14話 予感
年に数度、東京に行く事に疲れた頃、東京の方で仕事をすることを思いついた。
とはいえ、都会のど真ん中は無理。
ちょっと外れたところで、私にもできる仕事を探した。
理由はそれだけではなかった。
会長様の様子が変だと思った。
メールの内容もチャットもおかしなところは一切ない。説明は出来ないが、あえて言うならただの勘。
何となく、もう少し後になったら会長様に私が必要になるという勘。
そして同時に、会長様を助けたら私が潰れるという予感もしていた。
私たちの関係は相変わらず、『名前がない』
恋人ではない。愛人ではない。
ただ、私が一方的に会長様を好きなだけ。
それだけでしかなかった。
それ以上になる事はなく、1年以上が過ぎていた。
秘密も秘密のまま、会長様も私も口にしない。
東京に行って、オフ会に参加して、一緒に泊まる。それだけの関係。
それは予感だった。
東京に行って、会長様を助けたら、この関係は終わる。
会長様に好きと告げてから、ずっと会長様だけを見てきた。
赤い糸はない。
知れば知るだけ、この関係に先がない事しか見えない。
絶望的に相性が悪い。
占いや直観ではなくて、お互いの性格や価値観を知った上での判断。
何もかもが『合わない』
否。一番合っていてはいけないところが合っている。
続いているのは、私の図々しさと、会長様の真面目さのおかげ。
けど、それはこの先も続くわけではない。
とても脆くて儚い関係でしかない。
私の事を『まるで鏡を見る様だ』と会長様は言った。
私にはそれは『永遠に触れることのない虚像』としか、考えられない。
永遠に触れる事がない。
どんなに恋い焦がれても、どんなに抱かれても、どんなに言葉を交わしても
まるで鏡に触るように、まるで鏡に語るように、一人芝居でしかない。
私が会長様を好きな事に変わりはない。
変わりはないけれども、『好き』だけでは続けられない。
好きだけでは越えられない。
考えれば考えるだけ、この関係の続け方が思いつかなかった。
関係が続かないなら、せめて少しでも傍に……
終わりの為に。
その為に東京へ
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