子どもの不安を残すかどうか
おはようございます。絵本「みんなとおなじくできないよ」の作者で、小児科医の湯浅正太です。このチャンネルでは、子どもの心を育てるうえで役立つ情報を発信しています。そんな、子どもの心を育てるということを、あまりかたく感じないでもらいたい。ですから、紅茶でも飲みながら、ゆる〜い気持ちで聴いてもらえればと思っています。
今回は、子どもの不安を残すかどうかについて考えたいと思います。
あなたは、治りにくいあせもを経験したことはありますか?あるいは、治りにくい傷をつくったことがありますか?あせもや傷はうまく治る場合が多いですが、治さずにずっと同じ状態のまま放置しておくと、治りにくい状態を招きます。そして治ったかと思ったら、また同じところに同じようなあせもや傷をつくります。
実は、心も同じです。心に傷を負った場合、心の傷を治さずに放置しておくと、その状態が続いてしまいます。そしてようやく治ったと思ったら、また傷を負った心の状態に戻ってしまう。不思議なものですが、やはり人の体はすべて同じようにつくられています。
心の傷として、例えば不安を考えてみましょう。不安にも、同じことが言えます。あなたが、不安を感じた状態に何も対処せずにずっと放置しておくと、その不安は解消されにくくなります。そして、不安をずっと放置しておくと、いったんその不安を解消したとしても、またその不安がぶり返します。
でも人には、不安を抱き続けないように対処しようとする本能があります。不安をずっと同じ状態でもち続けると、その後も不安がなかなか治りにくくなる。そしてまた同じ不安が再発しやすくなる。だから不安が生じたら、無意識のうちに解消しようとする気持ちが働くものです。
そうやって、あなたは不安を抱くたびに、その不安を解消しようとしてきたはずです。子どもの頃は不安を抱えると、親との関係で不安を解消してきました。自分で歩行できない赤ちゃんの頃であれば、泣いて親を求めて、おっぱいを飲んだり、あやされたりして、その不安が解消されました。自分で歩行できるまでに成長すると、自分に不安が生じたら、自分で親の元へ近寄り、親と触れ合うことで不安を解消したはずです。
子どもは成長の過程で常に親を求めながら、不安を解消していきます。でもそんな子どもは徐々に、親を求めなくても不安を解消できるようになっていきます。例えばあなたは、美味しいものを食べて不安を解消するようになったかもしれません。あるいは好きな音楽を聞いて、不安を解消することもあるでしょう。それぞれの人で、その人にあった不安の解消法を身につけていくものです。
でもそうやって自分で不安を解消できるようになるには、必ず必要なことがあります。それは、子どもの時期に親子関係でしっかり不安を解消する経験を積むことです。しかも、不安が続きやすい状態や、不安がぶり返しやすい状態をつくらないように、適切に不安を解消する経験を積むことなのです。
不安への柔軟な対応を身につけていく。それが、人が生きるうえで欠かせません。柔軟な対応というのには、理由があります。それは、不安は決して悪いわけではないからです。
不安があるからこそ、社会生活をしっかり営めるという側面もあります。例えば、宿題を提出しないといけないという不安を抱くからこそ、提出期限に合わせて宿題を提出できます。面談には遅刻しないようにしようという不安を抱くからこそ、遅刻をせずに社会人として働くことができます。
決して、不安は悪いものでもないのです。ですから、不安をゼロにすることを目標とはせずに、また過度な不安も抱かない、そんな適切な不安の状態を目指します。そのために、不安への柔軟な対応を身につけることが必要です。
そういった、不安への柔軟な対応の基礎を築く場が、子どもの頃の親からの関わりにあります。不安が生じた時に、しっかり親に関わってもらえた。そういった経験が、その子の人生における不安解消の基礎になっていきます。
実は子どもの中には、不安を解消するために親を求めても親に関わってもらえない環境で過ごしているケースもあります。親が仕事で多忙であったり、色々な理由で親が子どもの不安にすぐに関わってあげられない状況がある。すると、子どもの不安が適切に解消されません。不安を解消できずに不安を抱え続けてしまうと、子どもは不安をきっかけに生きづらくなってしまいます。
その生きづらさが、学校生活でみんなといっしょに行動できないという現象として現れたり、学校に行くことができない不登校という形で現れることもあります。子どもが表す問題は様々であっても、元は不安を解消できない環境にある。そういったことが珍しくありません。
あなたの今の心の状態は、元をたどればあなたの幼少期にある。人の心って、そういうものなのです。
今回はここまでです。