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山陰に舞い降りるコハクチョウ

オフィスを構える鳥取県米子市に「米子水鳥公園」がある。島根半島に囲まれた宍道湖と中海があるが、この中海の一部が水鳥公園になっている。中海は西日本最大のコハクチョウの越冬地で、首に目印の緑のスカーフのような首輪をまいている白鳥を毎年観察していたら、7年も継続して飛来している「頭のいい」コハクチョウがいる、とTVのニュースになっていた。中海は干拓事業が進められ(最近突然公共事業見直し政策で中止されたが)コハクチョウのねぐらとなる浅瀬が減り飛来数も減ったらしいが、それでも毎年遠い北の地からやってくる。夜の時間帯はこの水鳥公園で眠る。野犬やキツネを襲われないため、だという。明るくなると安来平野にでかけていく。我が家では“安来レストランに飛んでくる”とこの現象を言っている。レストランには収穫時期に袋からあふれた米が散乱しており、豊富な食料が魅力とのこと。

 収穫後の田にあちこち肥料袋が置き忘れてあるのかと思ったら、おなか一杯になった白鳥の昼ね姿だったという話もちらほら聞こえる。こうした田の間の道を安来では「白鳥ロード」と名づけている。この道をドライブしてサンサーンスのチェロ曲の「白鳥」のメロディーのイメージさながらの姿をしたコハクチョウを観察した。
 観光案内にもある水鳥公園には足を運んだことがなかったので、1月に入ってから出かけてみた。時刻は夕方の5時少し前、レストランから帰る姿が壮観だというのでこの時間をねらった。いうまでもなく冬の真っ只中、深々と足元から冷え込んでくる夕暮れ、水辺で隣り合わせたおじさんと、白鳥の帰りを待ってみた。三脚に望遠レンズを装備したカメラを前に立っているカメラマンもいた。白鳥撮影のマニアらしい。
「あそこだ」というおじさんが指差す方向をみると、5羽のグループが雲の中から現れ、ゆっくりと孤を描く。そして水面をすべるように着水する。「また、だ」という声の方を振り仰ぐと今度は4羽のグループだ。大きく空をカーブし最初のグループより手前に降りる。首がすっくと伸び、白い羽を広げて飛ぶ姿は優美という表現が似合っている。
 この頃になると、戻ってくるコハクチョウを見ようと地元の愛好家が、軽トラックや自転車で次々にやってくる。毎日のことらしく、親しげにひそひそ声で「本日の帰還」について話している。もちろん米子弁だった。「こげな数がもう戻ってきたわい・・・」と水面の白鳥を指差す。「ほれ、あそこね」という誰かの声の方向を見上げると7羽のグループが隊列も美しく飛んでくる。
 気がつくと周囲は夕暮れから夜の闇に変っていた。
 白鳥の眠りを妨げないように抜き足差し足で車に戻っていく。
 ちなみに「こげな」という言葉は「このような」の意味。けっして白鳥がこげて焼き鳥になったのではない(笑)

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