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落ち着きがなかったら障害なのか

こんばんは。絵本「みんなとおなじくできないよ」や「ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ」の作者で、小児科医のしょーたです。

今日は、「落ち着きがなかったら障害なのか」というテーマでお話ししたいと思います。

明日「小児科医が話す発達障害を理解するために知っておきたい知識」というテーマの放送を流す予定です。今日はそれに関連して、「落ち着きのなさ」に対する捉え方を考えたいと思います。

あなたの周りには、落ち着きがない人っていますか?いつも歩き回っている。いつも誰かに話しかけている。いつも体をモゾモゾ動かしている。よくそんなに活動する元気があるなあと感じる人、あなたの周りにはいますか?

僕がこれまで生きてきて、患者さん以外で、日常生活の中でそんな人に出会うことはありました。その人たちの中には、生活での失敗を繰り返している人もいれば、楽しそうに生活している人もいました。

例えば、そういった落ち着きのない人に出会った場合に、あなたはそれを障害と捉えますか?別の聞き方をすると、何をもって障害と決めるんでしょうか?

僕が講演会でこんな質問をすると、中には「ちょっと変わっているから」「普通とは違うから」と答えてくれる人がいます。そんな答えが返ってきた時には、僕はこんな風に聞き返します。

「例えば、その人が人気がある売れている芸能人だった場合はどうでしょう?落ち着きなくベラベラ喋れるからこそ社会で成功している方だったとしても、それを障害と捉えますか?あんな個性があるから、人気が出て売れて社会で成功しているんだなあ、羨ましいなあ、なんて思いませんか?」そう聞くと、大抵「そうですけどお・・・」という風に答えが返ってきます。

「ちょっと変わっているから」「普通とは違うから」という視点で障害かどうかを決めるとしたら、障害という言葉はただのレッテルに過ぎません。障害という言葉は、社会に困っていることを示すための言葉です。障害があることを示すために手帳を取得するのは、困っている現状に対して社会的支援を受け取るためです。障害という言葉を決してレッテル貼りのための言葉にしてはいけない。そんな風に思っています。

つまり、障害というからには、「困っている」必要があるんです。その困っていることを社会に示すための言葉なので、「困っている」ことが必要なんです。

ですから、その人がちょっと変わっていても、生活に支障なく困っていなければ、それは障害とは言わないでしょう。もちろん、生活に支障なく暮らしていれば、病院を受診することもないでしょう。病院受診する人は、困っているから受診するんです。

この理解は、障害を診断する医師として、とても大切なことと思っています。「生活に支障をきたして、本人が困っているのか」ということ、それは障害を診断する上で意識すべきことと思っています。

もしも本人が何も困っていないのにも関わらず、障害の診断を求められた場合、レッテル貼りの片棒を担がされているのではないかと警戒します。

しかも・・です。「落ち着きがない」と一言で言っても、その背景には色々な原因が潜んでいることもあるんです。

例えば、体がかゆいアトピー性皮膚炎があって、体が痒いために夜まともに熟睡できなくて、日中の注意が散漫になってしまう人。そういう人は落ち着きのなさが目立つ場合も少なくありません。そういう方は、皮膚の治療をしてアトピー性皮膚炎を良くすることで、日中の態度も変わる。そういうことがあるものです。

例えば、夫婦喧嘩が絶えない家庭の中で生活している子どもです。家庭にいてもお父さんとお母さんが毎日喧嘩しているために、子どもの心が休まることがない。そんな状況の時には、その反動が子どもの落ち着かない行動として現れてしまうこともあります。周りの悪い環境のために、子どもの落ち着きのなさが現れる。そういうこともあるんです。

こういった子どもたちは、「落ち着きのなさ」というよりも、その背景にある課題で悩んでいるものです。その子たちの落ち着きのなさを障害と診断しても、問題は解決しません。その子たちの落ち着きのなさを叱っても、問題は何も解決しないんです。皮膚の状態を治したり、家庭環境を治さない限り、その子どもたちは救われないんです。

しかも、子ども自身は、自分の「落ち着きのなさ」の原因を知りません。皮膚のコンディションが悪いことが原因であること、お父さんやお母さんの態度が原因であること、そういったことを理解できるはずもないんです。素直な子どもほど、「自分が悪いんだ」と自分のことを責めるものです。

そんな現実を知っているので、僕は障害と診断する上で、その子が本当に困っていることは何なのか、ということに注意するようにしています。障害と診断することでその子が救えるのか。障害と診断することはただのレッテル貼りで、もっと深いところにある課題を解決しなければ、その子を救えないのか。そんなことを考えます。

それは、本気で子どもたちを救いたいと思っているからです。だって、子どもの心って、一生ものなんです。子どもの時期にSOSを拾ってあげられるかどうかが、一生に影響するんです。

今日は「落ち着きがなかったら障害なのか」というテーマでお話ししました。

だいじょうぶ、
まあ、なんとかなりますよ。

湯浅正太
小児科専門医、小児神経専門医、てんかん専門医。一般社団法人Yukuri-te(ゆくりて:https://yukurite.jp/)代表理事。イーズファミリークリニック本八幡 院長。作家。著書に『みんなとおなじくできないよ』(日本図書センター)、『ものがたりで考える 医師のためのリベラルアーツ』(メジカルビュー社)がある。

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