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ユーコン川を2人で下る④FIVE FINGER RAPIDSを越える

Carmachsのキャンプ場の管理人のお姉さんと話していると、僕たちが下っている6月初旬は、ユーコン川をカヌーで下る時期としてはシーズン初めで、水量が多いということがわかった。たしかにここまで来るのに砂州はあまりなかった。

お姉さんは、この先にあるFive Finger Rapids(五本指の瀬)を昨日車で見に行ったらしい。だいぶ水量も落ちついてきたという。1週間前は、まだ危険な感じだったそうだ。Rapids(瀬)のそばをハイウェイが通っていて、物見台まであるらしい。

Five Finger Rapidsは、野田知佑さんの本にも書かれてあったこの川旅の難所。僕は中学生の時からその存在を知っていた。
このRapids(瀬)に関する限り、皆の言うことはひとつ。
「Keep Right(右側を行け)」

6月10日 10時30分 いい天気。出発。緊張MAX。
この日は、Rapidsを越えるまで写真を撮る余裕がなかった。

下は、10日のキャンプ地で書いた川地図のメモ。
赤丸がFive Finger Rapids。
青丸が僕たちが見た景色とその下にRapidsの概観を描いている。

僕らは2つ手前のコーナーから、ずっと右側を漕いでいた。Rapidsの一つ前のカーブに来た時、右側の岸に何人かの人が座っていて、ツアーガイドが何か説明をしていた。声をかけられたので手を振ってにっこり笑って通過する。顔は引きつっていたと思う。

そして、川は左に曲がっていく。
すると川の中にそびえる岩壁群が見えてきた。
どうやらその岩壁の間を川が流れているらしい。

ぎりぎりKeep Rightで進む。流れが深く少しずつ速くなってきた。

最初は右側にある瀬の入り口がほぼ見えなかった。で、右端は岩壁で水路はないのかと思っていた。
スターン(船尾)で方向を操作する僕は、Keep Rightしながら、そのとき見えていた左側の波が立ってるところに行くのではと思った。 ※青丸メモの1番上

「瀬はあっち(左方向)か?あそこに行くんやったらフネ、ここらへんで真ん中よりにせんと難しいけどな。」
「でもKeep Rightじゃなくなるよ。」
「せやな。でもこのままやと岩壁に突っ込んでいくけどな。行けるんか?」
この時左に寄らなくてよかった。寄ったらピンチだった。

この会話の後、右側ぎりぎりをしばらく漕いでいたら、方向は変えられない位置まで来た。もうこのまま行くしかない。


すると岩壁の間からRapidsの入り口が見えてきた。※青丸メモの真ん中


「見えた!あそこ!あそこ!」
バウ(船首)で漕いでいる妻が叫んだ。

岩壁と岩壁との間に白波が見えた。

Rapids(瀬)だ。

どんどん近づいていく。
流れが急に吸い込まれていくように速くなった。

「いくぞー!漕げ漕げー!」

真ん中からRapids(瀬)に突入。

フネがバウンドする。前と横から水をかぶる。


瀬の途中で、左からの流れと合流しフネの向きを変えられそうになり、その直後、右岸壁の反発した流れで、今度は反対側に向きを変えられそうになるのを漕いで耐える。
とにかくフネが流れに対して横に向かないように、左右にパドルを入れながら必死で漕いだ。


長く感じたけど、多分1~2分くらいだと思う。
気がつくと流れが緩やかになり、瀬を抜けていた。
妻とハイタッチ。
フネの中は膝くらいまで水が溜まっていた。
鍋を出して2人で水を掻い出した。
笑顔で。

やっぱり、Keep Rightだった。
左にいきたくなるのを我慢しろよ。人のアドバイスはちゃんと聞けよ。
ということなのかもしれない。

youtubeでFive Finger Rapidsを探すと、High Waterのときの動画はなかなかなかったが、2022.6.22にスタートしたユーコンリバークエストに参加したカヤックチームの動画を見つけた。僕たちの持つFive Finger Rapidsの記憶は、こんな感じ。

ユーコンリバークエスト2022のRapidsの上からの映像。下から見えていた物見台からの映像だ。これはカヌー。



抜けてほっとしています
FiveFingerの次にあった小さな瀬。いつのまにか通り過ぎた。

その日は、Jacob's Landing(ヤコブズランディング)という使われなくなった貨物船が置いてあるキャンプ地にテントを張った。

少し高台に設置したキャンプで、2人で乾杯して夕ご飯を食べた。
安堵感と達成感でテンションは高かった。

後はひたすら漕ぐだけだ。

白夜の空は明るいままだ。

ヤコブズランディング、使われなくなった貨物船がある

翌日、そのヤコブさんのお孫さんがその貨物船を見に来たのだった。
彼は、この貨物船を使えるようにして、ユーコン川の運送業をしようとしていた。彼の祖父がしていたように。

ヤコブさんは、整備士を一人連れてきていた。彼は重そうな鉄の扉を開けて機関室にもぐりこんでいった。ヤコブさんに僕も見せてもらっていいかと聞くと、いいよと言われたので、中をのぞくと、そこにはどでかいVOLVOのディーゼルエンジンがあった。

整備士はヤコブさんと状態について話しながら、機関のチェックをしてまわり、重油をジョウゴで注いだ後、持参したバッテリーをつないでスターターを回した。
すると、ばかでかい金属音と共にVOLVOのエンジンは始動したのだった。

彼らはユーコン生まれのユーコン育ち。
僕にはユーコンの男たちの夢の音がしたように聞こえたのだった。

そして、ヤコブさんたちが帰った後、僕らもJacob's Landingを出発した。

空はずっと明るいまま。

続く

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