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三大怪魚 アカメを狙う人たち
私の師匠はアカメを狙って毎日釣りをしている。
アカメ釣りの主流は「泳がせ釣り」でフィッシュイーターであるアカメをおびき寄せるために、針に他の魚を付けて泳がせて釣る。
基本的には「待ち」の釣りで、アカメがいれば釣れるかもしれない、という一見まったりした釣りだ。
泳がせに使う魚もコノシロだったり、ボラだったり、場合によってはチヌと呼ばれるクロダイを使う。
見た目には運だけで釣るような釣りだが、やはり1m20㎝を超える巨大魚を狙うだけあって、それぞれの釣り人はかなりの腕前だということを実感することが先日あった。
私は海釣りは食べるための魚が主体だし、1m20を超えるような巨大魚はフッキングは可能かもしれないが、釣り上げる腕など持ち合わせていない。
なので、周りがアカメを狙っている真ん中でちんまりコノシロを狙ったりしていた。
アカメ名人の一人がそれを見ていて、「あ、エサに釣ってた魚、持って帰る?余ってるから。」とくれたのが、クーラーにも入りきらない、80cmくらいのシーバスだった。
「エサにしようと思ったんだけど、何匹もいらないから。」とくれたのだが、80cmクラスのシーバスは狙っている人でもなかなか釣れない。
さらに別の日にはこの人は「あ、釣りにきたの?待ってて待ってて!」といきなりヘチ釣りを始めた。
「今回エサにしてたチヌが釣れると思うから。」とこともなげで、実際一匹チヌ=クロダイをいただいてしまった。
釣りをする人はご存じだろうが、片手間にクロダイは釣れない。狙って狙って釣る魚で、まして釣れた後は「泳がせのエサ」などにはしない。
つまるところ、彼らは釣りの「最上級者」であって、ただ、そこにただずんで海を見ながらエサまかせの釣りをしているわけではない。
この方は私がボウズで帰宅するのではないかと自分のアカメ釣りそっちのけで心配してくれていて、私はとても「おもしろそうだからコノシロチャレンジに・・・」などと言えなくなった。
他のアカメ釣りの人たちは、かなりの高さの石垣でできた突堤で「アカメがかかった!」という人がいるやいなや、全員、滑り止めは付いているとは思うのだが、サンダルで石垣の石にひょいひょい足をかけながら、こともなげに降りていき、フッキングした人のアカメを陸に挙げるのを手伝っていた。
私がそこを降りるとしたら、両手両足を一つずつ石にかけて少しずつ降りなければ不可能だったが、彼らは足元も見ず、安全な階段を下りるがごとく降りて行った。
つまりはそこに居た全員がかなりの釣りのベテランだと言うことだろう。
当たり前だが、アカメを釣ることは非常に難しい。
そこに居た人たちは西日本のほかの地域から集まってきた人たちで、三大怪魚を追い求めるいわゆる「釣りバカ」の方々だ。
いつもきさくに話してくれて、釣り上げたとしても特に自慢もせず、大きさを測ったら、タグをつけてすぐ放す。
うんちくを語るでもなく、ある意味自己満足のためだけに釣っている。
私は少し離れた場所でひたすらにコノシロを釣っていたのだが、食べきれない数釣ってしまい、猫が喜ぶのをいいことにたくさん食べさせていたら、それが原因か、一匹尿路結石になってしまい、大事になった。
それ以来、コノシロを釣りに行くことはなく、アカメを釣っている場所にも
長居はしていないが、
多分、みなさん、粛々とアカメを狙っていることと思う。
私はここだけの話だが、泳がせという残酷な釣りをしたくなくてアカメ釣りにも興味を示さないのだが、そもそも釣りという行為自体が残酷なのであって、自己嫌悪を感じることもしばしばである。