西川龍馬の長打力開花について
後半戦開始以降、それまでの11連敗中の得点力不足が嘘かのように得点を積み重ねる広島打線の中で、1番打者に座る西川龍馬がより存在感を増しているように思います。
前半戦では、3番もしくは5番といった4番・鈴木誠也の前後を任されることが多かったですが、後半戦からは1番に活躍の場を移し、既に先頭打者本塁打を4本放つなど、意外な長打力を発揮しています。
前半戦までは、特筆すべき点のない成績であり、多くクリーンナップに起用されながら長打力を見せつける場面も無かった西川が、ここにきてなぜ長打を連発するようになったのでしょうか?
その真相について、以下にて考察していきます。
※成績は8/2終了時点でのもの
1.西川の打撃スタイル
西川に生じている変化点を探っていく前に、西川の打撃スタイルがどのようなものであったかを整理していきます。
最初に西川の打撃の簡単な特徴を述べておくと、鈴木誠也からも「天才」と称されるような卓越した打撃技術を持ち、身体能力こそ高くないものの、綺麗に体の回転を使って広角に鋭い打球を打ち分けるヒットメーカーです。
年々出場機会が増加するとともに、打撃成績も右肩上がりで、昨季は規定打席には未達ながらも、打率は.309まで達し、OPSも.814とレギュラー野手としては十分な成績を収めています。
そんな西川の打撃のスタイルの詳細について、少し細かいデータを用いて見てみると、K%とBB%はリーグ平均以下の数値を示しており、三振や四球が少なく、早いカウントから積極的に打って出る打者であることが分かります。
純粋な長打力を示すISOを見ると、過去2年はリーグ平均を上回ってこそいるものの、ほぼ平均と変わらず、またGB%とFB%を見ても、過去3年全てGB%の方が高い割合を示しており、打球に角度を付けて遠くへ飛ばすパワーヒッターというよりも、アベレージヒッター寄りの打者であることが改めて分かります。
また、Contact%が高く、SwStr%(空振り率)が低いことから、バットに当てる能力には長けており、これが三振と四球の少なさに結びついているのでしょう。
以上から、西川の打撃スタイルは決して長打を量産するようなものではなく、コンタクト能力の高さを生かした、高いアベレージを残せるようなタイプであることが分かります。
2.いつどのような変化が生じたのか?
これまでの西川の打撃スタイルが、アベレージ寄りのスタイルであることを確認したところで、いつから長打を連発するようなスタイルへの変化が生じたのでしょうか?
月別の打撃成績と、打順が頻繁に変わっていることから打順別の成績を基に、どこで打撃に変化が生じたのかについて確認していきます。
まず月別の打撃成績をまとめたものを確認していくと、26試合連続安打をマークした5月には打率.366でOPS.901、長打力の開花を見せた7月には打率.305でOPS.894と、バティスタ・鈴木誠也に次ぐ打力を見せつけています。
その一方で、3/4月と6月はレギュラークラスとしては苦しい打撃成績で、チームの浮沈をそのまま反映するような隔月の傾向の強い打撃成績となっています。
もう少し詳細な打撃成績を確認すると、5月と6月の間でGB%とFB%の割合が逆転しており、最初に確認した西川の打撃スタイルと大きな相違が生じていることが分かります。
昨今流行りの「フライボールレボリューション」を意識してかは、本人の知るところのみですが、そのような事象が生じているという事実は間違いありません。
クリーンナップに起用されることも増えたため、長打の意識が高まったことが、その要因なのかもしれません。
このFB%の上昇につられて、6月以降本塁打数やISOといった長打力を示す指標も右肩上がりとなっており、アベレージ寄りの打者からパワーヒッター寄りの打者へと変貌を遂げつつあることが分かるでしょう。
それも、強い打球を飛ばしやすい引っ張りの打球を増やしてのものではなく、広角に打ち返すという特徴を残しながらの長打力増である点から、これまでの打撃スタイルの延長線上での進化ということも分かります。
続いて、打順別に今季ここまで多くの打席に立っている1番、3番、5番の打順ごとの成績をまとめたものを確認していきます。
1番時の成績を確認すると、ISO.301という圧倒的な長打力を発揮しているという点もさることながら、K%とBB%が3つの打順の中で最も高い値を示しており、早いカウントから積極的にバットを出していくスタイルから、少し待球型へとシフトしている様子が窺えます。
積極打法すぎる西川には、多少待球も要求される1番という役割が、思いのほか縛りとなって、より自分にとっての好球を待って捉えることに繋がっているのかもしれません。
5月の好調時に座っていた5番時は、K%やBB%が最も低く、バティスタ・鈴木誠也という前の打者が出塁し、會澤翼が後ろに控える状況の中、ストライクゾーンへの投球が増えがちだったところに、積極的にバットを出していくこれまで通りのスタイルがピタッとハマったのでしょう。
以上より、6月頃からフライ性の打球が増え始めたことと、1番打者に座ることによる待球意識の高まりから、これまでは待ち切れなかった好球を待てるようになったことが上手くマッチし、長打力の開花に繋がったと推測されます。
3.高めへの対応の変化
1番打者に座ってから、既に5本の本塁打を放っていますが、いずれも真ん中から高めのストレートを叩いての本塁打です。
それまでも、インハイのボールを本塁打にするシーンは見られましたが、真ん中高めやアウトハイのボールを本塁打にするシーンは中々ありませんでした。
その要因としては、上記ツイート中の動画のように、高めのボールに対して上から被せにいくスイング軌道になっていたことが考えられます。
被せにいくスイング軌道となってしまうことで、打球に角度を付けづらく、外野の頭を超すような長打が生まれづらいスイングとなっていました。
低めのボールに対しては、ボールの軌道にバットを入れるようなスイング軌道を描いていることから、恐らく意図的に被せにいくスイングを行っていたのでしょう。
意図的に打球に角度を付けないことで、ゴロ/ライナー性の打球を増やすような打球性質の管理を行い、5番打者として状況に応じたチーム打撃を意識していたのだと推測されます。
身体との距離が近く反応が勝負となるインハイに対しては、自然な反応でスイングが出来ていたため、被せにいくスイングとならず、本塁打が生まれていたと考えられます。
それが、1番打者に座って以降の本塁打シーンを見ると、高めに対しても低めと同じようなスイング軌道を描いてスイングが出来ています。
そのために、高めのボールにも角度を付けて弾き返すことが出来るようになり、長打に繋がっているのでしょう。
このような変化が生じた要因としては、やはり1番打者への定着が大きいのではないかと考えます。
元々、「後ろは小さく前は大きく」というスイングが出来ており、ボールを飛ばせる素養は持っていましたが、制約が少なく自由度の高い1番打者に座ることで、他の打順では意識していたチーム打撃の意識を取っ払えたのではないでしょうか。
そのために、高めに対しても低めと同じようなスイングが出来ているのでしょう。
4.まとめ
・西川の打撃スタイル
積極的にバットを出していくアプローチで、コンタクト能力の高さを生かしたアベレージヒッター
・いつどのような変化が生じたのか?
6月以降の長打への意識の高まりからかフライ性の打球の割合の上昇と、ある程度の自由が利き、待球意識が必要な1番打者という打順がマッチして、長打増へ
・高めへの対応の変化
5番に座っていた時期は、チーム打撃を意識してか、高めに対して上から被せるようなスイング軌道を取っていたが、1番に座ったことによる意識の変化からか、高めに対しても下からのスイング軌道へと変化した
以上が本noteのまとめとなります。
このように西川の長打が増えたことで、下位打線が作ったチャンスを西川が返すような流れも生まれ始めており、ポイントゲッターとして重要な役割を果たしつつあります。
交流戦での失速や、先の11連敗には、バティスタと鈴木誠也という得点源が断たれたことが大きな要因として考えられるため、長打力を増して新たな得点源となりつつある西川の存在は貴重ですし、今後のチームの浮沈を握る存在かもしれません。