2022年度の児童相談所における虐待相談対応件数(速報値)について
こども家庭庁は2023年9月7日、令和4年度(2022年度)の児童相談所による児童虐待相談対応件数(速報値)を公表しました。
ここでは、発表された児童虐待相談対応件数の内訳や要因について、要点をまとめたものを紹介します。
相談件数の内訳
内容別では「心理的虐待」が約6割
2022年度の児童虐待相談対応件数の【相談内容別】の件数を比較すると、多い順に次のようになっています。
子どもへの「心理的虐待」は児童虐待相談対応件数の全体の約60%を占めており、具体的に次のようなものが含まれると言われています。
また、2番目に多い身体的虐待について、厚生労働省は「子ども虐待の援助に関する基本事項」の中で次のように定義をしています。
叩く、蹴る、引っ張ることのほかにも、拘束することや意図的に病気にさせることなども含まれています。
相談件数は過去最多!
また、2022年度の児童虐待相談対応件数は前年度より11,510件(+5.5%)増え、過去最多を更新しています。
【相談内容別】の増加率は多いものから順に次のようになっています。
子どもの虐待において、増加率が最も高いのが「ネグレクト」。
なぜネグレクトが増加しているのでしょうか?
一般的な要因として、次のようなことがあると想定されます。
経済的貧困・・・基本的な生活必需品や医療費を支払えない経済的な困窮により、子どものケアに必要なリソースを割くことが難しい。
精神的健康の問題・・・親がうつ病、ストレス、薬物乱用など健康上の問題があること。
社会的孤立・・・支援や助言を求める場所や人がいないこと
ストレスフルな生活状況・・・離婚や家庭内暴力、職場での問題など、親や介護者がストレスフルな生活状況におかれていること
教育や情報の不足・・・親や介護者が適切な育児方法や子どもの発達についての知識を持っていないこと。また教育や情報の提供が不足している地域であること。
この様にネグレクトしようとする意志がなかったとしても、健康、家計、教育などの環境的な要因から子どもへのネグレクトへ発展してしまうケースも少なくありません。
警察からの相談が半数
更に子ども家庭庁は相談の経路別件数も発表しています。
最もも多いのは警察からの相談だったようです。
相談の経路は警察などが最も多く、全体の51.5%を占めています。
また、近隣知人からは全体の11%、家族親戚は8.4%、学校は6.8%となっており、警察からの相談が群を抜いて多いことが分かります。
相談が増加した要因
また子ども家庭庁は、児童虐待相談対応件数(速報値)が前年度に比較して増加した要因について、次の3点を挙げています。
①心理的虐待に係わる相談対応件数の増加
心理的虐待に係わる相談対応件数は、前年度が12万4,724件だったところから、今年度は12万9,484件。
4,760件増加しているのです。
こうした心理的虐待を受けた子どもたちは、青年期、成人期に成長しても後遺症に悩まされる可能性もあります。
②警察等からの通告の増加
警察からの児童虐待相談は前年度が103,104件だった所から、2022年112,965件となり、約1万件増加しています。
警察からの相談経路については、前年度も全体の49.7%を占めており、毎年多くの児童虐待の相談が警察を通して来ていることが分かります。
子ども家庭庁の発表資料の中には、警察からの通告増加の要因について触れられてはいませんでしたが、子どもの虐待・権利に関する啓発活動の増加や社会の関心の高まりなどが考えられるでしょう。
③児童虐待防止に対する意識や感度が高まり、関係機関からの通告が増加
警察等への通告が増えたことにも関係があると考えられますが、自治体への聞き取りから、関係機関の児童虐待防止に対する意識や感度が高まり、関係機関からの通告が増加したことも分かったそうです。
警察等からの通告増加の要因にも重なる部分がありそうですね。
何よりも私たちの問題意識の高まりが、子どもたちを助けるきっかけ作りになることが分かる結果ではないかと思います。
死亡事例の公開も
今回の児童虐待相談対応件数(速報値)の公表のほか、「子ども虐待による死亡事例等の検証結果等について(第19次報告)」についても公開されました。
2022年4月1日から2023年3月31日までに発生した子ども虐待による死亡事例等が挙げられており、虐待死事例は心中18件(24人)を含む68件(74人)が期間内に確認されたと、子ども家庭庁は報告しています。
死亡事事例が起こった年齢
心中以外の虐待死(50例/50人)について、年齢別で見ると0歳が全体の48%を構成しています。
また虐待の類型を見ると、身体的虐待が21例で全体の42%、ネグレクトが14例で全体の28%でした。
加害の動機
加害の動機については、心中以外では「しつけのつもり」が2例あり、心中による虐待死では「保護者自身の精神疾患、精神不安」が37.5%で最も多かったです。
次いで「育児不安や育児負担感」「夫婦間のトラブルなど家庭に不和」などが挙げられています。
対応策まとめ
こういった死亡事例に対して子ども家庭庁は「問題点を踏まえた対応策のまとめ」を提言しています。
各家庭ごとの実態把握と、複数の自治体、専門家、支援機関による体制の強化・構築が主な内容となっています。
状況の変化に応じたリスクアセスメントの実施
一時保護や措置の開始・解除時の総合的なアセスメント、丁寧な調整、 継続支援の実施
家族全体の生活実態の把握と家族機能の構造的なアセスメントの実施
母子保健部署の特性を活かした支援の強化
複数の自治体が関与する移管時の丁寧な引き継ぎと協議の場の設置
児童相談所と市区町村虐待対応担当部署間におけるリスク評価の共有と 支援方針の統一
高年齢児への支援
支援機関の体制の強化
関係する地域資源と連携した見守り体制の構築
子ども家庭庁の児童相談所における児童虐待相談対応件数(速報値)の公表資料の中には、実際の死亡事例のケース3つと重症事例なども公開されています。
こうし子どもの虐待を未然や重症化前に防ぐことが出来るよう、私たち自身からまず「問題意識を持つ(アンテナを張る)こと」から始める必要があるのかなと感じました。
◆取材・編集
中村愛 - Ai Nakamura
青山学院大学経済学部卒業。新卒で医療福祉施設のM&A担当として新規施設の開所に携わる。その後児童福祉施設の支援員、タウンニュース編集記者を経て福祉業界に特化したフリーライターに。NPO法人夢の宝箱の広報担当。
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