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小児科医が解説するパーソナリティ障害

こんばんは。絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者で、小児科医のしょーたです。

今日は「小児科医が解説するパーソナリティ障害」というテーマで短くお話ししたいと思います。

発達外来をしていると、世間でいう「困った行動」を示す子どもたちが受診してくれます。例えば、人を叩いてしまったり、盗みをしてしまったり、学校に行きたくないと言って暴れたり。そんな子どもたちを連れてきてくれた時、小児科医としてどんなところに注目すると思いますか?今日はそんなことをお話ししたいと思います。

外来で親御さんからこれまでのお話を聞いていると、「この子はこんな困ったことをするんです」、そんなコメントをいただきます。子どもが困った行動をするものだから、子どもに発達上の大きな問題があって、薬でもなんでもいいから使って治したい。そんな気持ちがひしひしと伝わってきます。

でも、子どもたちが問題行動を示す場合、子どもたちばかりに原因があることが多いかというと、実際にはそういうわけでもありません。じゃあ、どこに問題があるんでしょうか?それは、親御さんのパーソナリティだったりします。

あなたは、あなた自身のパーソナリティを考えたことはありますか?あなたは人と交流するのが得意な人ですか?相手の気持ちを察して、その相手に合わせて言葉を選びながら気持ちのいいコミュニケーションがとれますか?

このパーソナリティ(personality)という言葉は、日本語で人格を意味しますが、ラテン語のペルソナ(persona)という言葉が語源になっています。このペルソナという言葉は、個人そのものというよりも、他人との関係の中で作られるものとされています。そんな意味も反映して、このペルソナという言葉は演劇の世界における仮面を意味することもあるんです。その人個人というよりも、人との関係の中で作られる仮面の姿。そんなイメージですね。わかりますか?

パーソナリティを考える上で、周りの人との関係、つまり社会におけるその人の反応という視点がとても大切ということです。社会というさまざまな人と交流する環境の中で見出される人格、それがパーソナリティと言えるでしょう。

そんなことを理解していただくと、「パーソナリティ障害」という言葉のざっくりとしたイメージがわかっていただけると思います。人との交流の中で生み出される人格に障害があるということ。つまり、パーソナリティ障害は、社会生活の中で支障が生まれる人格ということなります。

このパーソナリティ障害には、いくつもの種類があります。例えば、妄想性パーソナリティ障害、シゾイドパーソナリティ障害、統合失調型パーソナリティ障害、境界型パーソナリティ障害、反社会性パーソナリティ障害、自己愛性パーソナリティ障害など、かず多くのパーソナリティ障害があります。

今回の放送ではぞれぞれのパーソナリティ障害を解説することはしませんが、でも、ほとんどのパーソナリティ障害に共通する点は、青年期で 問題が生じてくるというところです。それはおそらく、多くの人と交わり社会との交流を始めるのがこの青年期に当たるからと言われています。つまり、社会で生きるようになり、パーソナリティが明らかになるタイミングで、その障害が明らかになるというわけですね。

そして、このパーソナリティ障害を親御さんが持っている場合、その子どもは相当に苦労します。それは治療者も同様です。いくつもあるパーソナリティ障害に共通して言えることは、治療には多大な時間と労力を費やすということなのです。

それはなぜならば、パーソナリティ障害のあるその人本人には、他者に対して迷惑をかけている、困ったことをしてしまっているという自覚がないからです。ですから、もちろんその人本人は自分のパーソナリティを治してもらいたいという気持ちはありません。

外来を受診するとしても、パーソナリティを治してもらいたいということではなくて、社会生活で苦労する中で生まれたうつ状態を治したい、不眠を治したいといった、パーソナリティ以外のことを相談しに外来を受診されるものです。そういう症状で受診されるのであればまだいいのですが、反社会的な行動で警察のお世話になってしまうこともあるものです。

自分でも自分の生きづらさに気づかず、社会生活での他人との交流のしづらさゆえに生じた課題で病院や警察、自治体のお世話になるということです。でも、その問題の原因を追究すると、結局その人のパーソナリティにあるわけです。社会の中で他人と交流しづらいそのパーソナリティゆえに、色々な問題が起こるのです。

パーソナリティ障害のあるその人の問題が、その人の中だけで完結すればまだいいのですが、問題はそんな簡単ではありません。パーソナリティ障害のある人が結婚してパートナーを持ったり、子どもを持ったりした場合、その家族はどうなるでしょう。その家族が苦しみます。

例えば、子どもは親との交流の中で社会生活での不安を解消していきます。困ったことがあれば、親に抱きしめてもらったり、手を繋いでもらったり、優しい言葉を交わしてもらったり、そんな関わりの中で子どもは心を整えて成長するわけです。

でも、他人との交流に問題を生じるパーソナリティ障害のある親御さんの場合、人との交流に課題を生じるわけですから、子どもとの交流でも適切な交流が行えないわけです。例えば、自分の都合で突然子どもにキレたり、子どもの気持ちを尊重すべき場面で自分の気持ちを優先してしまったり、そんな関わりの間違いが繰り返し起きるものです。

すると、子どもの心が次第に崩れていきます。その崩れた子どもの精神状態をみて、また身勝手に子どもを叱ってしまう。本当は事の発端は、親御さんのパーソナリティにあるにも関わらず、子どもの課題へと問題がすり替わってしまう。本当は親御さん自身のパーソナリティを治すべきなのに、子どもの問題を治すことばかり主張してしまう。それが、パーソナリティ障害のある親御さんです。

つまり、パーソナリティ障害のある親御さんが治したいものと、治療者が治したいものが一致しない、というところに、この家庭を修復する難しさがあるわけです。

そんな風に、パーソナリティ障害の親御さんを持つ子どもは、とても苦労するものです。子どもは苦労しますが、もちろんパートナーも苦労します。ですから、パーソナリティ障害のある配偶者との離婚を考えるというご家庭も少なくありません。離婚すれば、子どもの心もだいぶ改善するだろうと思う状況もあるものです。ただ、経済的なことも考慮して、なかなかそういった決断を下せない現実もあります。

子どもが問題行動を示す場合、その原因が子どもばかりにあるわけではない。子どもの問題行動は、その家庭を抜け出したいというSOSかもしれない。その真実を社会に知っていただきたいと思います。

今日は「小児科医が解説するパーソナリティ障害」というテーマでお話ししました。

だいじょうぶ。
まあ、なんとかなりますよ。

湯浅正太
小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医。一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて:https://yukurite.jp/)代表理事。イーズファミリークリニック本八幡 院長。作家。著書に『みんなとおなじくできないよ』(日本図書センター)、『ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ』(メジカルビュー社)がある。

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