♯2 司法試験論文式試験の中身 完全解剖!

※この記事は司法試験本試験の論文式試験について、全然イメージが沸かない人やどうやったら点が取れるかわからない人に向けて作成しています。
※勉強はしているけれど、成績が伸びないと感じている人は是非読んでほしいです。
※私の記事は自己紹介の記事にも書かせて頂いた通り、上位合格するための秘訣ではなく、確実に合格する力を得ることにフォーカスして解説している点ご了承ください.

 法律の勉強が、高校や、大学入試などと大きく異なる点は、覚えるべき知識の総量が見えないこと、最終ゴールである、論文の評価がどうされているのか初学者には特に全く見えない点にあると思います。知識の総量については、「#3司法試験合格に必要な知識量・勉強量とは」で書かせて頂いています。そこで今回は、司法試験受験の最終ゴールである論文式試験を紐解いて行きます。
 論文式試験は、試験後にどういう出題意図で問題を出したかという出題趣旨と、実際の受験者がどのようなことを書いたのかについての採点者の感想のような採点実感が公開されています。しかし、具体的に〇〇を書いていたら何点といったようなことは分からず、そのため、自分の出来が今どれくらいにあるのか非常に不明確なのです。
(論文式試験の問題は、法務省のページに載っているのでまず軽く見てみてください)
 論文式試験は、以前の旧司法試験の段階では、短い問題文で出題されていました。新司法試験では長文で構成される文章で問題が構成されており、それに対してA4用紙各科目8ページが回答用紙となっています。
 では、8枚も何を書いたらいいんだ?ということになると思うのですが、論文式の回答の要素を抽象化すると、①基本的な法律知識、②問題文の事実のうち問題作成者が触れてほしい事実について摘示すること、③②の問題文の事実に対する評価、④問題独自の論点に気づくこと、⑤④の問題独自の論点について法的思考を持って解決すること になります。

①基本的法律知識

 ①の基本的法律知識とは、憲法であれば表現の自由について聞かれているな、刑法であれば傷害罪について聞かれているな等と言ったように聞かれていることを把握し、それについて知っている知識を書くことです。例えば、傷害罪だと人の生理的機能に障害を加えることが実行行為だなというようなものです。つまり暗記しておくべき基本的知識ということです。

②問題文の事実の摘示

 ②の問題文の事実は、Aは全治2週間の腹部の損傷を負った、等、問題文に書いてある事実の中で、作成者が触れて欲しい事実のことです。

③問題文の事実に対する評価

 ③問題文の事実の評価とは例えば、刃渡り20cmのナイフは「生物にとって重要な器官である各内蔵に達する程の長さのある危険性の高い凶器」であるというような評価を与えることです。

④問題独自の論点に気づくこと

 ④問題独自の論点に気づくこととは、皆が覚えている基本的知識では、結果が通り一遍なものとなるが、そのままの結果では当事者達にとって非常に不合理な結末になるということに気づいて、どう不合理なのかを摘示することを言います。

⑤④の問題独自の論点について法的思考を持って解決すること

 ⑤④の問題独自の論点について法的思考を持って解決することとは、上記論点について、妥当な結論を導くために、理由を示しながら規範を定立し、具体的な事情に照らして検討することを言います。

 以上の5つについて8ページに渡って書くのが司法試験論文式試験になります。では、どこで合否が付くのでしょうか。司法試験は実務家になるための資格だから臨機応変に思考できるか評価できる⑤の出来でしょうか・・・違います!おそらく、司法試験委員会の意図としては、⑤の出来で合格者を決めたいのだと思いますが、実際は①〜④までで、全てが決まってしまうのです。なぜなら、①〜④までで受験生のレベルが評価可能なぐらい差がついてしまうからです!丁寧に紐解いて行きます。

①の基本的知識とは

 ①の基本的知識とは、演習書(論文マスターや重問、サブノート等)1冊で学ぶ知識+過去問演習で学ぶ知識になります。「♯3司法試験合格に必要な知識量・勉強量とは」以降で書かせて頂いたように私でいうと暗記カード524枚分(選択科目を除いた7科目)がこれに当たります。これらの知識はある程度ちゃんと勉強している司法試験受験生であれば全員が覚えているものです。 
 しかし、この精度で非常に差が出ます。過去問で解いて知った知識を、暗記して答案でスラスラと書けるようにまで落とし込めているでしょうか。なんとなく、解説を読んでこんな感じの方向性か〜ぐらいの解像度では知識には出来て居ないのです。
 また、よくあるのが曖昧な暗記です。スラスラと出るのではなく、こんな感じのこと言ってたなあ程度の肌感で把握している人が非常に多く居ます。司法試験は、1年に1回しか受験することが出来ないものであり、また、人生に大きな影響を与える試験です。だからこそ、受験生は、試験本番頭が全く回りません。では、曖昧にしか暗記していない人はどうなるか・・・そう穴のある知識を書くことになり、採点者に違和感を与える答案になります。
 しかしながら、この基本的知識の精度について気をつけている受験生は多くなく、多くの受験生は⑤にあたる新たな論点に飛びついて、そういった論点を網羅しようとします。なので基本的知識を正確にスラスラ書けるだけで点は非常に高くなります

②問題文の事実の摘示とは

 上記でも書きましたが、受験生は、試験本番頭が全く回りません。では、どうなるのか。問題文が斜め読みのようになってしまい、事実を拾い落としたり、問題文を読んでいるときは、後で答案に書こうと思っていても、答案構成がおわっていざ答案を書こうとしたときには、書き忘れるといったことが頻発します。実は問題文の事実を拾い落とさないというのはできる人が非常に少ないです。受験生はついつい法律論にフォーカスして過去問を解くあまり、事実を拾うことが疎かになりがちです。これはおそらく、問題文の事実は再度出るものではないから、法律論のみ抑えておこうという思考なのではないかと思います。
司法試験はミスリードをする問題文がない試験です。言い換えれば、司法試験の全問題文は拾って欲しい文なのです。あなたがミスリードが許されない問題かつ長文の問題を作成する立場になったとしたら、おのずと受験生に拾ってほしい事実ばかりを含んだ文を書くことになるのが想像できると思います。
 にも関わらず多くの受験生は、過去問演習において事実の拾い落しについてリストアップしたり着目せず、現場思考の法律論や’’美しい’’事実の評価にばかり目がいきます。そのため、事実を拾い落とさないだけで、かなり周りより浮くことが出来ます。是非皆さんは、演習書を解いたり過去問を解いたら、参考答案等と自己の答案構成を見比べて、拾い落とした事実がないか丁寧に確認する癖をつけてください。

③事実の評価について

 ついつい独自の視点≒誰も言えていない視点で評価出来ると高い点が付くと思いがちですが、決してそうではありません。法律家に求められるのは一般感覚になるので、凡人の思いつく視点で十分に評価されます。それよりも③の事実の評価についてミソになるのは、②でそもそも拾えていない事実は、解答用紙に上がってこないので評価しようが無いということです。つまり、②で拾い落とさずに拾えて、それにいちいちめんどくさがらずに一言でも評価を加えていれば十分雪だるま式に点は増えていきます。

④問題文独自の論点に気づくこと

 ④問題独自の論点に気づくこととは、先程、「皆が覚えている基本的知識では、結果が通り一遍なものとなるが、そのままの結果では当事者達にとって非常に不合理な結末になるということに気づいて、どう不合理なのかを摘示することを言います。」と説明しました。言い換えると、問題文独自の論点とは、現実の実務世界ではほとんど発生しない非日常ケースのことを言います。そして、基本的知識が、なぜ”基本的”知識というかというと日常の実務世界は、あなたが普段覚えるべき基本的知識だけで不都合なく機能しているから、です。
 つまり、基本的知識のみでは、問題文の当事者に不都合な結果となってしまうことを答案に示せれば、それをもって④の論点の摘示は出来たということになります。
 にも関わらず、多くの受験生は、問題文の論点に気づけないということを防ぐために、判例集の読み込みや多くの演習書に手をつけようとします。しかし、上述の通り、実のところなぜ問題文独自の論点に気づけていないのかというと、上記の視点がそもそもないか、基本的知識の精度が低いためです。
 そのため、問題独自の論点を覚えようと判例集の読み込みや多くの演習書につけて、実際に本試験本番でそれが問われたとしても、そもそも基本的知識が低いと問われていることに気づけないことになってしまいます。
 また、問題独自の論点=現場思考の論点というのは非常にニッチな知識になり、覚えようとすれば非常に非効率極まりません。
 更に、現場思考の問題=受験生の大半が試験会場で初めて見る論点=皆出来ないから多くの人が緊張感等から迷走し勝手に自爆する→基礎に忠実なだけで論点にまで気づけるので高得点が狙える
 なので、あなたには、試験本番わからない問題に直面した瞬間、分からないと焦るのではなく、むしろ皆勝手に自爆してくれるから基本的知識から丁寧に書くだけで周りより高い点が出せる!と喜んでください。
 つまり、④は、(基本的知識を用いて)〇〇という結果になるが、△△(問題文の当事者の事情)の点から不合理である。と書ければ十分なのです。

⑤④の問題独自の論点について法的思考を持って解決すること

過去問を演習する中で、多くの受験生が、この⑤の部分の解説や模範答案・再現答案を読んで、うわ、自分ではかけなかった、知らなかった知識だと思ってストックしようとしたりします。受験生心理としては、自分が出来なかったと’’わかりやすく’’感じる⑤にばかり目が行くのは納得出来ます。そして、こういう問題独自の論点は、マイナーな判例や最新の判例から想起され出題されます。そうすると、判例集を読み込んだり、最新判例の解説をしている予備校の講座を受講しようとなったりするのです。
 しかし、実は、上述の通り、①〜④を正確に辿れていないと、論点に気づけないので、知っていても答案にはかけません!しかも、①〜④を正確に辿れていれば、その時点で上述の通り、周りと十分に差がついているので確実に1,000位以内での合格が出来てしまうのです。
 つまり!確実に合格するという視点にたてば、①〜④を正確に辿れるようになるだけで十分であり、⑤はあくまで、上位合格を狙いに行くための要素でしかないことが分かると思います。
 そのため、私は、確実合格について判例集の読み込みや最新判例に手を出すのは、’’ズレて’’いると言いたいです。

①〜④で合否が決まるということわかってもらえたかと思います。①〜④を一言で言うなら、精度の高い基本的知識+問題文の事実をすべて拾って評価をつけることになります。
 そして、精度の高い基本的知識とは、過去問と演習書から得られる7科目合計で524個ほど(私が作っていた暗記カードで)の知識であるということを覚えていただきたいです。
 そして、全ての事実を拾い落とさないように、答案構成のやり方については別記事でお伝えできたら幸いです。

最後に

 私が受けた令和5年の採点実感にはこのような記載があります。

令和5年会社法採点実感
設問2については、比較的多くの答案が問題の所在に気が付いていたように思われるところであり、多くの受験者が一度は学習していたものと思われる。そのような中でも、極めて高い評価が得られた答案から極めて低い評価となった答案まで幅広く分布する傾向にあったのは、 このような事項を学習する際に、民法の共有に関する規定や民事訴訟法における訴訟要件と会社法の諸制度との関係に関する基本的な理解をより確実なものとするように意識していたか否かで差が出たものと思われる。
令和5年民訴法採点実感
受験者が、①民事訴訟の基礎的な原理、原則や概念を正しく理解し、基礎的な知識を習得しているか、②それらを前提として、設問で問われている課題を的確に把握し、それに正面から答えているか、③抽象論に終始せず、設問の事案に即して具体的に掘り下げた分析及び考察をしているかといった点を評価することを狙いとしている。
2 採点方針
答案の採点に当たっては、基本的に、上記①から③までの観点を重視することとしている

令和5年度司法試験採点実感

 人生の一大イベントの司法試験は極限状態で普段の力を発揮できる受験生はほとんどいません。上述の採点実感にあるように、司法試験採点官は、基本的知識+問題文の事実を拾って評価できているかを非常に重要視しているし、それだけで評価の差がついていると言ってくれています
 なので安心して、最新判例の論点や難しい論理・法律にこだわらず、私のnoteのように論文式試験を理解して頂ければ幸いです。
 ここまで読んでくださりありがとうございます。気になることや相談したいことがありましたらDM(https://twitter.com/yume_noatosaki)送ってください。あなたの合格を心より祈っています!

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