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第3章 始動 ⑤「叶わぬ約束」
この日の聞き取りは2時間だった。
勲さんは、本当にたくさんのことをお話してくださるのだ。そして何より、知識の多さに驚いた。ご自身の被爆体験や平和への思いだけではなく、核兵器そのものや核問題を論じながら縦横無尽に話を広げる。
「これは自分も相当勉強しなければいけないな」と私はますますやる気になった。
聞き取りを終え、次回の約束をする時間になった。
「今度は、10月下旬にしようか。次は聞き取り形式ではなく、フィールドワークにしよう。常盤橋[1]あたりと、僕が生まれた家を案内するよ。時間は14時からでいいかな?お昼を食べて少しゆっくりしてからの方がいいな。どう?」
「それからさ、その2日後…中学生に講話をするんだよ。それにもぜひおいで」。
勲さんの講話を聴けることは、自分が講話をさせていただくうえで非常に役立つし、貴重な経験になる。私はフィールドワークと講話の聴講が楽しみになった。
***
帰りは、勲さんのご厚意でお車で送ってもらった。私の家は原爆資料館から2キロくらいの近場にある。家に着くまでの5分間を、他愛もない話をしながら過ごした。
「ここで降ろしたらいいかな?じゃあまたね」
「はい、今日もありがとうございました。また来月もよろしくお願いします」
―これが勲さんとの最後の会話になってしまった。
[1] 眼鏡橋の下流にあり、当初原爆が投下される予定だった地点。B29は長崎市街上空を旋回したが、雲がかかっていて原爆を投下できそうになかった。しかし、ここから北の方に約3キロ離れた浦上地区上空の雲が突如切れたため、原爆を投下した。