠して講座の場所も変更になったので、インプロも行かなくなった。 


 



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