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8話 ライオンの記憶

 その日は保育園のお祭りだった。
 ほっちゃんと、母と、私でそのお祭りに行った。
 ヨーヨーや輪投げなど、簡単なゲームがいくつかある程度の簡易な祭り。
 手作りの品なども売られていた。
 猫の飾りを買った事を覚えている。

 その中で動物のメダルのようなものが、くじの商品としてあった。
 メダルと言っても金属ではなくて、フェルトでかわいく作られていて首から下げるものだった。
 いくつかの動物があった。私とほっちゃんは、くじを引いた。
 ほっちゃんはウサギ、私はライオンをくじで引き当てた。
 頭の片隅で、ウサギが良かったなと思った。
 けれど、手の中にはライオンがある。これはこれで、悪くはないと思い直した。

 その夜、とても怖い夢を見た。
 夢の中で何かが追いかけてきた。私は泣き叫んで目を覚ました。
 目が覚めると、母も妹も寝ていた。
 父が「大丈夫か?」と声をかけてくれた。
 私は夢の話を必死でするけれども、うまく伝えられない。
 とにかく私は、動物のメダルに夢の中で追いかけられたのだと伝えた。

 父は私を抱っこして、動物のメダルを置いたリビングへと向かった。
 動物のメダルはそこにあった。
 ウサギのメダルが二つ。
 私は必死に「違う。ライオンが出たの」と言った。
 父は祭りには行っていない。何の事だかわからないという顔のまま「もう、寝よう」と布団に押し込められた。

 次の朝、メダルはやはりウサギだった。
 母に「メダル、ライオンだったよね?」と確認してみた。

「何言っているの?おそろいのウサギだねって言っていたじゃない」

 不思議そうな顔で母は言った。
 妹に確認しても同じ言葉が返ってくる。

 私が選んだものは最初からウサギになっている。
 確かにあの時、「ウサギもいいな」とちらっと思った。
 けれども、手元にあったのはライオンだったはずだ。

 何が何だか分からず私は数日、ライオンを探したけれども出てこなかった。

 父も真夜中の事を「知らない」と言った。
「起きていないし。お前が泣いていた事も知らない。寝ぼけたんだろ」

 確かに父が起きて私を抱き上げるなんて事は、記憶にある限り一度もない。
(母が言うには、父は一度だけ夜泣きしていた私をあやしたことがあるらしいが、私の記憶にはない)
 母ではなくて、父が気が付いて起きてきて私に声をかけるというのも不自然に思ったような気がする。

 あの日、悪夢にうなされて起きたことも、お祭りの記憶も全てがおかしい。
 あれが何だったのか、いまでもよく分からない。






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