アーサー・ランサムとオーディオブック
うちに、かなり年季の入ったiPodがあります。いつ買ったのか正確には覚えていませんが、十数年前のものです。
PCにつないでもiTunesに同期させることができません。何年も前にApple Storeに持って行ってみてもらったことがありますが、「ずいぶんと昔のモデルだから、もう無理みたいですね」と担当の方も何もできずに終わりました。
もともとはiTunesにも入れていたはずのコンテンツが、どういう訳かアップデートやPCの更新などの際に見当たらなくなり、このiPodの中にしか残っていないというものがいくつもあります。今となってはPCに転送することもできません。時の流れからこぼれ落ちてしまったガジェットです。
でも、これは私にとって非常に大切なものです。同期ができなくなっても充電と再生は可能で、ずっと前に取り込んだコンテンツをまだこのiPodで見聞きすることができるからです。中でも貴重なのは、オーディブル(Audible)でかなり前に入手した、アーサー・ランサム作品の英語の朗読版です。
オーディブルは、アマゾン傘下のオーディオブック配信サービスです。プロのナレーターが本を読み上げる音声を聴くことができます。私がランサム作品のオーディオブックを購入したときはまだ日本でサービスを始めていなかったので、アメリカのオーディブルのアカウントを作ってそこで入手しました。以来、自分の英語力ではわからないところも多々ありながら、折を見て聴いています。やる気があるときは週に数回、ないときは半年以上放置といった具合に。
ランサムの本は子ども向けながら(主な対象は、今でいえばハリーポッターなどと同じぐらいの年代でしょうか)1冊ずつがとても分厚いです。それを趣味で全部読み上げようという人はほとんどいないと思いますが、プロのナレーターが読むと1冊あたり大体8時間から、ものによっては10時間ほどになります。かなりの長さです。聴こうとする時間とやる気があれば、ランサムの世界にどっぷり浸かることができます。私の場合、8時間のものを1日20分ずつ聴くとすると24日。できるだけ毎日聴こうとして、でも時間が取れない日も出てくると、大体1冊を聴き終えるのに1か月から1か月半かかります。いまは『Great Northern?(シロクマ号となぞの鳥)』を聴いていて、「そうそう、こんな話だったな」と思い出しながら後半に入ってきたところです。
ランサムの本を聴くまで、私はオーディオブックに馴染みがありませんでした。聴き始めてすぐ、これは相当によいものだと思うようになりました。目で文章を追うのと同じぐらい、読み上げられた音声から情景を思い浮かべたり想像を広げたりすることができます(私が英語を理解できる範囲において、ですが)。読書に比べて利用範囲が広いのも魅力です。例えば通勤・通学や買い物、その他用事でどこかに向けて歩いているときとか、家で食器洗いや洗濯干しといった家事を行っているときなどにも音声を流して聴くことができます。
英語がわからないところも少なからずありますが、子どもの頃に日本語で何度も読んだことがある話なので、忘れている箇所も多いとはいえ音声を聴いていると物語の展開が頭の中によみがえってきたり、「ここであの人がこんなことをするんだったな」と思い出したりしてきます。まったく知らない物語をいきなり英語で聴くよりも、ずっと親しみやすいです。好きな本(英語圏の作家の翻訳でも、英訳が出ている日本人作家でも)の英語版を音声で聴くというのは、楽しみながら英語のトレーニングにもなるという、とてもいい方法に思えます。
私のiPodに入っているのは、ランサム・サーガ12冊のうち
・Swallows and Amazons(ツバメ号とアマゾン号)
・Swallowdale(ツバメの谷)
・Peter Duck(ヤマネコ号の冒険)
・Winter Holiday(長い冬休み)
・Pigeon Post(ツバメ号の伝書バト)
・The Picts and Martyrs(スカラブ号の夏休み)
・Great Northern?(シロクマ号となぞの鳥)
の7冊です。昔、少しずつ購入してきたものです。私の手元ではiPodの中にしか残っていないので、これが使えなくなると聴けなくなってしまいます。だから、このiPodは10年後、20年後まで使える状態でいてほしいと願っています。
現在は、ランサム作品の英語のオーディオブックは日本のオーディブルで購入するか、もしくは月額1500円の有料会員となることで聴くことができます。ランサム・サーガのシリーズに加え、『Old Peter's Russian Tales(ピーターおじいさんの昔話)』『The soldier and death : a Russian folk tale』という作品が含まれています。
1冊2000円ぐらいの値段になっていますが、オーディブルの会員にこれからなる人は、最初の1冊を「無料体験で入手する」ことができるようです。以下はオーディブルのサイトからのキャプチャ画像です。
ただ、最初30日の無料体験が終わると、自分で解約しない限り自動的に月1500円の有料会員に移行してしまうようなので、そこは注意が必要です。詳しい仕組みなどは私にもよくわかりませんので、興味のある方は、例えばこちらのページなどで確認されるとよいかと思います。
日本のオーディブルでランサムのオーディオブックを探してみて興味深かったことが2つあります。ひとつは、ランサム・サーガ12冊のうち何故か6冊目の『Pigeon Post』だけラインナップにあがっていないこと。これが一時的なものかどうかはわかりません。
そしてもうひとつは、私がiPodに持っているものと現在日本のオーディブルで提供されているもので、ナレーターが違うということです。私のiPodにあるのは、Alison Larkinさん(女性)が読んでいます。でも日本のオーディブルが配信しているものは、Gareth Armstrongさん(男性)が読んでいるのです。日本のオーディブルで試し聴きしてみましたが、女性と男性の声では、どちらがよいということではなく印象が大分と違います。それに、Garethさんのバージョンの方がAlisonさんよりも読み上げるスピードが少し速いです。『Swallows and Amazons』は、Garethさん版が8時間40分、Alisonさん版が10時間15分と紹介されているので、読むスピードがざっと15%ぐらい違うということでしょうか。
10時間近いオーディオブックの作成は手間ひまもお金もかかりそうなので、異なるバージョンがあるということに驚きました。アメリカ英語版とイギリス英語版の違いなのだろうかとも思いましたが、私の英語力では判別できません。ただ、アメリカとイギリスのアマゾンのサイトでランサムの作品のオーディブル版を検索してみたら、出てきたのはどちらもGarethさんのものでした。このバージョンは制作が2013年と私が入手したものよりも新しいので、どうやらAlisonさんのものは古いバージョン、そして何らかの事情で新しく作り直したのがGarethさんのバージョン、ということのようです。
一方、Alisonさんのバージョンは現在、日本のアマゾンでCD化されたものが販売されています。下の『Swallowdale』は、ランサム・サーガの中でもっとも長い作品だと思いますが、CDにすると「11枚」という大作のようです(そう聞くと、この値段は良心的なもののように思えます)。
Garethさんの現行のオーディブル版も、上にあげたオーディブルのページに加え、通常の日本のアマゾンのページにも出ています。こちらでも結構長めのサンプル試聴ができるので、興味のある方はまずそれを聴いてみるとよいと思います。
私も、今の『Great Northern?』を聴き終えたら、日本のオーディブルの無料体験を使って自分が持っていないランサムの作品をGarethさん版で聴いてみようと思っています。自分が細々と昔のiPodで聴いているランサムのオーディオブックのことを書こうと思って少し調べ始めたら、思わぬ方向に話が広がりました。