1st. April
キャロル×私(高校生)の夢小説です。
Chapter 1の冒頭で出会ったのが、もしもキャロル様だったら…と妄想してみました。
道に迷った。
屋内なのに「道」というのも不思議な話だが、私は確実に行き先を見失っていた。角を左に曲がってから、三つ目の扉を開けて、その先にある階段を二階分降りた先の……どこだったっけ?
広すぎる校舎の中で、ため息をつく。あたりに人気はなく、私はどこか古代遺跡に迷い込んだ探索者のような気分になった。封印された魔王が蘇る前に、はやく脱出しよう。
「よしっ」
自分を鼓舞して、前へと踏み出す。
そのとき、ふらりと前方の曲がり角から、男子生徒が現れた。
「あのっ! すみません!」
私の声があまりに大きかったので、彼はビクッと身じろいだ。立ち止まり、怪訝そうな顔でこちらを見返す。
「はい?」
「すみません……。特待生寮は、どちらでしょうか?」
私が尋ねると、彼は驚いたように幾度か瞬きをしてから、あぁ、と短く呟いた。何か思い当たることがあったのだろうか。しかしそれを尋ねる間もなく、彼はこちらに背を向けるなり、さっさと歩き出してしまう。
「こっちです」
遅れて、声を投げかけられた。慌てて小走りでついていく。ふと横顔を見上げると、なぜか不機嫌そうな表情をしていた。
(もしかして、何か急ぎの用事があったのかな……)
申し訳なさを感じながら、彼の後ろをついて階段を上る。
「――転入生?」
ふいに、前方から問いが投げかけられる。
彼の言う通り、私は転入生だ。思えば、この時期に入ってくる学生は珍しいのかもしれない。あまり目立つのは得意ではないので、私は内心で噂になっていないことを祈った。
「はい。四月からここに入学することになりました」
「そうですか」
それきり、会話が途絶える。
彼は表情を崩さないまま、時折、私の歩幅に合わせようと歩みを緩めてくれた。それでも階段を上り始めると、すぐ急ぎ足になってしまう。この人、かなりせっかちなタイプなのかもしれない。背中を追いかけながら、私は思った。
いくつか角を曲がると、廊下の先に「特待生寮 →」という看板がかかっている。
(やっと、たどり着いた……!)
気まずい沈黙が続いていたせいか、この廊下にたどり着くまでの道のりは、非常に長く感じられた。それでも、私一人では着けなかっただろう。振り返り、彼に礼を言う。
「ありがとうございました。お急ぎのところ、呼び止めてしまってごめんなさい」
「別に。僕も用事があったから」
「そうなんですか?」
聞き返すと、彼はぶっきらぼうな口調で答える。
「君と同じだ。この寮に住んでいる」
それが、彼――キャロルとの初めての会話だった。
* * * * *
同じ寮といっても、共有されているのはリビングと台所だけだ。
キャロルさん(まだ名乗ってもらっていないのだが、部屋のプレートで名前を知った)は、引き出しから私の部屋のカギを渡すと、それきり自室に引っ込んでしまった。
ほかの生徒はまだ留守らしい。そもそも、この寮に何人いるのかも分からない。私は廊下に並んだ扉を数えた。
1、2、3、4……5。たったの5人。
他の生徒も同じぐらい寡黙なのだろうか。かすかな不安を感じながら、私も自室へ向かう。
カチャリ。
ふいに、隣室の扉が開いた。振り向くと、キャロルさんが顔を出している。
「な、なんでしょう、……?」
無言で差し出されたのは、一枚の地図だった。
「あっ、校内図ですね! ありがとうございます!」
パタン。
お礼の言葉はむなしく、扉に遮られる。
でも、それほど嫌な気はしなかった。
(不愛想だけど、悪い人ではなさそう)
地図に添えられた小さなカードを見ながら、気づけば頬がゆるんでいた。
そこには、綺麗な字でこう書かれていた。
――ようこそ、と。
* * * * *
終