耳の穴が14個ある人の、今までに開けたピアスの話

 ピアスが好きだ。
 開けるのも、人のを見るのも好きだ。理由は単純で『格好良いから』。それに尽きる。毎朝ピアスを選ぶのも楽しいし、何の後ろめたさもなくわくわくできるのはピアスのことを考えるときだ。コーディネートや次に開ける場所の参考に人の耳を見ていると時間が溶ける。
 好きが高じて、今この耳には全部で14の穴が開いている。
 なんでそんなに開けるんだ、と思われるのは解っている。自傷行為のようなものだとかストレスが溜まっているだとか言われたりもするけど、なんだかちょっと違う気がしている。少なくとも自分の場合は。お洒落な服を着るとか、爪を綺麗に塗るとか、そういうことと同じカテゴリなのだ。格好よくなりたいから、自分で自分をそう思えるように、ピアスを開ける。「よっしゃ、今日も頑張るぞ」と気合いを入れるために好きなアクセサリーを着けるのと同じこと。ゲームなんかでも、好きなものを装備できるスロットが多いと嬉しいように、気に入ったピアスをいっぱい着けられたら嬉しい。
 そういうものなのだ、私にとっては。
 痛くないの? ともよく訊かれるのだけど、全然普通に痛い。全身に痛点がちりばめられている人体に穴を開けるのに痛くないわけがない。かと言って別に痛みに特段強いわけでも痛いのが好きなわけでもない。注射とか本当に苦手だし。
 冷静に考えれば、注射よりピアスの方が針も太いし痛いはずなのに、どうしてピアスは大丈夫なのか、自分でも不思議に思う。でも開けた直後は脳内に興奮物質がどばどば出ているから痛みも気にならないし、その後は気に入った場所に収まった新入りを見ては満足して、面倒なケアも頑張れる。結局、開ける痛さ・開けた後の痛さ・ケアの面倒さより「格好良くなりたい」という欲求の方が上回ってしまっているんだろう。
 今回は、そうやって開けてきたピアスの思い出やらなんやらをだらだら話してみたかったのでこれを書いている。これから開けたいという人の参考になることがあるかどうかは解らないけれど、この記事がなにかの助けになることがあれば幸い。

 ピアスを開けるという行為の性質上、痛い表現が出てきます。耳の写真もあります。苦手な方はご注意を。


 現在の耳はこんな感じ。

右耳(フォワードヘリックス、アウターコンク、ヘリックス、イヤーロブ)
左耳(ローク、ヘリックス、インナーコンク、イヤーロブ)

 昔はもっとごてごてしていたけど、今はシンプルなコーディネートに落ち着いている。
 各部位の名称についてはこちらのサイトが解りやすい。(https://rin-kyo.com/blog/bodypiercing-knowledge1/)

イヤーロブ

痛みレベル★

 いわゆる耳たぶ。
 初めてピアスを開けるときはだいぶ緊張した。最初は右耳だけ。片耳だけの方が格好いい気がする、と当時は思っていたようだ。今考えるとかわいいもんである。
 開けたのは渋谷の病院、雑居ビルの何階かで、白い待合室と、並んでいる長椅子の群れ、カーテンの掛かった処置室を覚えている。麻酔を使うかどうか訊かれて即決で使った。ピアッシングは麻酔のおかげで痛みも特に感じず。麻酔の注射の方が痛かった。
 2回目のロブは新宿の病院。やっぱり両耳に開けたくなって左と、せっかくだから(?)右にももう一つ。
 自分で耳たぶに印をつけて、医者が市販のピアッサーで開けるだけ。病院で開けるのも微妙かもしれない、と思いながら帰った記憶がある。両耳でちゃんと同じところに開いているか、既に開いているところとのバランスはどうか、人に相談して開けたかった。なんたって不安なので。
 麻酔オプションは無かったので普通にガシャンとやっておしまい。よく聞くような『耳たぶを強く押される痛み』そのものという感じだった。
 3回目は原宿のピアススタジオで。2つの穴をリングで繋げるオービタルを左耳に。数を合わせるために右にもう一つ追加。
 前回開けたところが安定してピアスのコーディネートが楽しくなってきた頃、2つのホールを繋げるオービタルというものを知り、あまりの格好良さに撃ち抜かれる。で、開けてくれる場所を探してピアススタジオに辿り着いたというわけだ。
 ニードルで開けてもらうのは初めて。痛いのは痛かったけど、そこまででもなかったような気がする。ピアスがバチバチに開いたピアッサーさんに位置を確認してもらって開けたから安心感が半端なかった。このスタジオにはその時からずっとお世話になっております。
 イヤーロブはこれで両耳で3つずつになった。もう開けるスペースが無いのでこれにて終了。
 本当は拡張にもちょっと憧れたりはしたけれど、今までに買ったピアスたちが入らなくなることを考えてやめた。見る分にはめちゃくちゃ好き。耳がもう一個あったらやりたかったね……

ヘリックス

痛みレベル★★
14g×3

 耳の縁の軟骨。
 軟骨ピアスと言えばここよね。ご多分に漏れず自分もまずはここからスタートだった。
 最初は右耳に1つ。前述したオービタルと同時に開けたはずなのだがその辺ももうあやふや。
 まあまあ痛かった、はず……なのだが、ほとんど記憶が無い。やっぱりイヤーロブよりは全然痛かったはずだが、そんなことより初めての軟骨ピアスとその見栄えに感動して浮かれていたな。開けたところが脈を打っていたことだけは覚えている。スタジオを出てから「いて~」とか言いつつパスタ食ってたぐらいだから、そこまでのダメージでは無かったはず。
 安定には半年ぐらいかかった。まあ標準的?
 2回目は左耳に2連で。後述するロークと同時に開けた。
 こっちもほとんど記憶無し。正直ロークの方の印象が強すぎてぜーんぜん覚えていない。ピアススタジオから貰った記録を改めて見返し、「え、同時に開けてるやん……こわ……」となっている。こわい。
 地味だけど無いとバランスが取れない縁の下の力持ち的ポジション。

フォワードヘリックス

痛みレベル★★
16g×2

 耳の縁の軟骨、顔に近い方。
 ここからだんだんピアスを開ける楽しさに目覚めはじめているようだ。ピアススタジオのサイトを眺めながら、次にここに開けたらかわいいかもしれない! とわくわくするようになったのがこの頃。
 だいぶ痛かった。2つ同時に開けたせいもあるかもしれない。軟骨がヘリックスより厚いこと、顔に近いこともあって痛みを強く感じた。
 ピアッサーさんに2連にするか3連にするか訊かれて、怖じ気づいて2連にした。開けた後数日ぐらい、やっぱり3連にすればよかった、と落ち込んでいたのだが、今ではめちゃくちゃ好きな場所。ごてごてしすぎないし、ちょうど良いバランスだった。
 安定には結構時間が掛かった。たぶん1年弱? 奥まった場所だから清潔にするのが難しくて、定期的に綿棒を使って洗っていた。不衛生はピアスの大敵!
「かわいい~」と言ってもらえることが多いのは圧倒的にここ。結構珍しい部位なのかもしれない。外すのが大変に面倒くさいのもここ。なのでつけっぱなしになっていることが多い。
 ヘリックスとチェーンで繋いで疑似インダストリアルとかもやったことあるけど、やっぱり付け外しが面倒くさくて滅多にやらないのだった。

ローク(ロック)

痛みレベル★★★★★
14g

 耳上部内側の山折れになっているところ。
 右に開けたら今度は左に開けたくなってしまった。バランスバランス!
 両耳いっぺんに開けても安定が早いから問題ないイヤーロブと違って、軟骨ピアスは安定までに時間が掛かるから、一回で開けられるのは片耳にだけ。開けた耳を下にして眠れないから、フォワードヘリックスが安定してくるのを待ってのピアッシングになった。
 かなり痛かった。ニードルで開けた中では最高値だったかもしれない。同時にヘリックスも開けたのだけど、そんなもんただの前座に過ぎない痛みだった。ヘリックスはぐっと堪えるタイプの痛みだったのに対し、ロークは涙が出るタイプの痛みというか。半べそかきながら脂汗を滲ませた記憶がある。軟骨が分厚いのもあって、ニードルが刺さってから抜ける感覚がひどく長く感じた。2メートルぐらいあるんじゃないかと思うほどのそれが出て行ってから改めてピアスが入るのがまたしんどかったのをよく覚えている。今でも思い出すと若干憂鬱になるぐらい。
 ピアスを開けた後はスタジオ近くのイタリアンでパスタを食うことに決めているのだが、それもちょっと辛いな、と思っていた。パスタは食った。
 安定にもかなり時間が掛かってなかなか難儀した。今でこそ何事もなく動かせるけど、開けてからしばらくは腫れていたし数ヶ月は動かすのも痛かった。どれぐらい腫れたかというと、前掲の耳写真では余裕があるバナナバーベルが、いっさいのゆとりが無く動かせない状態になるぐらい。
 今ではすっかりいい子です。
 いずれリングにしたいな~と思いながら外すのが面倒でそのままになっている場所その2。

アウターコンク

痛みレベル★★★★★
4g→2g→1g→0g

 耳上部内側の平たいところ。
 前回左に開けたから今度は右のターン。無限ループってこわくね?
 ラージホールにはずっと興味があって、でも調べれば調べるほどおっかなくて怖じ気づいて、の繰り返しで数ヶ月。いい加減覚悟を決めて『今日予約が取れたら開ける、取れなかったら諦める』とピアススタジオに電話したらあっさり予約が取れたので腹をくくって開けることに。
 ダーマルパンチという器具で開けた。先端が円形のパンチになっているニードルで、くり抜くようにいっぺんに大きな穴を開けられる優れもの。本当は0gを開けたかったのだけど、耳を見てもらったところ軟骨が狭くて4gが限界とのことだったので妥協するしかなかった。
 今までのピアッシングは座った状態でやっていたんだけど、今回は開ける耳を上にして寝転がった体勢に。初めてのことでひどく緊張した。
 いやあ痛かった痛かった! 痛みの質が今までとは全然違った。
 軟骨ニードルは刺突される感覚に近い。開けるのとピアス入れるのがちゃんと判る。
 ダーマルパンチは鋭さがある痛みだった。ざっくり切り取られるって感じ。貫通した感じがあまりしなかったし、ピアスが入ってくるのも判らなかった。痛みと衝撃でいっぱいいっぱいでそれどころではなかっただけかもしれない。ペキペキ音がすると聞いていたけど、ゲージが小さかったためかそれも聞こえず。聞こえなくてよかったが。
 そして痛みが一定の閾値を越えると勝手に笑っちゃうんだなと知った。パンチが始まってからずっと『ンッフフフフフwwwww』って笑っていたの、どう考えても気持ち悪い。
 いっぱい調べて怖くなっていたし、あわや号泣も覚悟していたのだが、結果的には恐れていたほどの苦痛でもなかったと感じていた。軟骨に5mmの穴を開けられたというのに。
 確認のために鏡で見た耳は、4gでもだいぶ存在感があって驚いた。心臓がばくばくしていたけど、恐る恐る耳に触れた自分の指が冷えていて、それで妙に落ち着いてしまったのを覚えている。
 驚いたのが、開けた後の軟骨を持って帰るかどうか訊かれたこと。そんなこと訊かれるとは思わず、反射的に頷いてしまった。さっきまで自分の一部だったものが他人の手で捨てられてしまうのがなんだか忍びなくて……軟骨の欠片を袋の上から触ったら肉の柔らかさがあって鳥肌が立った。嫌悪というより恐怖に近い感情。
 さりとて持ち帰ってきたからといってどうすることもできず、かと言ってやっぱり捨てるには忍びなく、とりあえず冷凍庫に突っ込む脳死プレイで片付けた。片付いてない。
 数日後には出血も腫れもひいた。開けた後の痛みはあまり残らなかった。鋭い刃で一気に抜いたからだろうか?
 ピアスを外せるようになるまでにはだいたい7ヶ月ぐらい。
 そこから拡張の長い旅が始まるのだが、まじで長すぎるのでここでは割愛。
 →別の記事にしました。

インナーコンク

痛みレベル★★★★★★★★
2g

 耳の真ん中、穴の近くの凹んだところ。
 開ける前は『右のインナーコンクに開けてアウターコンクとリングで繋げるのも格好いいよなあ』と思ってしばらく悩んだ時期もあったけど、別に自分の耳でやらなくてもいいかと思い直した結果、左耳に開けることに。
 結論から言って、今までに開けた中で間違いなく一番痛かった。アウターコンクのダーマルパンチがたいしたことなかったから正直ナメてましたごめんなさい。
 前回同様、開ける耳(今回は左耳)を上にして寝転がった状態からスタート。
 まず押し当てられたパンチがゲージ数以上に大きく感じてその時点で怖じ気づいていた。刃の円い輪郭と鋭さがはっきり解ってしまって。
 続いて圧力のある重い痛み。前回、一定の閾値を超えるともはや笑ってしまうと学んだが、それも超えてしまうと今度は声も出ないのだと知った。こわばる体を自覚して、だけど力を抜けない、じわじわ滲んでくる脂汗を拭くこともできない。ハンカチを握りしめながらひたすらゆっくり息をして、白い人工大理石の壁にぼんやりと映る照明と自分の顔を眺めていることしかできなかった。宛がわれたペーパータオルが血で湿っていく温かさがひどく鮮明で生々しく、そればかりが現実で、他には何も無いかのようだった。時間の感覚が消え、自分の呼吸だけしか判らない。
 だというのに、ピアッサーさんの「もう少しだよ」の声に返事をした自分の声は意外と元気な感じで、『なんかウケる』と他人事のように思っていた。前に開けたときどれぐらい出血が続いたか訊かれて、そんなでもなかったと答えたら、血が止まりやすい体質みたいだね、とのこと。
 傷口をぐっと押さえつけられる。ある程度出血が治まったらしい、今度はピアスが入る痛み。冷たいものが触れる感触が少ししてから押し広げられていく。耳の裏でOリングが嵌められるのが判る。
 全部が終わった頃には息も絶え絶えになってしまっていた。握りしめていたハンカチはしわくちゃになっていた。
 鏡で見せられた自分の耳はびっくりするぐらい腫れている。ど真ん中に巨大なアイレットが収まっているのを見て、それでようやく全身から力が抜けていった。
 開けた後の説明は2回目だからかサクサク。結局今回もくり抜いた軟骨を持ち帰ってしまったし、やっぱりそいつは冷凍庫に突っ込まれることとなった。
 帰り道も辛くて、普段なら興奮状態でへらへらしているのにそれすらなく。首から上を鍋で煮込まれているみたいな痛みでぶれる視界のなか、呼吸を整えながらゆっくり歩いて帰ったのだった。
 出血と腫れは数日続いた。ケアに関しては2週間ホットソークをやるようにと厳重に言われたのでその通りに。
 やはり軟骨が厚いのとホールが大きい=傷口の面積が広いせいで安定にはかなり時間が掛かった。何事もなく付け替えられるようになるまで1年以上掛かったかもしれない。今でもときどき不安定になるから安心はまだできないな、といったところ。
 面白かったこととしては、シャンプーして頭を洗うときに水が直で耳に入ると聞いていたのが本当だったこと。『またまた~w』って思っていた。耳の後ろを洗っているとき、ピアスからだばだば水が流れ出てきて笑ってしまった。これ、インナーコンクラージホール勢あるあるだと思う。(そんな勢力ある?)
 ちなみにイヤホンに関しては、ホールが安定すれば(イヤホンの形状にも依るけど)わりと問題なく付けられている。

 今開いているピアスの話はこれでおしまい。ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
 これからどうしようかはまだ考えている最中。次はインナーコンクに2連にするかダイスにするかで迷って1年ぐらい経っている。冬だしそろそろ開けたいなあ、という気持ちもあるし。
 実は、アウターコンクに開けたときに「これでもう場所も無いし終わりだな」と心底思ったはずだった。なのに結局インナーコンクに大穴を開けてしまったのだから、この調子だとまだ終わらないような気もしている。
 ちなみに、本当はどうしても開けたかったのがインダストリアル(2箇所の穴を1つのボディピアスで繋いだもの)。しかしピアッサーさんに耳を見てもらったら、耳の形状的に難しいと言われてしまって泣く泣く諦めたという経緯がある。だからその代わりにもっと格好よくなれる開け方を求めてしまったのは否めない。一番欲しいものが手に入らないから、代わりを探し続けてここまで来てしまったのかもしれなかった。でも後悔はしていない。結果として唯一無二の見た目に仕上がったのだから。
 何年も掛けて育ててきたこの耳が、自分の体で唯一好きなところと言ってもいい。自分の好きにできるところぐらいは好きにしたい、そう思って生きてきた過程がぜんぶ乗っかってきたこの耳を見ると、なんだか強くなったような気になれるのだ。
 最強だと思える自分を自分に与えてやりたい。人に見せるためではない。ひとつひとつ、自分の好きなところを増やしていくための行為。自分の体が自分のものである揺るがない証。
 私にとってのピアスって、つまりそういうものなのだ。


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