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Ubieのプロダクト戦略をBtoCコンパウンドスタートアップとして捉える

Ubie で VP of Technology を担当している yuku (@yukukotani) です。

UbieはBtoC事業に加えて医療機関向け事業や製薬企業向け事業も展開していますが、ミッションは「テクノロジーで人々を適切な医療に案内する」です。

医療機関や製薬企業も一般生活者の健康を目的としていますから、顧客でありながらも同じ目的を持つ仲間でもあると考えています。

本エントリではミッションに基づき、Ubieのプロダクト戦略をBtoCコンパウンドスタートアップという切り口で紹介します。


TL;DR;

Ubieのプロダクト戦略は次の通りです。

  • ペイシェントジャーニー全体の抜本的改善を目的とした、PHRデータ中心のマルチプロダクト展開

  • それを支えるカルチャーとミドルウェア群への投資

  • 営業/CS不在のBtoCならではのパーソナライズによる高度なテックタッチ

  • 蓄積したRWDを用いたBtoBの2階建て価値提供

BtoC特有の要素もありつつ、一般的なBtoBコンパウンド戦略の大部分を適用可能で、事業を加速することができています。

BtoCでコンパウンドスタートアップ?

BtoCのコンパウンドスタートアップと言うと聞き馴染みがないかもしれません。コンパウンドスタートアップの祖であるRipplingや、日本国内の代表的事例であるLayerXはBtoB SaaSですし、法人向けクロスセルの文脈とセットで語られることも多いですよね。

Ripplingはコンパウンドスタートアップの要点を次のように説明しています。

Integration is the product: プロダクト間の連携こそがプロダクト
Maximize the price of your bundle:
プロダクト単品ではなくバンドルとして収益を最大化する
Aim for “parallel execution”:
複数プロダクトを並列で立ち上げる

https://www.rippling.com/blog/rippling-compound-startup-model-global

また、RipplingはEmployee graphと呼ばれる従業員データを中心に据え、Rippling Unityというミドルウェア(基盤システム)群に投資することで、プロダクト開発を加速しています。

https://www.rippling.com/blog/5-pitfalls-of-going-global

こう見ると、実はBtoBに限定した言及はあまりなく、多くのアプローチはBtoCドメインでも適用可能だと考えています。実際にUbieが解いている課題や戦略と照らし合わせてみます。

長く複雑なペイシェントジャーニー

患者さんが病気を発症してから最終的に治療されるまでには、多くのステップが存在します。このプロセスをペイシェントジャーニーと呼びます。「医療のユーザージャーニー」と言い換えるとわかりやすいかもしれません。

ペイシェントジャーニーの略図

このペイシェントジャーニーは極めて長く複雑です。疾患によっては発症から治療までに10年以上を要する場合もあれば、セカンドオピニオンによって治療→受診に逆戻りすることもあります。

ペイシェントジャーニー上でユーザーを適切なフェーズに進めることこそが、ユーザーを適切な医療に導くということであり、Ubieが解いている課題です。そのために次のようなアプローチをとっています。

同時多拠点突破

情報収集フェーズに対する医療情報メディアや、受診フェーズに対する予約サービスなど、個別の課題を解決するポイント・ソリューションは世に多く存在します。

一方で、Ubieは発症から治療までをエンドツーエンドで繋ぐことを志向しています。そのためにはペイシェントジャーニー上のあらゆる課題を解く必要があり、創業期から「同時多拠点突破」という理念を掲げ、院外のフェーズを支援する生活者向けプロダクトと、院内の診断フェーズを支援する医療機関向けプロダクトを複数同時展開してきました。

多数のプロダクトを立ち上げるためには、他のプロダクトがグロースする中でも狂気的に0→1の発明ができる文化が不可欠です。Ubieは創業期から同時多拠点突破に取り組んでいますから、当然それを前提としたカルチャー形成を行っています。その結果として、今でも事業計画をひっくり返すような新規プロダクトがボトムアップに生まれる土壌ができています。

また、技術戦略もそれを支えることに重点を置いて設計しています。あらゆるプロダクトの実装が乗るサービスをミドルウェアとして捉え、専門性のあるメンバーがモジュラモノリス基盤を提供しています。さらにそういった基盤開発・イネーブリングを集中させるため、技術選択の自由はあえて制限しています。

PHR中心設計

個人の健康や医療に関する情報をパーソナル・ヘルス・レコード(PHR)といいます。このデータが医療機関を含む様々な場所に散らばってしまっているのも大きな課題です。

診断に辿り着くまでの症状やセルフメディケーションに関する情報は、時系列も含めて、医師の診断における重要なファクターになります。しかし、それを体系的に管理する術が存在せず、短い診察の中で患者自身が医師に伝えなければなりません。抜け落ちてしまう情報も多く、医療体験が滑らかに繋がっているとは到底言えません。

さらにいえば、本質的に医療体験は単一のペイシェントジャーニーに閉じず、一生涯において連続的です。例えば以前かかったことのある病気は既往歴といい、治療済みであっても次回以降の診断に活用されます。こういった情報も医療機関ごとに分断されがちで、適切な医療アクセスを阻んでいます。

Ripplingが従業員データを、LayerXが法人支出データを中心に据えているように、UbieはこのPHRデータを中心にプロダクトを統合し、医療体験を再構築します。

想像してみてください。ユビーに症状を伝えたら、行くべき医療機関がわかる。そのまま予約できて、医師に症状が伝わった状態で診察を受けられる。診察の結果はユビーに取り込まれ、経過観察や次回の体調不良時に活用される。最高じゃないですか?まだ道半ばですが、このようなデータ中心の滑らかな医療体験を目指しています。

そのために、PHRを正規化して安全に蓄積できるデータ基盤や認証認可基盤といったミドルウェア群に投資しています。

UbieのPHRデータについてもっと知りたい方は、次の記事をご覧ください。

統合されたプロダクトとパーソナライズ

医療は極めて情報の非対称性が大きい領域です。その中で、複雑なペイシェントジャーニーに身を置くユーザー自身がプロダクトを正しく選択して使い分けることができるでしょうか。

例えば何らかの症状があるとき、それが治療中の病気に関連する症状なのか、あるいはまったく別の病気によるものなのかによって取るべき行動は大きく異なりますが、それを自分で判断することは難しいです。

既に存在するポイント・ソリューションではなく、改めて統合されたプロダクトを志向する理由はここにあります。「とりあえずユビーを開けばどうすればいいか分かる」という体験を作らなければなりません。

PHRデータによってユーザーの状態が分かり、提供できるソリューションが揃えば、残りのミッシングピースはユーザーの状態に応じて最適なソリューションを提案するパーソナライズ技術です。このR&Dにも力を入れていて、代表例として創業以来のコア技術である問診エンジンがあります。これは症状に合わせた質問を繰り返すことでユーザーの状態を深掘りするもので、今もなお多数の医療機関からのフィードバックによって進化し続けています。

同時多拠点突破によって林立したプロダクト群が、ミドルウェアとデータに立脚して統合されることで、新たな体験価値を生む。まさにコンパウンド戦略と重なる点だと思います。

BtoBであればユーザーのリテラシーが一定高いですし、営業やCSがハイタッチでオンボーディングすることができるため、ニーズを満たす新規プロダクトであればクロスセルが狙えます。一方で、BtoCではテックタッチにならざるを得ないので特有の難しさがあります。しかし結果的に、コンパウンド戦略に則ったプロダクト統合とミドルウェア投資によって適切なソリューションの利用を促せるのは面白いポイントです。

リアルワールドデータによる2階建ての価値提供

ペイシェントジャーニー上の課題解決を通して得られるデータは、医療機関の外側から内側まで、発症から治療まで、患者が辿った経過を時系列で分析できるリアルワールドデータ(RWD)です。このRWDは極めてユニークで、統計データとして新薬開発のための調査などに有効な示唆を与えることができ、製薬企業からご評価をいただいています。

まだ用途は限定的ですが、最終的には国家全体の医療の質や医療費の最適化に寄与すると考えています。

このように、BtoCでのエンドツーエンドな価値提供によって得られたデータを元に、BtoBのデータビジネスを展開する、2階建ての価値提供がしやすいのはコンパウンド戦略の魅力といえます。スキームとしてはありがちですが、BtoC事業側がデータ中心であることでデータ価値が高くなります。事業ポートフォリオとしても非線形な成長を目指しやすいです。

ここでいうRWDは、ユーザーのPHRデータを含みます。そのため、適切に匿名化・統計化してデータプライバシーを遵守するためのデータエンジニアリングも重点領域として位置付けています。

Ubie RWDについての詳細は次の記事をご覧ください。

おわりに


Ubieのプロダクト戦略をBtoCコンパウンド戦略という切り口でご紹介しました。

  • ペイシェントジャーニー全体の抜本的改善を目的とした、PHRデータ中心のマルチプロダクト展開

  • それを支えるカルチャーとミドルウェア群への投資

  • 営業/CS不在のBtoCならではのパーソナライズによる高度なテックタッチ

  • 蓄積したRWDを用いたBtoBの2階建て価値提供

この戦略を実行するには不足するケイパビリティが多く、採用を強化しています。10/30(水)に開催するイベントでもこの辺りの戦略についてお話しますので、ぜひご参加いただけると嬉しいです。

最後に募集中職種をいくつか紹介して終わります。少しでも興味を持っていただけた方はご連絡をお待ちしています。一緒に医療の未来を作りましょう。

PdM (新規事業)

同時多拠点突破に基づき、新規プロダクトの立ち上げを牽引するポジションです。
新規プロダクトと言いつつも、1200万MAUのユーザーベースをはじめとするアセットを最大限に活用することができ、スピード感のある垂直立ち上げを楽しんでいただけると思います。

Tech Lead (モバイル / React Native)

React Native製のモバイルアプリの技術面をリードするポジションです。
「とりあえずユビーを開けばどうすればいいか分かる」という体験の起点として力を入れている領域で、テレビCMを打ったり「Google Play ベスト オブ 2023」で大賞を受賞したりと急成長中で、楽しんでいただけると思います。

プラットフォームエンジニア (Node.js)

プロダクト開発のメイン言語であるNode.js周辺の専門性を武器に、同時多拠点突破の武器となるミドルウェアや開発環境の提供を担当するポジションです。既に高い専門性を有するメンバーが複数いますが、圧倒的に手が足りていないため、協働しつつも裁量を持って楽しんでいただけると思います。

データアナリスト

Ubie固有のRWDや公的なレセプトデータを組み合わせたデータ分析により、医療の質の向上に与する示唆出しを担当するポジションです。1200万MAUのプロダクトパワーに立脚した豊富なデータがあり、楽しんでいただけると思います。

他のポジションも大募集中です

ここで紹介した職種に該当しない方も、採用サイトをご覧ください。少しでも興味を持っていただけたら、ざっくばらんにお話できると嬉しいです。以下のPittaかTwitter DMか何かでお気軽にお声がけください。


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