後ろを向くと 思いだすもの[1300]
久々に『干物妹!うまるちゃん』サンカクヘッドさん作 を読んでいる。
当時、泣きながら歌っていた。
何度も何度も、言い聞かせるように。
歳の近い妹とは、マイルドに言うと昔からうまくいってなくて
どこなら彼女を預かってもらえるかという議論はいやでも耳に入ったし、
制服姿の大人や書類なんかが、しょっちゅう家に舞い込んできた。
そんな時間が5年ほど続いたある日。学校から帰ると
「早く警察を呼んで!殺される。お願い」とまた誰かが叫んでいた。
少しして、知り合いのお巡りさんたちがやってきた。
救急車もきた。ブランケットを渡された。名前を聞かれた。
上手に漢字が伝えられなかった。生まれ年も答えられなかった。
「大丈夫だよ」って肩を叩かれて、それでもすごく悔しかった。
僕の家なのに、僕には目もくれず、そこらじゅうを歩きまわって、彼らは必死に何かをしていた。僕はそれを目で追いかけるのも疲れてしまって、食卓のそばで、ひとり膝を抱えて待っていた。
そして、彼らは何時間も知らない言葉で話し込んで、ときどき確認のために僕を呼んだ。
数日後、顔も知らないおじさんから告げられた。
「妹とは、死ぬまで一緒に暮らせないかもしれない。」
彼女の行動は際限なかった。
僕は、努めて笑っていた。
たくさんの傷跡を身体に抱えても、
思い出の品がひとつまたひとつと壊されていても、
僕には何もできなかった。
何もわからなかった。変えられなかった。
ただ存在して、それを眺めているだけだった。
状況はどんどん悪くなっていく。
逃げたかった。殺したかった。
一方、10年以上そばにいるんだ
これは思い込みでしかないかもしれない。そうに違いない。
だけど、
そんな妹でも、僕は愛していたし
妹が悪く言われるのは、あまり良い気分がしなかった。
この感情はおかしいんだ、って
言われなくてもとうに気づいていた。
でも、どうしようもなかった。捨てるには、大きすぎる感情だった。
そして僕は、彼女にも、少なからず
これと同じ心があるんじゃないかと期待していた。
大きさのほとんど変わらない体を背負えば、きゃっきゃと笑う。
彼女の望みとあれば、僕も気が済むまで付き合った。
僕の下手な料理を、望んで、隣でずっと待っていて、
それでいつの間にか僕よりうまくなってて。
僕の失敗を笑って、庇ってくれる妹。
お気に入りのポシェットを抱えて、僕の後ろを夢中でついてくる。
好き嫌いが激しくて、話の途中なのに気づいたら寝ている。
そんな夏がよく似合う黒髪の少女。
僕の認知が歪んでいたとしても、それは紛れもない事実だった。
僕と妹が、一緒に過ごした時間で、たしかに違いなかった。
ーー
「彼女も今は、いいお母さんで」とか
「伝えられるうちに伝えたかった」とか。
そんなオチはどこにもない。
これからもきっと起こらない。
この物語は、いつ終わるのか、はたまた終わったのか。
本を閉じることさえ、僕にはできない。
それでも、妹のことが好きだった。
心から愛していた。
[ タイトルは、星野源さんの楽曲「兄妹」からお借りしました]
もっといろんな環境を知りたい!!