【夢を持つことの大切さ】Eps.1
これといった夢を持つこともなく,数学と理科が得意という理由だけで入学した高専.中学3年生の僕は成績が少し良かったからという理由で推薦入試を受けることができた.ある曇り空の下で僕は学ランをきちっと決めて,高専へ向かった.校内に入るやいなや面接を待機させる場所に移動させられ,まじめに勉強をしている生徒だということを言わんばかりに本を広げて眺めていた.確か推理小説か何かを読んでいたのだろうが,本などに興味のなかった僕はただ文字を眺めているだけで,日本語はひらがな・カタカナ・漢字と三種類の文字が使い分けられている不思議なものだなと思っていた.
「次,受験番号5087から5090まで,こちらへ来てください」
いかにも科学者のような顔だちをしたスーツ姿の教員に連れられて,僕は案内された一階のとある教室の前で同じ推薦入試を受けに来た二人と並んだ.彼らの表情を見るに緊張しているようだったが,これはこちらも同じ状況だ.塾で何度練習したことだろうか.当時の自分はとにかく暗記して覚えたことを言うことだけに集中していた.それはまるで感情を抜かしたロボットのようになっていただろう.ただひたすらに合格することだけを求めた結果がこれなのだろう.
そうこうしているうちに,次の番である僕たちが呼ばれ,幸いにも最後の番号だった僕はみんなが入る様子をただ眺め,見よう見真似に入っていった.そこには椅子があり,教員との絶妙な距離感に緊張感が高まった.三人の先生を前にして僕らは面接を開始した.
「受験番号5090,泉宮水絃です.北陵中学校から来ました.」
この後も順調に"覚えたことを"淡々としゃべることや考えて話すことを繰り返した.そう,次の質問をされるまでは.
「あなたの夢は何ですか」
面接官は僕にそう聞いた.
「えっと,・・・夢は今は特にないですが,将来はエンジニアになり,社会に貢献したいと思っています」
このとき,中学三年生の僕は夢を持っていなかった.そのためこんな回答をしてしまったが,面接官は特に表情を変えなかった.試験が終了し,退出するよう促された僕たちはまた入ったときと同じように外へ退出した.
僕は廊下に出て,次の試験である小論文を受けに別の会場へ集まった.そこにはたくさんの人たちがいて,なかには同じ中学校の人が何人かいた.小論文は地元の特徴について,これを工学的に変化させていくにはどんなことができるだろうか.みたいなテーマであった.それなりに小論文帯悪をしてきた僕は,型にはまった章立てで正しそうなことを書いていった.
面接と小論文が終わった僕は,終了後は学校に戻ってくるように言われていたから学校に戻り,学年末試験の勉強に取り掛かった.(Eps.2へ)