面接に行って会社を査定
会社が倒産して職探しをしていた時、数社に面接に行った経験談だ。
40代だった。
まだ社会経験が少ない若造ではない。
切羽詰まっていたが、そうかといってどんな会社でもいいわけではない。
面接はそれぞれが見極める対面の場だ!
職探しをしていてある会社の社長を訪ねた。
私より10歳ほど年上の音楽趣味が共通の知人だ。
なぜこの人を訪ねたかというと数年前に突然私の所へ来て、うちの会社に来ないかとお誘いを受けたことがあるからだ。
ひょっとしてまだその意志があるならと期待しての訪問だ。
しかしその後会社の状況が変わり人を入れる余裕はないとあっさり断られてしまった。
その代り今堅実に売り上げを伸ばしているという会社を紹介して頂くことになった。
そして数日後その会社へ面接に行くことになった。
緊張しながら面接を受ける会社へ
その会社での面接時間は午前9時からだ。
8時40分にその会社の近くまで来ていたが時間調整をして9時5分前に会社に入った。
その面接の前日、ネットなどでその会社の内容を大まかに調べていた。
事業内容の他に、従業員数や資本金、売上金額、取引銀行などだ。
知人の社長が言ったように堅実で悪くない会社だと感じた。
会社に入って受付で要件をいうと応接室で待たされた。
そこには4人掛けの立派なソファーがあり、壁に控えめで品のいい絵が飾られている。
そこへノックをして入って来たのはおそらく総務課長といったところだ。
私より10歳ほど年上かと思えるその男性が「すみませんが二階の事務室へお上がりください」と言った。
ここで面接を行うのかと思っていたが、事務室でするということに理由はあるのだろうかと思った。
心を見透かされたように応接室のドアを開けながら総務課長らしき人が付け加えた。
「すみません、専務にここでは狭いと言われまして」
私はどこでも構わないが、狭いということはこの総務課長とその専務だけが面接をしてくれる分けもなさそうだ。
二階へ上がると4列に並んだ机の半分程度に事務職員であろう人が座っていた。
その一番奥に私の身長より少し高いパーテーションで仕切られた一角があった。
私は周りを見回しながら歩いた。
パーテーションの中には長机とパイプ椅子が置かれていた。
そこへ恰幅のいい60前後の紳士が現れた。
私が頭を下げると名刺入れから名刺を取り出しながら、「今日は午前中大丈夫ですか」と言われた。
内心「えっ」と思ったが「はい」と答えた。
「意味がよく理解できなかったが「どういう意味ですか?」とは聞けなかった。
総務課長だと思っていた人は総務部長だった。
二人が座られたので私も「失礼します」といって腰を掛けた。
3時間の面接開始
私の履歴書を見ながら総務部長が口火を切った。
「何度か転職されているようですが理由を伺っても宜しいでしょうか」
私は正直に答えた。
自己都合で仕事を辞めたのは一度だけだったことを伝えた。
私は仕事とお金には縁が薄いんだろうと思いはじめていたころだった。
縁が薄いと言ってもこれまで仕事をして来たんだからまったくご縁がないわけでもない。
その後も私への質問は続いた。
「資格はここに書かれているだけですか?」
「これまで営業以外の仕事をされた経験はありますか?」
「タバコは吸われますか?」
「お酒は飲まれますか?」
「どのくらい?」
「家族は何人ですか?」
「奥さんは何をされていますか?」
そんな事までと思うようなありとあらゆる質問が飛んできた。
今なら少し問題になるのではと思えるような質問もあった。
その質問攻めの後は会社説明だった。
資本金や売上金額、業務内容や業績、有資格者の人数や資格の種類などだ。
ホームページを見てきたので知っていることも多かったが、「そうですか」と返事をしながら聴いていた。
今度はこちらが面接する番だ
一方的な面接が始まってから既に1時間は経過している。
こんな長時間に及ぶ面接は初めてだった。
正直に言うと聞かれる事にも飽きてきた。
最初は面接というのはこんなものなのだろうと思っていたが、それにしても少し長いのではと感じていた。
そう言えばこの会社を紹介して頂いた知り合いの社長からは、この会社が健全な会社だとしか聞いていない。
面接が始まった時は総務部長と専務の二人だったが、この時点で社長と常務が加わり4人になっていた。
更にその後、もう一人加わって5人になる。
私は、あれだけ一方的に多くの話を聞かされたのに、もしこの会社に入ることになればどんな仕事をさせられるのかということもまだ聞いてはいなかった。
色んなことを聞きながら、もし私が面接官ならどんなリソースを持った人なのかを聞き出すだろうと思っていた。
私はその時まで営業職だろうと勝手に決めつけていたのだ。
「すみませんが少し質問させて頂いても宜しいでしょうか?」と今度は私からお願いした。
総務部長が「どうぞ何でも聞いてください」と言うので質問を始めた。
「先ほどお聞きしたので会社のあらましは分かりましたが、この売り上げ金額のほとんどは粗利ということでしょうか?」と質問した。
従業員数に対して売上金額が低いと感じたからだ。
後からこの面接に加わった人が「その通りです」と答えた。
やっぱりそうかと思った。
「弊社はサービスを売っているので仕入れがありません」とその方が付け加えた。
それで有資格者が多い理由と結びついた。
ということはこの会社に入社したとすれば、資格取得をしなければならないということだ。
英字の社名からは読み取れない情報だった。
私は「もうひとつ伺っても宜しいでしょうか」とお願いした。
「御社の社訓をお聴きしても宜しいでしょうか」と聞いたのは、事務室の壁に掲げられている社訓が気になっていたからだ。
三項目書かれた理念の最初の書き出しが「会社は道場だ」から始まっていたからだ。
「よく聞いてくれました」と言わんばかりに長々と会社理念について聴くことになったが、今となっては誰が話されたのかも何を言われたのかも記憶にない。
ここへ通された時、事務所を観察したのはこの会社の根本的な信念や価値観を読みとるためだった。
掃除は行き届いていてガラスに汚れひとつないが、壁に貼られたクロスは黄ばんでいて、パソコンはどれも古そうだった。
肝心の給料の話をするまでもなかった。
これを見れば事務所だけでなく、人件費のような一般管理費にお金を使わない会社なのは聞くまでもなかった。
そこへこの社訓が念を押したと言うことだ。
おそらくこの社訓の深い意味は静粛、清潔、安全を旨として心身を鍛錬せよと書かれたものなのだろうが、40も過ぎて倒産を経験した私には「従業員は矛盾した対価であっても我慢して働け」と言わんばかりだと受け取った。
面接は正午前まで続いた。
不採用か採用かはここでは書かないが、私がこの会社に入社することはなかった。
この面接で改めて、会社にとっての社訓や社是は大切だと思い知ることになった。
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