『ワンス・アポン・ア・スタジオ 100年の思い出』を簡単に評論
この記事では2023年10月16日、動画配信サイト「ディズニープラス」で配信が始まった短編アニメーション『ワンス・アポン・ア・スタジオ 100年の思い出』についてのレビューをしていきたいと思います。
『ワンス・アポン・ア・スタジオ 100年の思い出』について
基本データ/あらすじ
監督/脚本ダン・エイブラハム/トレント・コーリー
出演者 バーニー・マッティンソン/ロビン・ウィリアムズ/ジョシュ・ギャッド 他
『ウィッシュ』の同時上映である意味
今作品は「ウォルト・ディズニー・カンパニー」の創立100年を記念して製作された記念の短編映画だ。
内容は前述した通りディズニーカンパニー100周年を記念して、これまでディズニーが紡いできた作品、とりわけ世界で愛されるキャラクターが大集合し、記念撮影を行うというものだ。
この作品を「ノスタルジー」として感動する声が非常に多いが、「映画評論」をこれまで10年ほどしてきた僕としては、ただそれだけを理由に「素晴らしい」と片付けたくない。
登場キャラクターを片っ端から見て感想を述べるには知らないことも多いので、それはそちらの専門筋に譲ろうかと思う。
むしろ僕なりにきちんと評することが、この作品に対する礼儀だと思っている。
なのでたった10分足らずの作品ではあるが、たっぷり分析をしていきたいと思う。
ということで、この作品は今年の12月に公開されるディズニー長編アニメーション最新作『ウィッシュ』
こちらの同時上映となっている『ワンス・アポン・ア・スタジオ 100年の思い出』
長編アニメに短編が付いているというのは、ディズニー映画では時々あることだが、大体が2パターンの作風になっていることが多い。
次回作以降への技術なテストのケース
ひとつが「次回作以降の技術的なテスト」のパターンだ。
例えば『ウィッシュ』は昨今のアニメの主流になりつつある「手書き風CGアニメ」の風合いを取り入れており、いよいよ新時代へ方針転換をした作品だと言える。
その前段階として『ミラベルと魔法だらけの家』と同時上映された『ツリーから離れて』がある。
こちらの作品は、元々ディズニーが独自開発したソフト「メアンダ描画システム」の技術発展の到達点だ。
元々の狙いとしては、手描きの輪郭線が3DCGモデルに合わせて自然に動かせるようにし、3DCG作品でありながら、まるで手描きアニメーションのような風合いを作り出すことを念頭に開発された同ソフト。
その技術をどこまで最大限活かせるのか?
『ツリーから離れて』はそんな次世代に向けての実験の、ある意味成功例だったと言える。
当時の映画評論でも触れたが、個人的には『ミラベルと魔法だらけの家』本編よりも、こちらの短編の方が感動したくらいだ。
仮に今作品が「次世代への実験的側面」を持つタイプの作品だと仮定すれば、『ツリーから離れて』と同じく次世代の作品への実験だったとすれば、それはおそらく、手書きキャラとCGキャラの画面内での共存させることが狙いではないのか?
しかも、それらを実写世界で共存させるという、中々の荒技を実現させたことにこそ注目すべきだ。
本編と関連した内容を描いている
そしてもうひとつのケースも考えておかなければならない。
それが短編作品が本編と関連を示しているケースだ。
これは「ピクサー」系列の作品でよくあることだが、例えば今年公開された『マイ・エレメント』
こちらの短編は『カールじいさんのデート』という作品だった。
本編が恋愛映画だということもあり、短編もそれに付随する作品で、一旦観客をそのムードで温める、いわゆるウォームアップをさせている。
その観点で考えると、腑に落ちることは多い。
この作品はあくまで『ウィッシュ(WISH)』つまり「願い」というタイトルを冠した作品に付随する作品だということだ。
さて、ここで考えなければならないのは、「ディズニー」を構成するする3大要素だ。
これは映画本編の始まる前に描かれる、アバンタイトルに全て集約されている。
名曲「星に願いを」をBGMに、妖精(ティンカー・ベル)が魔法の粉を、城(夢の象徴の場所)にふりかける、そんな10秒にも満たないアバンで描かれること、これがディズニーの3大要素だ。
この3大要素を今後も「続けていく」
こうした宣言の展開が今作にはある、まずはミッキーのウォルトへの宣言。
そしてグーフィのしくじりでカメラ大破、そこから「星に願いを」を歌い繋ぎ、魔法でカメラが修復。
そして、これまで夢を紡いできた場所で記念撮影。
「これまでも、これからも続けていく」そんな宣言で幕を下ろす。
さて、そこから本編『ウィッシュ』に繋がるわけだ。
この作品は「ディズニー作品の総括」として描かれると言われている。
その中でも「願いの力」にフォーカスすると言われているが、やはりその前段階で劇場での『ワンス・アポン・ア・スタジオ』で、「星に願いを」を歌わせているのは、ウォームアップとしてこれ以上ないムード作りとも言えるわけだ。
ちなみにこれは『ウィッシュ』の考察にはなるが、ディズニーは2000年代後半から「プリンセスもの」の刷新を行った。
時代に合わせて、変化した女性像にディズニープリンセスを適応させて、じ「ジャンル」として延命させることに成功している。
今回は「願いの力」を時代に合わせて刷新するのか注目だ。
現在の世界では戦後これまでにないほど、「願い」が踏み躙られ、「願い」を持つこともできない人々がいる。
そんな時代に何を描くのか、これまでと同じように「願いは叶う」と宣言するのか?、それとも? とにかく注目なことは間違いない。
良いところ・気になるところ
さて、最後に僕のこの映画で気になったところ、好きな場面を挙げていきたい。
個人的にはこの『ワンス・アポン・ア・スタジオ』の面白さは、作品の枠組みを超えたキャラクターの絡みだ。
特に秀逸なのはエレベーターを待つシーン。
『ズートピア』のナマケモノ、フラッシュがゆっくりエレベータへ向かう、イライラするドナルド、そして端っこで絶妙な表情のゴーテル。
この空気感が非常に、おかしみを醸し出していた。
あと『ミラベルと魔法だらけの家』のアントニオが他の作品の動物キャラと走り回るシーンなどのクロスオーバー要素、この部分は組み合わせの妙などもあり非常に楽しめた。
ただ一つ気になったのは、ディズニー長編アニメはその歴史でアニメ制作の方法として大きく「三期間」に区分されているはずが、そこの部分が視覚情報として全くなかったことだ。
そもそも、長編アニメは「手描き期」「デジタル技術導入期」「CGアニメーション期」に区分可能だ。
例えばシンデレラなどは「手描き期」のアニメだが、今作では描線がデジタル処理なされているなど、当時の質感は再現されてなかった。
当然アリエルたちは「デジタル技術導入期」なので描線がデジタル処理されているのは理解できる。
このそれぞれの作品の制作時期に合わせて完全に当時の質感を再現していれば、視覚情報だけで「歴史の長さ」「技術の変化」を観客に見せることもできただろう。
そしてこれは意外なことだが「CGアニメ」時代のキャラクターは実写世界で登場すると、驚くほどに違和感がないのだ。
これは現在のアニメと実写が「CG全盛時代」のため、本質的に違いがないことを意味している。
つまり、例えばMCUなどの作品は全編グリーンバックで撮影、CGで背景を作り、爆発などを付ける。
これはキャラが人間なだけで、その他の要素は全て「アニメ作り」と本質は変わらないということだ。
こうした「実写」「アニメ」の境目が崩れつつあることを見せられ、驚かされてしまった。
まとめ
ということで、何はともあれここまで多くのキャラクターが一堂に集まることは今後もないと思うので、100周年の記念碑的作品として、やはり一見の価値ありな今作品。
本編は10分もないので、ぜひ手軽に見て、自分の好きなキャラクターを探してみて欲しい。
やはり100年積み上げられ生まれたキャラクターはディズニーの財産だし、世界の財産だとも言える。
そんな愛されるキャラが、今後も生まれていくのだろう。
そして今作はディズニーの本質とは何か?
それを端的に表現をしている。
そしてその流れを受けて『ウィッシュ』が世界に何を見せるのか?
そこに注目をして、作品公開を楽しみに待ちたい。
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