山ペンギン 33 侵略?
イマドを拾った山に主任と女神と一緒に来ている。
「すがすがしいわね!!」
昨晩雨が降り、ぬかるんだ泥に足を取られたオレも同意する。
「・・・そうっすね。」
「あれはなんでしょう。」
なぜかオレの家から同行している女神さまが空を見上げて言う。
忘れられているとは思うが、女神さまの本拠地はこの山にある泉だ。
「・・・UFO?」
見ているとどんどん光のようなものが近付いてきて、大きくなってくる。
「UFOだ・・・。」
大概のことには驚かなくなっているオレもさすがに身構える。
「侵略かもしれませんわ。」
動揺した声で女神さまが言う。
アンタ、この星守ってるんじゃないのかよ・・。
「オレ君、これ武器にならないかしら!」
主任が長い竹を切り出し、竹やりを作って持ってきた。
いつの時代から生きているんだ・・・。
「わたくし、歌って応援しますわ!」
援護と言わなかったことが気になったが、きっと歌に神力を込めて攻撃するのだろう。
ヤリに関しては・・・女性2人の手前、オレが(無意味でも)やるしかないだろうな・・
UFOに向かって(届かない)竹やりを突き出す。
女神さまの歌声が聴こえる。
「竹やり、つっきーつっきー、がんばれつっきーつっきー」
「・・・全面的に降伏します。」
ヒットポイント0になったオレはUFOの真下でうなだれた。
UFOはオレの真上付近にとどまり、光の輪が地上に降りて、その中に人影が見える。
いや・・・人影というよりトリ影!!??
「アナタ方何をなさっていたのです?」
・・・恥ずかしくて言えない。
宇宙からのお客さんは、猛禽を人型にしたような姿をしていた。
「あの、私たち、侵略なんて全く考えてないのですよ・・」
こちらは顔から火が出る思いだ。
「よく誤解されるのですが、なぜ他の天体から誰かが来ると侵略だとこの星の方は思うのでしょうか・・・」
「なんで、でしょうね・・・」
「よく考えてほしいのですよね・・。この星のように辺境で、他の星と交流ないどころか、星の統一政府もなく、交渉窓口もなくて、」
さりげなくdisられているが、大人しく聞く。
「エネルギーに関してはあれほど巨大でさらに無尽蔵なエネルギーを持つ太陽は利用せず、なぜか有限の化石燃料を利用して、」
返す言葉がない。
「そのわずかで有限な化石燃料で経済がコントロールされていて、しかも、エネルギー問題も関与する領土問題を、極めてせまい他国への侵略で解決しようとして、全く生命体もなく環境コントロールすれば移住可能なはずの同一太陽系の他の惑星には何の関心も持たず、」
もうやめてください。
「他星系の生命体が来ると侵略と考えるのはどうも短絡な気がするのですよね。正直メリットはないですし、なんなら統治に使うエネルギー(化石燃料ではないようだ)面でデメリットしかない。」
「未だに貨幣経済なのもすごいですしね。」もう一人が相槌を打つ。
「所有に価値を抱く概念も理解できない。面倒なだけなのにな・・・。」
「よそからお越しになる方を見ると地球にお住まいになりたいのだろうか、とか考えてしまうのです。」
女神が代わりに答えてくれた。
「借りに私たちが地球に移住したいとしましょう。すでに人が住んでいる地域を攻撃するのはいくらこちらに科学的技術の発達があったとしても、かなりの消耗を強いられますよね。」
確かに仰る通りです。その消耗戦を何万年も繰り返しています。
科学技術がどのレベルかはこの星に来たこと、オレたちと日本語で流暢にコミュニケーションが取れていることとで理解できる。
「そんなことするくらいなら、私たちの技術で砂漠の無人部分を緑化して、その見返りとして土地の一部を私たちに居住区に貸与してもらうことを交渉しますよ。」
確かに。
「でもまあ、なんでこの星に来たかは気になるよね。」
イマドが介入。そのとたん
「ペンギンがしゃべった!!!!」
「その鳥類は南極とかに生息するペンギンですよね!!」
地球の面々が当たり前のように受け止めていたイマドに対して、異星人(?)の彼らのほうが常識的な反応をしている。
動揺のあまり、さえずるような言葉で(おそらく自星の言葉で)何かを言っている。
いや、しかし、彼らの見た目はタカか、ワシが両手両足を持ったような姿で、むしろイマドと同じタイプに見える。
「驚きました。地球は哺乳類が進化していわゆる人類になっていると聞いていたので。鳥類進化もあったのですね。」
「宇宙の大半は鳥類進化で、哺乳類進化の地球はめずらしいのです。なので実はそれを観察目的で来星しました。観光も兼ねています。」
「普段は光学迷彩で哺乳類進化型の人間に見せかけて居住区を観光するのですが、今回は私たちの船(船というんだ)をごらんになったのでごまかさなくてもいいかと思って、そのままの姿で現れたのです。」
「視力よさそうですよね!!」
ここでも主任の天然は爆発した。
「はい。裸眼でこちらの人間の測定方法で6.0はありますよ。」
猛禽と同じように目がいいようだ。
「とりあえず」と言って、地上に降り立った彼らはこちらで言うイケメンの2人組に変わり、
「それでは観光に向かいますね。」
と山を下りて行った。
UFOも光学迷彩で空に溶け込むように周辺の景色にまぎれたようだ。
オレたちはそれを見送りながら
「宇宙の大半は鳥類が進化した」という言葉を反芻していた。
イマドのルーツが少し分かりかけてきた気がした。
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