「窓辺の猫」第15回 ケージの使い心地
上げ膳据え膳を望む私のような人間は旅に向いていないと思う。
旅行は案外疲れるものである。体力もいるし、気力もいる。まず楽しもうと言う前向きな姿勢が必要だ。
例えば、安上がりに旅行しようとして、自分の足で歩かないとか、飲食店を探すのが億劫だとか言っていても、話は前に進まないのである。一人旅なら、誰にも相談せず、自由気ままに過ごせると思う人もいるかもしれない。
しかし、1人だからこそ誰も手伝ってくれる人がいない。宿泊するホテルが見つからなくても、自分で探し当てるしかない。見知らぬ交番や駅で他人に話しかけて道を聞くしかないのだ。
宿泊するホテルや旅館にたどり着いて、それだけで満足すると言う人がいるだろうか。何かおいしいものを食べたり、素晴らしい景色を見たりしたいだろう。
例えば、キャンプにしたって、バーベキューが嫌いなら一環の終わりだということではいけない。肉が好きでない人も何か楽しめるものがなくてはならない。
例えば、ハンモック。子供の頃から出不精で、親にもあまりどこかに連れて行ってもらった記憶は無い。ただ記憶が定かではないが、キャンプをしたことはあっただろうし、庭でバーベキューを何度もした記憶がある。
そのたびにハンモックが欲しいなぁと誰かが言っていた。母だったかもしれないし、自分だったかもしれない。
今は猫のハンモックに憧れたこともあったけれど、猫を3年買うと設置場所に困ったりよく高い場所に設置したり、揺れる布製だと乗り降りに危ないと気づいて、ハンモックへの憧れも薄れてしまった。
それでも、飽きもせず、人間用は無理でも猫用になら、何かゆったりくつろげるものをプレゼントできないかと自分で作ろうとしたりしてみるがうまくいかない。
そもそも、我が家の三毛猫は、子猫の頃はケージの中でハンモックで寝ていたけれど、今は人間様の枕やビーズクッションを奪ったりして寝る方が楽しいようだ。
くつろぐながら我が家。気分転換旅行いいだろうが、やはり旅には覚悟が必要だ。猫を置いて出かけるわけにもいかない。
ケージをちょっと模様替えして、趣味のマクラメ編みの敷物を作ってみた。
三毛のセミ猫は大事に使ってくれるが、あまりケージに入らないトンボ猫が爪とぎにしてしまうので何度か修繕した。
トンボ猫は人間が猫に与えるものは何でもおもちゃだと思うのはやめてほしい。一方で、セミ猫はものを大事にしすぎる。
ベッドにちょうどいい爪時は、あまり詰めときには使わないで、トンボ猫に譲ってしまう。一方で、トンボ猫が何でも抱きかかえてケリケリしてしまうので、セミ猫も真似して人間の枕や布団、タオル等にしがみついて、蹴飛ばすようになった。しかし、相変わらず蹴りぐるみは嫌いだ。
トンボ猫があまりに何でも蹴り飛ばすので、新しい蹴りぐるみを与えた。水色のエビの形をした蹴りぐるみ。
買い与えた日は一生懸命蹴っていた。
翌日から使っていない。もちろんセミ猫も使わない。
買わなきゃよかった。
おそらくまたたびが入っている。セミ猫はまたたびが大嫌いなので、またたびの効果が切れたら、いちどくらいは使ってくれるかもしれない。トンボ猫もしばらくしたら、また気が向いて使うかもしれない。猫たちが使ってくれる日まで置いておこうとケージの中に入れている。1週間、10日と経っても使わない。
雑草だらけの庭は、毎日眺めても飽きないのに、なんで蹴りぐるみは1日が飽きるのだろうか。いつか2泊旅行に出かけた時は、2日目には慣れていた。宿泊した部屋に出窓があって2階建て以上だったので、高いところから外を眺めるのが楽しかったようだ。
我が家は、平屋である。
猫は我が家が1番落ち着くのではなかったのか。旅先だって二日間楽しんでいたのに、なんでおもちゃは1日で飽きるんだ。
具合の悪い時はケージの中で寝ていた三毛のセミ猫は、具合が良くなると相変わらずケージの上で寝ている。マクラメの敷物の上のケージの中でくつろいでいることもあるが、最近猫ベッドを使わない。
療養用のベッドだと思っているのだろうか?
あるいは冬用か?
夏用の涼しいベッドを買ったって、また1日で飽きるだろうから、今年は買わなかった。トンボ猫は爪とぎ用の丸いダンボールベット気に入って、毎晩そこで寝ている。セミ猫に全く譲る気がない。セミ猫がそのベッドを使ったのは、買ってきた日の1日だけだ。
トンボ猫に遠慮しているのか?はたまた飽きっぽいだけか?
病院通いが続いたので、車を怖がってはいけないと。体調がだいぶ回復してからセミ猫にドライブに連れて行った。とは言え、30分から1時間程度のことだ。
セミ猫は動物病院を行き過ぎると、ニャアニャア鳴き出した。車が怖くなったならもうドライブはいらないなとちょっぴり寂しくなったところ、我が家が近づくに従ってまた鳴く。どうやら久しぶりに車から降りて散歩したかったようだ。いつも車から降りなくても、ドライブだけで満足しているので、まさか散歩したがると思わなかった。セミ猫は車の中で散歩できそうな場所を目星をつけているが、セミ猫が思うような場所で、いつも散歩できるわけではない。お店以外の場所なら散歩できるわけではない。
セミ猫は車のドアを開けても勝手には降りない。しかし、人間だけ勝手に降りるのは嫌なので、降りようとすると以前は膝にしがみついていた。
しかし、なんだか以前より賢くなったようで、人間が降りたがると膝から降りてくれるようになった。しかも、人間が開ける扉の反対方向に行ってくれる。
とっても車の中でお利口になったけれど、また猫と旅に出る日があるかわからない。そもそもそんなに私も旅好きじゃない。旅に出るには、心の余裕が必要だ。
私には今それがない。