お茶の間の櫛飾り
舞台は明治時代ー山梨。狭い路地に面した小さな茶室で、私とさとは静かにお茶を楽しんでいた。さとは私の親しい友人であり、私と同じく文学を楽しむことがすきな女の子だ。
「さと、窓から見えるあの山と夕日の重なり具合がいいの」
私は茶を啜るさとにそう話しかけた。
「富士山と夕日よね。うちもこれ好きじゃわぁ」
やさしい口調で話すさとは私の耳を癒した。私はずっとこの子と一緒にいるがこの子の声は透き通っていて聞き心地の良いもので、好きだった。
「そういえばさと、てらこやでの勉学はどうね?」
私は母親の都合上、家で弟の龍之介の面倒を見てやらないといけなかったので家のことで精一杯であった。それに対してさとは親が医者であり、それもあってか、さとも勉強をして医者を目指そうとしていた。
「うーん、いいでぇ。文字は段々と難しいのが読めるようになってきてなぁ、数もそろばんをはよぉ打てるようになってきたでぇ。それでなぁ先生もやる気になっていろんな事教えてくれるんよぉ」
当時は医学の発展途中で医学の道を進むには選択肢としては悪くなかった。しかしその勉学は非常に難しいとされていたため,私はさとを尊敬していた。いまのさとはそれなりに覚悟がある様子だった.
「さとはお父さんにも医学を教わっとるん?」
「教えてもらうこともあるけど、うちはあまりそういうのはしていないよ。」
さとの家計はおそらく自分のペースでできているようだった.
私たちのように全く異なる性質や家系を持つ人間が親しい間柄というのはよくある話で,私の友達にもそういった人がいる.
「お茶飲んだけぇどっかいこーかぁ」
さとの提案に私も賛成し,本を買って読むために近くの本屋さんに向かった.そこで私はきれいな櫛飾りを見つけた。
「みてこれ、きれいじゃなぁ」
私は本棚の横に並べてあった櫛飾りを手に取った。櫛飾りには白く綺麗な花が付けられていて、そう長くは日が持ちそうにはなかったがそれはとても魅力的なものだった。さともそれを手に取って、私につけた。
「かわいいなぁ、あんた顔はべっぴんさんじゃけんよぅ似合いそうじゃわぁ」
「あら、さとは口がうまいねぇ。さとのほうこそべっぴんさんじゃない。」
「ひとつ買ってあげるよ。誕生日ちかいんよね。」
さとは家が医者で、俗にいうお金持ちの家だった。さとはいつも私の誕生日に何かをくれるが、今回は私の気に入った櫛飾りを買ってもらった。
「櫛飾りをつけて一枚写真におさめようよ」
「いいね。さとはこのあたりに写真屋さんは知ってる?」
さとは、近くの写真屋さんを提案し、私はそこへ向かった。そこでは着物やいろいろなものが並べてあった。私はそこから赤い組み紐と黒と白の着物を借りた。さとは私に綺麗という言葉を連呼し、その姿を写真一枚に収めた。
「さと、ありがとう。今日は本当にいい一日だったよ」
「こちらこそ楽しんでもらえてよかった。」
二人は写真屋を後にして、一枚の私の写真を持って家に帰った。その写真は家のお茶の間に櫛飾りと一緒に飾られている。