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『BAD LANDS バッド・ランズ』から見るジャニーズ俳優論

今週は新作映画について語りたいと思います。
と言うことで、今回は主演、安藤サクラ、山田涼介。
そして生瀬勝久ら演技派俳優を起用していることで話題。
当然原田眞人最新作としても話題の作品。

『BAD LANDS バッド・ランズ』
こちらを鑑賞してきたので、感想を語りたいと思います。


『BAD LANDS バッド・ランズ』について

基本データとあらすじ

基本データ

  • 監督、脚本 原田眞人

  • 原作 黒川博行『勁草』

  • 出演 安藤サクラ、山田涼介、生瀬勝久 など

  • 公開 2023年

あらすじ

大阪で特殊詐欺に手を染める橋岡煉梨(ネリ)と弟の矢代穣(ジョー)。ある夜、思いがけず3億円もの大金を手にしたことから、2人はさまざまな巨悪から狙われることとなる。
幼い頃からネリのことをよく知る元ヤクザ・曼荼羅を宇崎竜童、特殊詐欺グループの名簿屋という裏の顔を持つNPO法人理事長・高城を生瀬勝久、大阪府警で特殊詐欺の捜査をする刑事・佐竹を吉原光夫、特殊詐欺合同特別捜査班の班長・日野を江口のりこが演じる。

原田眞人作品とジャニーズ役者


昨今の原田作品の特徴

と言うことで、今作は年に一本ペースで最新作を公開しまくっていて、毎回それが話題になる原田眞人最新作だ。

しかも原田監督はここ最近の作品は「ジャニーズ」が主演もしくは、主役級のキャストをされている。
関ヶ原(2017年)  岡田准一
検察側の罪人(2018年) 木村拓哉/二宮和也 
燃えよ剣(2021年) 岡田准一/山田涼介
ヘルドッグス(2022年) 岡田准一
BAD LANDS バッド・ランズ(2023年)山田涼介
と言う具合だ。

岡田准一登場率の異常な高さはさておき、作品のメインキャラに必ずジャニーズ俳優を起用している。

原田監督の作品の中でジャニーズ俳優は「アイドル」としての化けの皮を剥がされるのが特徴だ。
そもそも、「アイドル」と言うのは「偶像」と言う意味だ。

アイドルは活動を通じて「世俗感」を剥ぎ取られ、異性・同性に対して「ファンタジック」な存在として祭り上げられていく。
ある種疑似恋愛の対象という側面が強くなっていく。

そのため「恋愛スキャンダル」などが出たり、プライベートの奇行が明るみになれば、叩かれるし、炎上することなんてのもしばしばある。

それは「映画・ドラマ」などでの扱われ方も同じだ。
特に若手アイドルは基本的には「綺麗」「美しく」「カッコよく」を全面に押し出した演出がなされることが多い。
それは作り手の忖度なのか、売り出し側の指示なのかはわからないが、とにかく「アイドル」というメッキを貼りつけて作品に登場することが多いのだ。

しかし、これではいつまで経っても「役者」としての演技の幅は増えない。
使い方は限定されてしまう。
そしてそのまま、年月を重ねてしまい、諸行無常の理に引き摺り込まれていく。
つまり、より若い人気のあるアイドル・俳優に、その地位をとって変わられてしまい、いつの間にか忘れ去られてしまう。
こうして表舞台で活躍できなくなる人間がどれほどいたことか。

しかし原田監督はそこのところは容赦ない。
一番顕著な例は2018年公開の『検察側の罪人』における木村拓哉の使い方だ。
ある意味で2000年代を「最上位のアイドル」として過ごしてきた彼は、いつしか「綺麗な主役」「かっこいい主役」というものしか演じることができなくなっていた。
何をしても「いつもの木村拓哉」だと言われることも多くなってきた。

しかし、この作品で木村拓哉は「キムタクらしさ」というものを全て剥ぎ取られる。
彼の演じる最上は、確かに経歴やルックスなど華はあるものの、その裏で狡猾な手段で世渡りをしてきた。
しかしそのことが露呈し、追い詰められていくと、あろうことか他者を威嚇し、汗水、べそをかき這いずり回るなど、なんとも無様な姿を露呈するのだ。

結果として、この作品で木村拓哉の演技を悪くいうものはいない。
いつもの木村拓哉はいなかった。
どうしようもなくカッコ悪い演技をみせ、そして立場としてはヴィラン的な立ち回りを見事に演じきり、世間から称賛を浴びたのだ。

つまり、「アイドル俳優」という枠から少なくともこの作品では解き放たれたし、彼もそれが出来ることを証明してみせたのだ。

負け犬だらけの作品

この作品の登場人物は皆、負け犬だ。
舞台は大阪の西成。
その時点で、何を言わんとしているか。
元々日雇い労働者の集う「ドヤ街」として発展していき、今ではホームレスたちが集う場所になっている。
2008年には暴動が起きたことも記憶に新しいし、旧遊郭もあり、治安の悪い場所として、少なくとも子供の頃は近づいてはいけないと教育されたものだ。

しかし、最近ではダークツーリズムの流行や、地区を綺麗にしようという活動もあり、ホルモン焼きなどのソウルフードを中心にメディアなどでも取り上げられることも多くなっている。
ちなみに今作でも実際にホームレスが出てくるが、中にはメディアでも名物の坂田圭子さんが出ていたので「ふふっ」となってしまった。

そんな日本でもアンダーグラウンドな場所に主人公である橋岡煉梨(ネリ)と弟の矢代穣(ジョー)の姉弟は特殊詐欺グループで活動をしながら、生計を立てていた。
冒頭の特殊詐欺を実際にする犯行現場、そしてそれを阻止しようとする警官の攻防。
動物園前駅、阿倍野駅、難波、淀屋橋と大阪メトロを移動しながら攻防が描かれるが、これがまず地元民としては面白い。
(実際は「そこそんな距離じゃないだろ」とか突っ込みながら)
そして警察も犯行グループどちらも仕事後「串カツ」を新世界で食べながら語らい合うシーンは、ある意味で観光映画的だとも言える。

そこからネリの居住など西成が描かれるが、これは実際にロケしていることもあり「ゴミの臭い」が映像から漏れ出してきそうな程のリアル感を演出していた。
というか、よくこれ実際にロケして撮影したな!と関心さえさせられる。

そんな場所で必死に生きるネリや彼女を利用する高城、元ヤクザの曼荼羅など演者のスキルも素晴らしく、あまりにも溶け込んでいる。

そんな負け犬の世界にネリの弟ジョーが現れる。
最初に彼が登場する時には、やはり演者山田涼介のあまりにも綺麗な出立ちがノイズにはなる。
つまりアングラな世界に似つかない綺麗さ、危険な美しさを持っているのだ。

しかしそれもすぐにノイズは消える。
字が汚い、漢字が読めない、知性がまるでない。
そして短絡的。
端的にいえば今作で最もバカな男として彼は見事にその役を演じている。
もしかしたら、山田涼介史上最も「バカ男」は今作なのかも知れない。

そんなジョーは途中「殺人依頼」を引き受けるが、その中でダサいヘマをする。
そして相手に追い詰められる有様はあまりにもダサい。

その後、哀れな失敗をしたにも関わらず、勢い任せというか、あまりにも無計画な殺人を行いネリを困らせる。
今作はクライムサスペンス的な要素もあるのだが、その計画を全て無に帰すのがジョーなのだ。

全て見返すとわかるジョーの行動

ともすればこの、クライムサスペンスで一番不要とも思えるジョーだが、実はラストまで見ると見方が変わる。
彼はただ、姉のために行動していてのだ。

ネリとジョーは腹違いの姉弟。
姉は生きていく上で性的な搾取をされ続けており、ジョーはそのことに気づいていた。
しかし姉は弟のために一生懸命生きてきたのだ。
そんな姉に恩義を感じていたジョー。
いつか彼女のために行動したいという思いが彼の中にずっとあったのだ。

冒頭描かれるネリのコーヒーを飲む際に印象的な「砂糖は最後の一粒まで溶かす」という仕草。
ネリとジョーが2人で珈琲を飲む際にも同じ仕草で砂糖を溶かす。
2人にとってこれは、辛い時期を乗り越えた「絆の証」だとも言えるのだ。

作中で明かされるエピソード、描かれる出来事中で、ロクなことをしないジョー。
しかしラストに彼が起こす、普通に考えれば「何してんだ」という行動も、実は全て姉の幸せを願ってのことだった。
いや、全てが自分ではなく「姉のため」だったことが明らかになる。

確かに彼はあまりにも無計画にことを進め破滅をするが、その歪んだ行動も思いも、最終的にはネリを「BAD LANDS」から引き上げる役目になったことを考えると、全てネリのためだったのかと、ジョーの行動全てが愛おしく見える。
そこで見せる最後の表情はあまりにも儚く、この表情はやはり「山田涼介」という存在だからこそ醸し出せる、ある意味で「美しさ」なのだ。

ちなみにネリが最後「あべのハルカス」へ向かい走っていくカットは非常にこの「西成」「阿倍野」という土地の複雑さを表しているように見えた。
大阪府内でも有数の繁華街となった「阿倍野」しかし、そこから100メートルと移動すれば、日本で最もアングラな場所がある。
知らなければわからないが、でも知れば確実に我々の近くに「闇」はあるということだ、そしてそこから無様でもいいから足掻いたネリが最後まで描かれている。
そしての裏にはジョーの姉を思う気持ちがあることも忘れてはならない。

今作は一見すると「クライムサスペンス」や「フィルムノワール」といったジャンルではあるが、根幹には「家族愛」というものが描かれていたとも言えるのだ。

ツイストした「悪人」描写

今作の主人公ネリと弟ジョー。
2人は悪人なわけだが、作品を見ていると実は描写がツイストしていることがわかる。
まずネリだが、彼女は「振り込め詐欺」の実行犯だ。
しかも「やる時はやる」という割とプロフェッショナル意識を持ちこの仕事をしていることが描かれる。
反面、ホームレスや犯罪仲間との絆を大切にしていて、彼らがピンチな時はいの一番で駆けつける、そんな優しさを持っている。
弱者に手を伸ばすこともあれば、目的のために容赦ない行動もする。
ネリはこの「BAD LANDS」な世界で抜け出すためには、「悪」の行為にも躊躇う事なく手を染めることができるのだ。

逆に自分を「サイコパス」と称するジョー。
彼は自分の目的のためなら「殺人」も厭わないと豪語するが、作中で最初の襲撃事件時にはベソをかいてしまうなど、実は弱い部分がある。
しかし作中での彼の行う3回の殺人では(城戸の件は厳密には未遂だが)、全て「ネリ」絡みで行っており、家族のためなら何でもできるという、側面も持っている。

確かに作中に出てくる人物は「悪人だらけ」だ。
しかし、彼らは彼らなりの正義を持ち、この歪んだ世界で生きている。
ただ「悪い」だけではなく、そこに人間味がある、そんなツイストした「悪人」の描き方も今作の特徴だろう。


わからない部分はノリで楽しめ!

今作は集団詐欺グループの1日を最初に見せる。
「受け子」「かけこ」「三塁コーチャー」など聞き慣れぬ単語も多く、冒頭にも書いたが、土地勘がないと意味がわからない部分も多い。
おそらくこの冒頭の展開で「意味不明」な感覚に陥るが、とにかく「悪いことをしている」くらい単純に思ってみるのが大事かと思う。

特にその「わからなさ」を後々に説明する映画でもないので(もちろんセリフである程度察することは可能)、ここら辺をどうやって乗るかが重要だ。
あとセリフの大半が「大阪弁のやり取り」で、割とコテコテしているので、この辺りも若干「???」があるかも知れないが、ここら辺もノリで見ていくのが重要だと言える。
ちなみにこの大阪弁のある意味で品のなさも含めて「土地柄描写」として秀逸だとも言える。

さらに主人公を追い詰める大阪府警。
よくネットなどで大阪府警のガサ入れが「完全にヤクザ」などとネタにされるが、それを地でいく描写も大阪らしい。

言葉使いでいうと、作中で執拗にネリを追う、胡屋。
表向きは投資家として「綺麗な顔」を持ちながら、裏では「吐き気を模様す悪」という二面生を持つ。
彼の話し方は綺麗な標準語だ。
だが、そのせいで今作では「サイコパス味」が上がっているのも面白いところ。
何となく「大阪弁」はドスが効いているが、その中にある愛情が今作では描かれ心地よく描かれもする。
だが胡屋の使う「標準語」は、そうした感情のない無機質なもののように聞こえてくる。

これぞ今作の大阪弁使いのうまさだろうと言える。

まとめ

やはり原田作品。
悪人を描きながら、その悪人に深く思い入れてしまう。
普通の現実では、悪人に同情することはないが、やはり「映画・物語」というのは、こうして悪人にまで感情移入してしまう魔法をかけられるツールであることを再認識させられた。

あと、これは認識不足だったが山田涼介さんの演技だ。
申し訳ないが、彼は「かっこいい系統」の演技しかできないと思っていたが、今作を見ると安藤サクラ、生瀬勝久ら演技派の中にいても遜色ない、非常に人間味のあるキャラクターを演じていた。(器用な人なんだと思いました)

こうした「無様なありさま」を演じつつ、そこにある「美しさ」を表現できるということは、今後彼の役者のキャリアを増やすことになるし、「らしさ」として唯一無二の武器になることだろう。

ということで、大阪という街の特殊性。
そしてそこで這いつくばって生きる者たちの姿をありありと描く『BAD LANDS』
劇場のスクリーンで集中して楽しむべき映画だと思うので、ぜひ劇場で鑑賞してみてください。


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