「Ambient/Experimental ライブセット」制作秘話@MUTEK.JP 2020
こんにちはYuri Uranoです。
先日はMUTEK.JP 2020への初出演。皆様のおかげさまでとても楽しく、たくさん得るものがあった1日となりました。
サポートしてくれたスタッフの皆さん、素敵なコラボレーションをしてくれたヴィジュアルアーティストのManami Sakamotoさん、そして会場やオンラインでご視聴いただいた皆さん、本当にありがとうございました!!
(写真や動画はMUTEK.JPの方からいただきました。https://mutek.jp/)
今回の記事では、MUTEK. JP 2020のイベント出演に向けて制作した「Ambient/Experimental ライブセット」の制作秘話(秘話なのか?笑)を綴っていきます。
テーマの発端は「天橋立」
今回のライブセットは使用した音は、京都北部にある日本三景の1つ「天橋立」でレコーディングしたフィールドレコーディングの音を主に使用しました。
そのほかソフトシンセなどを組み合わせて制作しています。
全長約3.6kmの砂州に生い茂る約5000本もの松は、大部分が自然に生えたものらくとても珍しい地形です。
「何千年もの歳月をかけて自然がつくりだした神秘の造形」
映像も合わせて、この「神秘的な場所を作り出した自然の要素たちがゆっくりと組み合わさり、地形が出来上がっていく流れ」をマクロとミクロで表現しました。
実は、今回コラボしたヴィジュアルアーティストのManami Sakamotoさんとは初共演。打ち合わせはすべてリモートで行いました。
先に私がこの「天橋立」のイメージがあったのでそれを共有して、映像が音に寄り添っていくような形でライブ作品が完成しました。
当日は照明も加わり、思った以上にステージでシンクロしている様子は、私自身とても感動するものでした。
ちなみに天橋立へは「ALTERNATIVE KYOTO」の展示を見に行っていました。
池田亮二さんと齋藤達也さんがこのとき作品を展示されており、それを見るのと合わせて、Go Proの撮影テストとサンプリングをする旅でした。
(後日、旅行記を書きます!)
拝見した作品や、現地で感じた空気のインスピレーション、録ったサンプルをどう使うか考えていたところ今回のライブオファーがあり、タイミング良すぎてありがたい驚きです。。
フィールドレコーディングに使用した機材
ここからは制作に使用した機材やシステムについてのお話。
まずはフィールドレコーディングで使用した機材たちです。
レコーダー : Sony / PCM-D100
カメラ : Gopro Hero 9
ソニーのこちらのレコーダーでは非圧縮リニア PCM 192kHz/24bitで録音しました。とても繊細な音で録音できます。
三脚に取り付けられるので、Manfrotto PIXI ミニ三脚に取りつけて使うことが多いです。手持ちの際などに起こる振動を防げます。
Go Pro Hero9には映像のRAW音源を保存する設定があります。
録画の際、動画のMP4形式のファイルとRAWのWAVファイル両方で保存するようにしています。ライブで使用した海の音の一部はこのGo Proで撮影した動画の音声ファイルを使用しました。
制作に使用したシンセや音源類
Bitwig / Polygrid
SPECTRASONICS / Omnisphere 2
PolygridはBitwig Studio3 に付属しているオープンなモジュラーシステム。
以前サウンド&レコーディング・マガジンへ寄稿させていただいたときにも少しご紹介したのですが、今回はもっと突っ込んで使ってみました。
分厚い持続的なパッドとノイズサウンド、キラキラとしたシーケンスを鳴らせるパッチを作りました。
正直、最近までたまに遊ぶくらいにしか使っていなかったのですが、今回の場合は欲しい音が明確にでてきたため、制作がスムーズに行きました。
これを機にもっと出番を増やしたいですね。
Omnisphere 2は最近導入したフラッグシップ・シンセサイザー。音源が無限大で、こちらも自由にパッチを組んだり、エフェクトも充実しています。なので当分音源に困らないんじゃないかと思っています。ストリングスパッド的な音はすべてこちらの音源です。
ソフト自体は重たいのでPCにかなり負担がかかります。なので作ったフレーズはオーディオにバウンスしてからライブで使用しました。
エフェクト
各トラックにはセンドで空間系のエフェクトを送っていました。
リバーブ:Native Instruments / Raum
ディレイ: Waves /H-delay
Raumはルーム系からスぺ―シ―な飛び道具的なリバーブも生み出してくれるプラグインです。
Native Instrumentsの音楽制作バンドル「KOMPLETE 13」に収録されており、最近使い始めました。宇宙的な浮遊感のある「Cosmic」というタイプのリバーブが今回のライブセットにぴったりで採用しました。
H-delayは長いこと愛用しています。ソフトなのに温かみのあるアナログっぽさが気に入っています。
こちらは、どちらかというと音をトラックになじませるために使用していました。
あとはBitwig Studio3に付属しているコンプとEQを使って音の帯域や奥行きの処理をしていました。
(Bitwig Studio3に付属しているEQ+)
コンプは1トラックだけ奥で鳴らしたい波の音に軽くあてました。「素の音を生かすための処理」を心がけています。
ライブセットアップ
ライブのセットアップはけっこうシンプル。
Laptop :ROG Zephyrus G14
オーディオI/F : RME/ Babyface Pro
DAW : Bitwig/ Bitwig Studio3
マイク : SHURE / BETA57
Bitwig Studio3をPCに走らせ、音はすべてBabyface Proから出力しました。
途中鳴らしていたベルのようなものはティンシャというチベットの民族楽器。チベット仏教の高僧・尼僧が儀式や浄化、魔よけで使う密教法具のひとつです。
浄化され、心が解放されるような響きが気に入っています。今回のライブテーマにもぴったりな音でした。
こちらと声をマイクから入力し、DAW上でエフェクト処理しています。
これらを用いて、ライブ中はシンセのパラメーターや、先ほど記載したようにBitwig Studio付属のEQなどを使ってミックスバランスの調節を行っていました。
ケーブル類は
USBケーブル : Acoustic Revive / R-AU1-PL
マイクケーブル:CANARE/L4E6SにNEUTRIK社製のコネクターを組み合わせた業界標準のマイクケーブル。
アウトプット用のケーブルと電源タップは、会場でOYAIDE製のものを用意していただきました。
余談
裏テーマとして「どんだけPCだけでかっこいい音が出せるか」みたいなところも試してみたかったのが今回のライブセット。
これは以前、Mark Fellさんが来日していたときに、MacBook 1台でめっちゃくちゃかっこいい音のビートを鳴らしてライブをしていたのを見て、「パソコン1台でもこんなにかっこいい音が出るのか・・・」と衝撃を受けたことがあるのがきっかけです。
元音の良さ、選んでいる音のバランスが良いんだと思います。
先ほどご紹介した、池田亮司さんも無駄のない突き詰められたサウンドと映像ですよね。さらに見て聴いてすぐ「池田亮司さんだ!!」とわかるオリジナリティもすごいです。
とは言うものの、いろんな機材を試すのはとても楽しいし、インスピレーションもたくさんあります。今後もいろいろ触りながら「シンプル」は頭に置いておきたいワードです。
さらにライブは視覚も大事なので「見て楽しいもの」として”ティンシャ”と”声”をライブ的要素として使用しました。
生音が出す「ちょっと浮いた音の気持ちいい違和感」みたいなものはライブでしか出せない魅力だと思います。
この説明は文字に起こすと難しいですね(^_^;)
さらに音とシンクロした素敵な映像もついて、1つやってみたかったことが叶ったステージでした。
本当にこのような機会をいただけて感謝感謝です!
最後に
ここ数か月「自分のやりたいことって何だろう?」と考えることが多く、やっぱり「音」なんですが「どんな音がやりたいんだろう?」って考えることも多かったです。
今のところたどり着いたのは「聴いてもらえる音」です。
心に残るような音楽もっと作ります。
そうそう!
今回ライブで最後に歌った曲は先日BandCampにてリリースしています。
あと年末はコンピ、年明けにもテクノなリリースがあります!
楽しみにしててください!!
本日もご高覧ありがとうございました!