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第二夜 鉄は国家なり?!(2019.12.6&25)
「第一夜・生きているしくみを探ろう」が好評だっということで,調子に乗って第二夜までやってしまった。
今回は12月6日と25日の2回実施。
6日には9名,25日には2名の方がご参加。
しかもこのうち4名がリピーター!
ありがたい限り😭
「鉄」について思いつくことは?
今回もいろいろなご意見が出るわ出るわ。
様々なご職業・ご経験をお持ちの方が集まっている中,受講者の皆さんが何を学ぶか,共通認識を図るという意味で鉄について思いつくことを挙げていただいた。
ただ,講座を進める上でスルーしなければいけない意見が多かった。
本当はもっと多くの意見を拾って授業展開したいんだけどね。
※写真は12/6に行った講座で出たご意見の一覧。
12/ 25の講座では日本刀,南部鉄瓶といったご意見も挙がった。
スチールウールを燃やすとどうなる?
今回の講座で行った実験は,中学2年の理科ではおなじみの,スチールウールの燃焼!
この実験ではどのグループも燃焼後に質量が増えた。
これは,スチールウールが酸素と結びつき(酸化され),酸化鉄になったからである。
燃焼したら物質の質量は増える?減る?
18世紀までは,物質が燃焼したら,「燃素」というものが燃焼した物質から離れて質量が軽くなると考えられていた。
それに対して,フランスのラヴォアジエという化学者が実際に質量を量って,これが間違っていることを証明したのである。
今回の講座では,木材を燃やしたら軽くなるのではないか?というご意見も出た。
しかし,密閉した容器の中で木材を燃やしたら軽くなるのではないか?というご意見が当日の講座で出た。
確かに,木材を燃やしていたら,そこに含まれる蒸気と他の気体は出ていく。
しかし,密閉した容器の中で木材を燃焼し,燃焼後に出ていった気体と燃えカスの合計の質量を量れば,燃焼前と変わらないはず・・・理論上は💦
ともあれ,ラヴォアジエは燃焼という現象から「質量保存の法則」を提唱し,今も化学の基本法則として受け継がれている。
鉄の酸化物
鉄は酸素と結びつくと,酸化鉄という物質になる。
ただ,酸化鉄にはいろいろな種類がある!
今回のスチールウールの燃焼は中学2年の理科で扱う分野であるが,その教科書にはどの酸化鉄かが明記されていない。
実は今回,私が「鉄は国家なり?!」をテーマにしたのは,それを調べ,受講者の皆さんとともに検証できたらなあということがきっかけ。
(高校の化学の資料集では,四酸化三鉄ができると表されているものもある。)
ネットで調べたところ,このことが気になったのはどうも私だけではなかった様子。
とあるサイトに載っていた論文によると,スチールウールを普通に燃焼したら,酸化鉄(Ⅲ)と四酸化三鉄の混合物が生じ,四酸化三鉄が多く含まれていると考えられている。
また,燃焼温度によって酸化鉄(Ⅲ)と四酸化三鉄の混合比が変わるとまで綴られている。
道理で教科書に化学式を記してないわけだわ( ´Д`)=3
ただ,今回の実験で行ったスチールウールの燃焼においても,四酸化三鉄が多く生じているだろうと思う。
酸化鉄奥深し。
こうして鉄はつくられる
自然界において,鉄は酸化物の形で存在している。
ここから純粋な鉄を取り出すためには,酸素を取り除かなければならない。
(酸化物から酸素を取り除く反応を還元という)
その操作を大雑把に表すとこんな感じ。
鉄を実用するコツ・・・「錆び」を上手く使え!
純粋な鉄Feはそこそこの比重(密度)があるものの,錆びやすい。
ただ,錆びるにしても,その速度によってどんな酸化物ができるかが変わってくるとのこと。
ゆっくりと深部まで酸化される→酸化鉄(Ⅲ)=赤錆びを生じる
瞬間的に表面だけ酸化される→四酸化三鉄=黒錆びを生じる
そこで,この「錆びやすい」という性質を応用し,鉄を加工した材料がいろいろある。
① 不動態(酸化皮膜)
一般に,濃硝酸は金属を内部まで酸化させる作用が大きいものの,亜鉛・鉄・ニッケルについては表面を酸化させるに留まる。
そうすると,鉄は酸化被膜(=不動態)が生じ,内部は純粋な鉄のままでいられる。
例えていうなら,カツオのたたきやミディアムレアのステーキみたいなものと行ったところか。
これを発展させてものとして,ステンレス鋼がある。
ステンレス鋼は鉄にクロムやニッケルを混ぜ合わせてできた合金であるが,鉄の表面にクロムの酸化物が膜をつくっている状態なので,錆びにくい。
② メッキ
鉄と他の金属の酸化のされやすさ(錆びやすさ)の違いを利用して,鉄に他の金属の膜をつくっている状態がメッキである。
[例]
トタン ・・・ 鉄よりも錆びやすい亜鉛が,鉄を保護する膜となっている。
ブリキ ・・・ 鉄よりも錆びにくいスズが,鉄を保護する膜となっている。
金属の酸化のされやすさ
金属の酸化のされやすさには決まった序列がある。
高校化学では「金属のイオン化傾向」として表されているが,酸化のされやすさを表している。
それでは,酸化されやすい金属から順番につらつらと。
Li(リチウム)
∨
K(カリウム)
∨
Ca(カルシウム)
∨
Na(ナトリウム)
∨
Mg(マグネシウム)
∨
Al(アルミニウム)
∨
Zn(亜鉛)
∨
Fe(鉄)
∨
Ni(ニッケル)
∨
Sn(スズ)
∨
Pb(鉛)
∨
Cu(銅)
∨
Hg(水銀)
∨
Ag(銀)
∨
Pt(白金/プラチナ)
∨
Au(金)
錆びない鉄?!
※ある受講者の方から,錆びない鉄についてご自身で調べてられていたので,ちょいとご紹介。
(受講者の方には厚く御礼を申し上げます。ありがとうございます。)
純鉄には電解鉄や,カーボニル鉄,アームコ鉄というのが知られているが,純度が99.9%や99.99%のものであれば錆びてしまう。
ただ,超高純度,例えば99.999%以上のものだとほとんど錆びないといえる。
鉄は地球なり!
鉄は地球上で4番目に多く含まれている元素である。
※ちなみに1番目は酸素,2番目はケイ素,3番目はアルミニウム。
鉄は地球が生じる際,地球の核を構成している。
その分,地球上には多く含まれていると考えてよいだろう。
また,鉄は地球上での酸素の循環に大きく関わっているとか。
※この話は,いずれ行う「あなたの知らない?酸素の素顔!ウラ顔!」で扱う予定。
鉄は生命なり!
鉄は血液中の色素・ヘモグロビンの中に含まれている成分である。
これがヒトの体内で酸素と結合し,至るところに酸素を供給する。
講座のあとで〜YUMのつぶやき〜
今回の鉄については,化学の中でも「無機物質」という単元で扱われている。
この「無機物質」という単元は,元素ごとにいろいろな物質の性質や製法が主となっていて,暗記モノと見なされているところである。
今回はその調子でやってしまったせいか,高校で学ぶことの羅列になってしまった感が強かった。
また,鉄について何を伝えたかったのか,自分の中でぶれてしまっていた。
私が伝えたかったことを今になって振り返ってみると,化学反応によって鉄がつくられ,また,鉄を利用する際も化学反応が応用されていることだった。
また,鉄が関わる化学反応は地球のなりたちにも大きく関わることも伝えたかった。
このときにご参加されていたある受講生の方から,「高校の化学で今回の内容を学ぶことに何の意義があるのか?」というご質問をいただいた。
高校の化学では,身近なものをつくる材料として,また,鉄がイオンになったときの反応という2つの面から鉄について扱っている。
鉄以外の金属についてもいえることであるが,恥ずかしい話,高校生に対してこの単元の授業をしていると,何のためにやっているのかがわからなくなることがある。
今回は大人向けということで,身近になっている鉄について主に扱ってきた。
しかし,酸に溶けてイオンになったときの反応まで考えると,鉄という物質が「地球上で」どのように振る舞っているかを理解することが,意義なのではないかと改めて思った。
これは鉄に限らず,他の無機物質でも当てはまることである。
それでも今回も様々な視点からご意見が出てきただけでなく,鋭い質問まで寄せていただいた。
物質が燃焼するときになぜ酸素と結びつくのか?
熱を加えてもなぜ質量が減るのか?
などなど。
今回受講していただいた皆様におかれましては,私の拙い講座進行にも関わらず,意欲的に学んでいただいたことに心より感謝します。
ありがとうございました。
次回以降もまた宜しくお願いします🤲
参考文献
「知られざる鉄の科学」(齋藤勝裕著,サイエンス・アイ新書)
「おもしろサイエンス 錆の科学」(堀石七生著,日刊工業新聞社)